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[核心]中東の安定志向と閉塞感
利害と連携は複雑に 本社コラムニスト 脇祐三
エジプトで、昨年夏に軍の力でモルシ政権を倒したシシ前国防相が、選挙に圧勝し大統領に就任した。シリアでは、アサド大統領が選挙で国民の信任を得たと主張する。各国の国民の多くは混乱が続くのを嫌い、とりあえず社会が安定してほしいと考えるようになった。時計の針は「アラブの春」が始まる前に逆戻りしたようにもみえる。
イラクでは4月の議会選でシーア派のマリキ首相の与党が第1党になった。しかしスンニ派やクルド人勢力との対立が深刻なうえ、他のシーア派勢力からの批判も強まり、3期目の政権発足のメドが立たない。政治の空白に乗じてイスラム過激派が地方都市を相次いで制圧するなど、国家分裂の危機に陥っている。
過激派はシリアの内戦で活動の場を広げた。その脅威がいかに深刻かは、イラクの危機が如実に示す。米欧も中東に広がる国家破綻のリスクを意識し、現実的な対応を考えなければならなくなりつつある。
「暴力に訴える者に甘い姿勢はとらない」。シシ・エジプト大統領は8日の宣誓式で治安重視の考えを強調した。抑え込みの対象は、モルシ政権排除に激しく抵抗したムスリム同胞団だけではない。2011年にムバラク政権打倒を先導した若者グループもすでにデモを規制され、一部リーダーは投獄されている。
「平和な手段による異議申し立てまで禁じるのはムバラク時代と同じ発想だ」と作家のアラーア・アスワーニ氏は批判する。とはいえ、シシ政権を支持する声は若者の間でも多数派だ。
「重要なのは国家の立て直し。若者が職を得るためにも、政治と経済の安定は欠かせない」。民主化運動の闘士だった旧知の若手弁護士は、今そう語る。
宣誓式に列席したサウジアラビアのサルマン皇太子は、「混沌から脱し、安定へ向かう節目だ」というアブドラ国王のメッセージを伝えた。サウジを中心に、アラブ首長国連邦(UAE)やクウェートといった君主制の湾岸産油国がエジプトを支える構図は鮮明だ。
宣誓式に欧米の閣僚級以上の要人の姿はなかった。クーデターを認めたとみられたくないからだろう。米政府代表のシャノン国務長官顧問は、この数カ月、エジプトやサウジなどを往来し、米国との政策調整に当たってきた人だ。
オバマ米大統領は10日、シシ大統領に電話で就任祝いを伝え、政治・経済・社会の改革と人権などの尊重を求めると同時に、共通の利益のための戦略的な連携推進を確認したという。援助を一部凍結していた米国がエジプト支援拡充に転じることを示唆している。
国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事もシシ氏に支援の用意を伝えた。米国もIMFも重視するのはエジプトの早期安定だ。
イスラエルのネタニヤフ首相も、シシ氏と電話で関係改善について話し合っている。シシ氏はイスラエルとの安定した関係を望み、パレスチナのガザを実効支配してイスラエルに抵抗を続けるハマスへの締め付けを強めていた。
孤立するハマスは、パレスチナ自治政府を主導するファタハと和解し、2日に約7年ぶりの統一内閣が生まれた。イスラエルはこれに反発、4月に中断した中東和平交渉の再開はさらに遠のいた。一方で、エジプトとの関係が安定すれば、イスラエルの安全保障にとってメリットは大きい。
問題はシリアだ。内戦で優位に立つ政権側は、3日の大統領選でアサド大統領が3選されたと発表した。欧米や反体制派は選挙の正統性を認めない。だが国民の多くは、アルカイダからも破門されたような過激派を含む反体制勢力より現政権のほうがましと考える。
高岡豊・中東調査会上席研究員は、(1)欧米が軍事的な支援を多少増やしても政権打倒の展望はない(2)アサド政権拒否に固執する欧米の現実離れした姿勢が交渉による紛争解決の障害になっている――と指摘する。
米国はロシアや国連と協議を続けて政治解決を探るというが、ウクライナ問題をめぐる対立もあり米ロの協調には期待しづらい。
ロシアとともにアサド政権を支持してきたイランの出方はどうか。核開発問題をめぐる協議では、米政権もイラン側も包括合意をなんとかまとめたいと考えている。ところが、シリアについては協議が進まない。
イランで核開発問題に関する交渉権限を与えられているザリフ外相は、「シリアについては議論したり交渉したりする権限がないと米国に伝えた」(サキ米国務省報道官)という。
イランでシリアについて権限を持つのが革命防衛隊のような対外強硬派だとすれば、外交ルートでの問題打開は不可能に近い。米政権とイランの歩み寄りにサウジが不信感を示す一因はこのあたりにもある。
シリアの反体制派に肩入れしてきたサウジも、サウド外相が9日にラブロフ・ロシア外相と電話で話し合うなど、対応にやや変化がみられる。それでも、アサド政権の存続を拒否する姿勢は欧米以上に強い。
オバマ政権の中東政策は、状況後追い型のつぎはぎの繰り返し。エジプト支援ではサウジとの連携が復活しそうだ。これも民主化推進の期待には沿わないだろうが、より大きな閉塞感はシリア内戦収拾の展望がまったく開けないことだ。
[日経新聞6月16日朝刊P.4]
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