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2013年1月。退任を間近に控えたヒラリー・クリントン国務長官はオバマ大統領に個人的にメモを送った。関係者によると、米ロ関係は最悪の状況に落ち込んでおり、オバマ大統領が提案し、ロシアも歓迎した関係の「リセット」は終了したと警告する内容だったという。
ホワイトハウスの一部の幹部は大統領のロシア政策の要である「リセット」をどうしても捨てたくないと考えた。それから数カ月後、米国家安全保障局(NSA)の情報収集活動を暴露したエドワード・スノーデン元CIA職員にロシアのプーチン大統領が同国への亡命を認めたため、オバマ大統領はモスクワで予定されていた米ロ首脳会談を中止した。「リセット」がすっかり効力を失ったとは言わないまでも、本来の姿から逸脱していたことは明らかだった。
クリントン氏が大統領選に出馬した場合、国務長官としての経験に頼る可能性が高い。大統領宛てのメモからは、国務長官としてのクリントン氏の2つの際立った特徴が読み取れる。それはクリントン氏が多くの場合、当時のホワイトハウスよりもタカ派だったことと、いくつかの重要な場面で自分が意図する方向に政策を動かせなかったことである。
オバマ大統領とホワイトハウスの補佐官が外交政策を設計し、重要事項については決定権を握って離さなかった。クリントン氏の元同僚によると、同氏は確固たる意見を持っていたが、内部の会合でそれを強く主張することはなかった。
クリントン氏は今月10日に発売する回顧録「Hard Choices(困難な選択)」の中で、国務長官時代を振り返る。16年の大統領選への出馬がうわさされているクリントン氏にとって、販売促進活動の一環として行う全国ツアーは出馬に向けた足慣らしと言えるかもしれない。ツアーでは、国務長官時代に取り組んだ海外での米国のイメージの改善について語る。
国務長官としての実績を見ると、クリントン氏がいくつかの分野で事態を進展させたり、米国の経済的な利益を促進しようとしたことが分かる。しかし、全面的な和平合意を実現したり、国際社会を作りかえるような突破口を切り開いたりすることはなかった。
ボストン大学で国際関係学を担当するアンドリュー・バセビッチ教授は「(クリントン氏が)出馬する場合、履歴書の中で最も重要なのは国務長官の経歴」と話す。「しかし、成果としては、彼女の功績と言えるような具体的な業績や重要な戦略、創造的なアイデアを挙げるのが難しいという意味で、成績としては『成績の一時保留(incomplete)』を意味する『I』がふさわしいだろう」と語った。
シリア内戦については、クリントン氏は早い段階で、反政府勢力に武器を提供したいと考えていた。しかし、中東の新たな紛争に関与を深めることに慎重だった大統領に拒否された。米国の協力者だったムバラク大統領を退陣に追い込んだエジプトのデモへの対応についても、クリントン氏はホワイトハウスの若手の補佐官と対立した。
一方で、下院共和党は今夏、クリントン氏が国務長官だった12年に発生したリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件をあらためて調査する。米国人4人が死亡したこの悲劇は今でもクリントン氏を悩ませつづけている。クリントン氏は事件について「最大の後悔」と述べ、事件の責任を認める一方で、共和党が政治的利益のために事件を利用したと主張している。
もう1つの火種は、今年4月に多数の女子生徒を誘拐したナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」について、国務省が当時、テロ組織に指定しないという決定を下したことだ(のちにこの決定は撤回された)。
ホワイトハウスが課した制約の中で、クリントン氏は一部だが自身の目標を達成した。具体的には、国内の経済回復を加速させるべく、在外公館を活用して米国企業の利益の促進に努めた。
ゴールドマン・サックス・グループの元幹部で国務次官としてクリントン氏に仕えたロバート・ホーマッツ氏は「最高経営責任者(CEO)など企業のリーダーが困っていたら、国務省に来てほしいと思っていることを示したかった」と述べた。ホーマッツ氏によると、対応にあたっては「組織全体を活用した」という。
クリントン氏の支持者によると、同氏には大統領と直接のパイプがあった。08年の大統領選挙に向けて民主党内で指名を争った2人は週に数度か顔を合わせて言葉を交わし、信頼関係を築いた。クリントン氏は会議の場で発言するより、オバマ氏に直接意見を伝えることを好んだという。
クリントン氏の政策アドバイザー、ダン・シュベーリン氏は「彼女の最大の仕事は(前政権時代の)8年の間に大きく損なわれた米国の指導力を回復させることだった」と話した。「われわれが指導力を回復させたからこそ、その後に起きたあらゆることが可能になった」という。
多くの証言によると、クリントン氏はスタッフが用意した概要説明のメモを読む熱心な国務長官で、外国の指導者との会談で話についていけないことは一度もなかったようだ。
当時、駐ロ大使だったマイケル・マクフォール氏はプーチン政権から敵対的な扱いを受けることが多かった。12年のある日、盗聴防止装置を取り付けていない電話回線にクリントン長官から電話があった。マクフォール氏は驚いた。長官はマクフォール氏の仕事ぶりをほめたたえ、「あなたを全面的に支持する」と言ったという。
マクフォール氏は後日、クリントン氏と直接顔を合わせたときに、なぜロシア政府が盗聴している可能性のある電話回線を使ったのか、と尋ねた。
「彼女は『みんなに聞かせたかったからよ』と言った。わざとそうしたんだ」
一部のテーマについては、政権の幹部がクリントン氏の考えを常に承知していたわけではない。現職や元職を含む補佐官らによると、閣議レベルの会議で自分の意見を強硬に主張するのはクリントン氏のやり方ではなかった。彼らはクリントン氏が1対1の会合で大統領にさらに率直な意見を伝えていると結論付けた。
クリントン氏のアドバイザーの1人はクリントン氏が政府高官との会合で「けんかになる」ことを恐れていなかったと話し、この説明に異議を唱えている。
クリントン氏とオバマ大統領は多くの課題について意見が一致していた。大統領がオサマ・ビン・ラディン殺害作戦の実行を決断すると、クリントン氏はこれを支持した。大統領が対リビア軍事介入を決定した際には、国際的な支持の取り付けに動いた。
しかし、新旧政権の補佐官によると、クリントン氏は軍事力の行使について、外交を補完する重要な要素だと認識し、大統領以上に受け入れていた。
国家安全保障を担当するベン・ローズ大統領副補佐官は「われわれが行った議論の中では、クリントン氏は大抵、軍事行動に賛成していた」と語った。クリントン氏は「米国の軍事行動に不安を感じていなかった」という。
シリアはその試金石だった。シリアの内戦によって米政権内で意見が割れていることが露呈した。大統領は軍事力の行使に躊躇(ちゅうちょ)していたが、クリントン氏はアサド政権と戦う世俗派の反政府勢力に武器を提供するべきだと迫った。
長年クリントン氏に仕えるアドバイザーによると、クリントン氏は12年4月に自身の執務室で行われた会合で、このアドバイザーに次々に武器の供与に関する質問を投げかけた。「なぜそれが正しいのかについての議論」を求めたという。
当時のデービッド・ペトレアスCIA長官はこの考えを受け入れ、12年10月にホワイトハウスの危機管理室で開かれた会合でもそれを主張した。会合に参加した政府関係者によると、クリントン氏も支持する発言をしたが、短い発言だったという。
シリアに関するホワイトハウスでの一連の会合に出席した元政権高官によると、クリントン氏が反政府勢力への武器供与を強硬に主張したわけではないと述べた。
13年春、ペルシャ湾岸地域の同盟国に押されて、オバマ大統領はシリアの非イスラム反政府勢力へのCIAによる小規模の武装・訓練プログラムの実施を承認した。
マクフォール前駐ロ大使はシリアの内戦について、「今になってみると、われわれはロシアの同意を取りつけることにあまりに多くの時間を費やし、自国の政策の構築には十分な時間をかけなかった」と語った。マクフォール氏によると、「(クリントン氏は)間違いなく、シリアに対してもっと行動をとるべきとの考えを支持していた」。
クリントン氏は政策への影響力をめぐって若い補佐官たちと争うこともあった。アラブ世界で抗議運動が次々に起きた11年、米政権内には2つの意見が浮上した。
クリントン氏のアドバイザーによると、ローズ大統領副補佐官などの政権高官は歴史の検証に耐えるためにも、デモ参加者を支持する必要があると主張した。
クリントン氏はこれとは反対の意見だった。クリントン氏も国民の支持を失った政権に米国がしがみついているような印象を与えたくないと考えていたが、ムバラク氏と手を切ることに慎重だった。クリントン氏が心配していたのはムバラク氏と手を切ったあと何が起きるのか、他のアラブ諸国の指導者が動揺するのではないか、ということだった。
クリントン氏の下で国務次官補を務めたマイケル・ポズナー氏は「クリントン氏を含め、ムバラク後のエジプトがどうなるのかなど、次の展開を懸念していた人が数多くいた」と述べた。
クリントン氏は元外交官でムバラク氏と交友のあったビジネスマン、フランク・ワイズナー氏をカイロに派遣した。ワイズナー氏はいろいろな意味でムバラク氏に同情的で、政権の移行を指揮するようムバラク氏を促そうとした。
クリントン氏のアドバイザーによると、ワイズナー氏のカイロ派遣は失敗に終わり、ホワイトハウス内部では国務省による重大な失策と見なされた。一部のホワイトハウス高官は国務省に主導権を握らせることにこれまで以上に慎重になった。このアドバイザーによると、ホワイトハウス高官は「国務省にまかせるのもこれが最後」と考えたのだという。
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