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時論公論 「ウクライナ危機 米・欧・ロシア 次の一手は」
2014年06月12日 (木) 午前0:00〜0:14
石川 一洋 解説委員 / 高橋 弘行 解説委員
(高橋)ウクライナをめぐるアメリカとロシアの対立は先週、様々な展開がありました。ロシア不在で行われたG7でのロシア非難、しかしその直後のノルマンディー上陸作戦70周年式典ではプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ新大統領、そしてオバマ大統領らが顔をそろえました。さらにポロシェンコ大統領は7日正式に大統領に就任しました。
今夜は、ロシア担当の石川委員とともに、この一週間にアメリカ・ヨーロッパ・ロシアの外交を読み解きながら、果たしてウクライナ情勢はどうなっていくのかを次の3点に絞って考えます。
1 G7は対ロシアで一致したのか、
2 新大統領就任後のウクライナは
3 “ノルマンディー”後の米ロ
(高橋)ひとつひとつのポイントに入る前に、この一週間の動きをアメリカはどう見ているのかといいますと、やはり何と言っても、プーチン大統領とウクライナのポロシェンコ新大統領の初めての接触が、短い時間ながらはかられたことはアメリカにとっても非常に歓迎すべき成果でした。
しかし一方で、アメリカとしては、ロシアと対決姿勢を続けざるを得ず、ロシアとの対立を緩和したいヨーロッパとの違いが非常に目立ってしまった一週間だったと思います。
(石川)プーチン大統領にとってはヨーロッパとの間で出口戦略について共通理解が得られ、ウクライナのポロシェンコ大統領との間で対話の糸口を掴めたことが成果としているでしょう。ウクライナ危機全体でいえば、親ロシア派の武装勢力との戦闘が続く東部の状況で、初めてウクライナ・ロシアの交渉が始まり、停戦という光が微かに見え始めたことに注目しています。
パート1 G7は対ロシアで一致したのか
(高橋)それではまずロシア抜きのG7は何を合意したのか見てみましょう。
●ロシアのクリミア併合は不法
●東部ウクライナの不安定化は受け入れられない
●武器および武装勢力の流入阻止を
●必要とあればさらに制裁を強化する
(高橋)ここにありますように、G7メンバーはともに、クリミア併合は、今後も受け入れられないという点は確認しましたが、この合意の最大のポイントは4点目の「必要とあればさらに制裁を強化する」です。ここは実はアメリカとしては、本来の案としては、さらに強い言葉で、制裁強化をより明確に打ち出したかったところなのですが、ロシアとの対立を回避したいドイツとフランスに押し切られました。G7はアメリカの強硬な姿勢と、ヨーロッパのロシアとの対話重視の姿勢の違いが際立つ結果となりました。
(石川) 何故オバマはそうまで強硬なのか?
(高橋)ひとつには、プーチン大統領の動きを読み切れていない点があると思います。ウクライナの政変後、プーチン大統領に電光石火でクリミアを併合されてしまい、アメリカは西側のリーダーとして非常に威信を傷つけられたわけです。ただG7の合意で「クリミア併合は許さない」と言ってはいますが、現実問題としてではクリミアがウクライナに戻るかといえば現状では非常に考えにくい。しかし一方でオバマ大統領は、当初からこの件について武力行使はしないと明言していますので、結果としてアメリカとしては、制裁強化しか打つ手がないわけです。
もう一つはアメリカの国内世論です。既に国内では、オバマ外交は「弱腰で決断力がない」という評価が共和党の攻撃などもあって定着しつつあります。オバマ大統領としては、今年11月の中間選挙前に失地回復を狙いたいということもあったものとみられます。
(石川)期限を設けてロシアに行動を迫り、しなければ制裁だ、というアメリカのいわば制裁強化の道筋はヨーロッパの反対で受け入れられなかったことにロシアはホッとしています。プーチン大統領は、オバマ大統領の使者役だったキャメロン首相を除きオーランド大統領とメルケル首相とは対話の重要性で一致しました。対話を呼びかける欧州へは柔軟な姿勢を示し、アメリカとの間に楔を打ち込みつつ出口戦略を探っています。
というのもロシアとしてもこれ以上東部ウクライナに入り込めば泥沼に陥るからです。対話による平和的解決という独仏の路線はプーチン大統領にとっても助け舟ともいえます。
高橋 そうした舞台をおぜん立てしたのが、フランスで6日に行われたノルマンディー上陸作戦70周年式典です。第二次世界大戦中の連合軍による有名な上陸作戦の式典ですが、アメリカ・イギリスといった連合国側はもちろん、ロシアも当時ドイツと戦った連合国の一員として参加。さらに上陸作戦をやられた側、敵国だったドイツも10年前の60周年式典から式典には参加するようになっています。式典は単なる「連合軍の上陸作戦の成功を祝う場」から、「世界大戦の悲惨さをかみしめ不戦を誓う場」に変貌している感があります。そうした場で、各国の外交が展開されたわけです。
(石川)プーチン大統領には第二次世界大戦の歴史を思い起こさせる狙いもあったのでしょう。ノルマンディーの前に、レニングラード、スターリングラードなどロシア人、ウクライナ人など多くの民族を含むソビエトの兵士や市民の血と肉によってナチスドイツの打撃に耐えてきました。ロシアとウクライナはソビエトの一部として多大な犠牲を払ったという思いをポロシェンコ大統領とは共有したかもしれません。そうした犠牲の上にノルマンディーがある。オバマ大統領には米ロはかつて同盟国であったという事実を想起させることで態度の軟化も狙っているのでしょう。
パート2 新大統領就任後のウクライナは
ポロシェンコ大統領「ウクライナはヨーロッパへの統合を目指す。EUとの連合協定を早期に調印する」
(高橋)続いては「新大統領就任後のウクライナは」。ウクライナではポロシェンコ新大統領が就任、ノルマンディーではプーチン大統領とも短く会談しました。欧米にとっては、この新大統領就任は、大変重要な意味がありました。二月の政変・革命後初めて合法的な政権が生まれたことになるからです。このためG7でも、ロシアへの制裁で意見が割れたものの、ウクライナ支援は一致して全面支援が決まりました。
(石川)ポロシェンコ大統領の強みは二つ、一つは国民の投票によって選ばれた大統領としての強い権威、合法性を持っているということ、もう一つは様々な政権の中枢に座り、ロシアや親ロシア派も含め幅広い人脈を持つ老練な政治力です。
国の大きな方向性はこれまでと全く同じです。ヨーロッパへの統合を目指し、クリミア併合を認めず、ウクライナの統一を回復するという姿勢を明確にしています。
ただ注目すべきは停戦を初めて実行目標として掲げたことです。ポロシェンコ大統領は「東部の停戦実現」安定化に向けて「ポロシェンコ・プラン」を実行に移すとしています。詳しい中身は明らかになっていませんが、
●平和の提案を掲げて東部を訪問し、停戦を早急に実現する
●ロシア語を地域の公用語とするなど親ロシアの東部の特徴を尊重する
●地方に権限を移譲する地方分権を提案し、東部と対話する
●東部で住民に選ばれた正当な地方権力を確立するために選挙を実施する
などと見られています。
(高橋)アメリカとヨーロッパはロシアにポロシェンコ新大統領を早く正式に承認するよう求めていますがロシア側はこうしたポロシェンコ大統領の一連の動きを果たして評価しているのでしょうか。
(石川)プーチン大統領もウクライナ国民の選択を尊重するとして新大統領と対話の用意を表明しています。召喚していた在ウクライナ・ロシア大使をキエフに戻し、就任式にも出席させました。事実上の承認とも言えます。
しかし本格的なプーチン・ポロシェンコ会談の実現には、ウクライナ新政権が東部での軍事作戦をまず先に停止することを条件としています。
(高橋)冒頭にも言いましたように、アメリカは今回、ノルマンディーでプーチン大統領がポロシェンコ大統領と会ったことを評価して、このままロシアが新政権を承認してくれればと期待しています。しかしオバマ大統領、プーチン大統領には根本的に信頼を置いていません。実際に今も、ロシアからウクライナ東部への義勇軍の侵入、あるいはロシアからの武器の流入などが疑われているからです。
(石川)東部ウクライナの状況はこれまで悪化の一途をたどり、残念ながら今も変化はありません。確かにロシアに大きな責任があります。ロシアも武器や武装勢力をウクライナ国内に流入させないことなど具体的な措置を取る必要があります。
希望が持てるのはウクライナ、ロシア、ヨーロッパの間で停戦に向けた三者協議が始まり、ロシアも和平に向けたポロシェンコ計画を基本的に支持しています。ロシアの駐ウクライナ大使はポロシェンコ大統領と個人的に親しいということで、8日も長時間にわたって大統領直接と停戦に向けた話し合いをしました。ロシアとウクライナの直接の交渉が始まったことが重要です。
プーチン大統領も国境警備の強化を命じましたが、今後武装勢力に武力を放棄して交渉に応じるよう影響力を行使するかどうかがカギとなるでしょう。
(高橋)今後のウクライナの安定のために国際社会は何をすべきでしょうか。
(石川)ポロシェンコ大統領就任が停戦に向けた大きな転換点になる可能性があります。この機会を逃してはなりません。
停戦に向けた「ポロシェンコ・プラン」実現を国際社会は支援し、その実現にロシアも関与させるべきでしょう。制裁が目的ではなく、ウクライナの安定化、流血の停止が目的だからです。
パート3 “ノルマンディー”後の米ロは
(高橋)アメリカは、クリミアのロシア併合を「力による現状変更」だとして認めないのが大原則ですので、簡単にロシア制裁を終わらせられません。またヨーロッパほど制裁に対する悪影響もありません。アメリカにとってロシアとの貿易額はわずかなものです。また国内世論も対ロシアで融和を望む雰囲気はないので、ロシア側が何らかの歩み寄りをしない限りは、ロシア強硬策を降ろせず、それは出口戦略もまた描けないということです。
(石川)私が注目しているのはロシアの国民意識の底流で起きている変化です。
アメリカへの否定的感情が大幅に増加しているのに対して、中国への好感度は大きく上昇しています。アメリカとの関係がウクライナ危機前に戻ることはなく、冷たい平和、仮想敵の状況がしばらく続くでしょう。国民感情も受けてプーチン大統領は中露関係の強化という形で東への展開を進めています。中国との関係強化がどこまで進むのか、日本としても注意深く見守る必要があります。
ただ資本流出や新規融資の先細りという形でじわじわとアメリカの制裁の影響もでています。力は落ちたとはいってもスーパーパワーのアメリカと敵対を続けるのはロシアにとっても得策ではありません。米ロというのは対立していてもどこかで戦略的な利益の一致点を見出してきました。プーチン大統領としても、世界のエネルギー安全保障など共通の利益を見出せる場でアメリカとの関係改善の模索を続けるでしょう。
(高橋)ロシアがクリミアを本当に手放す気がない以上アメリカも後には引けず、結果、ロシアの中国への接近という流れはある程度必然かと思われます。
ただヨーロッパも今は、天然ガスの確保など必要に迫られロシアに歩み寄ってはいますが、プーチン大統領の高圧的な外交が続けば、ヨーロッパ各国は特にエネルギー面で、ロシアとの関係を見直さなければならなくなります。欧米とロシアの距離が遠のき信頼感が薄れていくことは地域の安全保障の観点からも望ましいことではありません。今回はノルマンディーという過去の戦争の歴史が、対話の場をおぜん立てしてくれた形ですが、今後は各国が一層の努力で対話の方向に向いていく必要があると強く感じます。
(石川一洋解説委員/高橋弘行解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/190261.html
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