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「適切なグローバル化」の実態
《環大西洋貿易投資パートナーシップ》TTIP の手ほどき
ラウル・マルク・ジェンナー*
ルノー・ランベール**
*『環大西洋統一市場・ヨーロッパの人々に迫る脅威』(未邦訳)の著者
Raoul Marc Jennar , Le grand marché transatlantique.
La menace sur les peuples d’Europe.
** 本紙副編集長
訳:ア山章子
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フランスのフルール・ペルラン対外経済担当相によれば、環大西洋協定のプロジェクトをめぐる議論は「不必要な不安を引き起こす」というような紹介のされ方をしているという。それでは、実際に何が問題なのだろうか? そして、人々にとって何がリスクになるのだろうか?
[フランス語編集部]
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[《環大西洋貿易投資パートナーシップ》はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大西洋版である。フランス語でPTCIまたはTafta と呼ばれることが多いが、本記事中ではすべてTTIPと表記する――訳者]
表向きには何をさしているのか?
TTIPは、2013年7月に協議が開始されたアメリカとEUとの間の自由貿易協定のことで、8億人の消費者を擁する世界最大の市場を創出することをめざしている。
経済政策研究センター(CEPR)は複数の大銀行から資金を得て運営され、欧州委員会が「独立機関(原注1)」と表現している組織だが、このCEPRの調査によれば、この協定によりヨーロッパにおいて毎年1200億ユーロ、アメリカでは950億ユーロの「富の増産」効果があるとされている(原注2)。
この自由貿易協定は世界貿易機関(WTO)の後押しを受け、関税障壁(原注3)を下げるだけではなく、いわゆる《非関税》障壁の縮小をめざしている。非関税障壁とは関税割当制・行政上の手続き・保健衛生や科学技術、社会保障に関する法規などのことである。交渉関係者の言を信じるならば、このプロセスは労働条件や法規範の全般的強化をもたらすらしい。
実際には何が問題なのか?
WTOは、1995年の設立以来、世界経済の自由化の実現に大きな役割を果たしてきた。しかし《ドーハ・ラウンド》[訳注a]の挫折(とりわけ農産物の問題において)以来、交渉が行き詰まっている状態である。そのために、自由貿易の促進を継続する《遠回りの戦略》を重視するようになった。このことによって二カ国間や地域間で数百の協定が結ばれた。または採択の途中である。TTIPはこの作戦のもたらす結果について次のような構想を抱いている。すなわち、二大経済勢力(世界の富のほぼ半分を生産する)が手を結べば、彼らの措置を世界中が結局は受け入れざるを得ないだろうということだ。
交渉におけるヨーロッパ側の義務やアメリカ側当局者が示す期待の範囲は広く、TTIPは「単なる」自由貿易協定の枠を超えている。具体的には、この条約には3つの主たる目標が定められている。第一に関税権を削除する。次に《非関税障壁》を減らす。そのために各国の規範を一致させる(これまでの自由貿易協定の経験により、規範の一致は「低い方に合わせて」実施されると考えられる)。三番目に投資家に法的手段を与えて、自由貿易を妨げる規則・法の障害を取り除くことを可能にすることである。要するに、《多国間投資協定》(MAI)(原注4)や《偽造品取引の防止に関する協定》(ACTA)(原注5)によって既に規定されているいくつかの措置を課すことである。しかしこの二つの協定はいずれも民意によって拒絶されている。
この計画はいつ実行されるのか?
正式な日程どおりに進めば、交渉は2015年に成立する。このあと、EUの理事会と議会における長い承認のプロセスが続く。それから欧州連合条約が定めるとおり各国の議会の批准がおこなわれる。フランスでも同様である。
誰が交渉するのか?
ヨーロッパ側は欧州委員会の官僚が行う。アメリカ側は財務省の役人が担当する。彼らの大半は、民間分野の利益を代表するロビー団体からかなりの圧力を受けるだろう。
各国はどんな影響を受けるのか?
TTIPの予定では、参加諸国の現行法をこの自由貿易協定の規則に従わせることを見込んでいるが、こうした自由貿易の規則はほとんどが大企業の意向に沿うものだ。この協定を通じて各国は大幅な主権の放棄に同意することになるだろう。実際、例えば自由貿易の方針に違反すれば、数千万ドルに上るかもしれない経済的制裁を受ける可能性がある。
EUの提起した条文によると、この取り決めは「ヨーロッパの投資家に対して、考え得る最高水準の法的保護と保証をアメリカに与え」(逆も然り)なくてはならない。具体的に言えば、私企業が公共工事受注や投資活動において、法律や規則が競争の妨げになっているとみなせば、その法律や規則に異議を申し立てることができるのである。
条文の第4条は「当協定は統治の全レベルを拘束する」と明示している。つまり国だけではなく、地方・県・市町村などの全ての地方自治体に適用されると言ってよい。ある市町村の条例が異議を申し立てられれば、もはやフランスの地方行政裁判所ではなく、国際仲裁裁判所の扱いになる。それを可能にするためには、例えばある投資家が、ある法規によって「その人が希望する物・場所・時・方法において投資する権利、あるいは望みのままに利益を得る権利(原注6)」が侵害されていると考えるだけで十分なのである。
TTIPの修正は全調印国の同意が不可欠なので、そのためには各国の政治の推移とは無関係にTTIPが強制される。
これはアメリカがEUに押し付けている計画なのか?
全くそうではない。EU28カ国の政府の同意を得た欧州委員会は積極的にTTIPを推奨して自由貿易主義に賛同している。しかもこの計画は《大西洋ビジネス・ダイアログ》(TABD)のような大企業経営者の組織にも支持されている。この組織は1995年、欧州委員会とアメリカ商務省の後押しを受けて創設され、これまで《環大西洋ビジネス会議》(TABC)として知られていたが、アメリカとヨーロッパの経営者らの「実りのある対話」を奨励してきたのである。
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原注
(1) « Transatlantic Trade and Investment Partnership. The economic analysis explained », Commission européenne, Bruxelles, septembre 2013.
(2) 同書
(3) 外国製品が通関時に課せらせる関税
(4) Christian de Brie, « Comment l’AMI fut mis en pièces », Le Monde diplomatique, décembre 1998.
(5) Philippe Rivière, « L’Accord commercial anti-contrefaçon compte ses opposants », Le Monde diplomatique, juillet 2012.
(6) アメリカン・エキスプレスのCEOが投資家の権利について与えた定義。
訳注
[a] 貿易障壁を取り除くことを目的としてWTOが関与している多角的貿易交渉。2001年カタールのドーハで開始された。
(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年6月号)
All rights reserved, 2014, Le Monde diplomatique + Emmanuel Bonavita + Sakiyama Akiko + Ishiki Takaharu
http://www.diplo.jp/articles14/1406ttip.html
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