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日本語翻訳版の発売元が明石書店なので左派的な著者だと推測されるが、なかなか面白そうな書籍である。
「アメリカが今日の「世界の警察官」となったのは、第二次世界大戦ではなく朝鮮戦争」という見方は鋭い。
先進諸国ないし“大国”間の戦争が終焉を迎えたなか、膨大な資本形成を遂げ破格的な供給力を保有する米国軍需産業とWW2を通じて生まれた新世界秩序を維持する戦略のもと、米国(世界)支配層がとった政策が、地域紛争への大規模介入と曖昧な決着の付け方の繰り返しである。
テーマになっている朝鮮戦争も、北朝鮮を開戦(南進)にうまく誘導し、韓国がぎりぎりまで追い詰められる状況をつくって大規模攻撃に打って出たが、北朝鮮政権を壊滅させ北部を韓国として組み込み統一するような決着は付けなかった。
核兵器の使用を主張したことが理由とされているが、国連軍総司令官であったマッカーサーが解任されたのも、朝鮮戦争での完全勝利を目指したからである。
WW2時の米ソ合意事項ということもあるが、朝鮮戦争の経緯がどうであれ、ソ連の勢力圏として朝鮮半島北部を残すことにこだわったのである。
WW2後に米国が行使した軍事力の大きさとして双璧である朝鮮戦争とベトナム戦争は極めて似た性格がある。
ともにある種の「民族統一戦争」といえるが、国際的仕組みでできた分断構造を当事者が武力で一方的に変更することを認めず、それを行おうとするのなら米国が軍事的に介入すると強く示したものである。しかも、米国は、軍事介入しながら、勝つ気になれば勝てる戦争をずるずると引き延ばし、奇妙な決着の付け方で終わらせる。
今なお続く朝鮮半島の南北分断は、ある時期まで戦後世界秩序の象徴であり、今となっては古き遺物である。(米国支配層も遺物と思っているから、90年代に入って、対北朝鮮融和策を進めている)
その戦後世界秩序構造を守るための「世界の警察官」が米国だとすれば、80年代末から改編が進んでいる世界秩序を考えると、米国が「世界の警察官」の立場から退こうとしているのも頷ける。
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[この一冊]朝鮮戦争論 ブルース・カミングス著 凄惨な「内戦」、歴史的文脈で解釈
本書は通常の朝鮮戦争史ではない。専門的にいえば「解釈史」とでもいえようか。この戦争の基本的展開や概要を語るのではなく、内戦という基本的性格を強調しながら、より広く長い歴史的文脈において朝鮮戦争を理解しようとする試みである。
著者によれば、朝鮮戦争は「忘れられた、あるいは一度として知られたことのない戦争」である。朝鮮戦争の歴史的意義についても、これまでの理解は浅かった。20世紀に起きた戦争のなかで、朝鮮戦争はもっとも破壊的な戦争であった。推定300万人の韓国・朝鮮人がこの戦争で命を失い、しかも少なくとも半数は民間人であった。
この戦争は、日本の復興と工業化を支援した。とりわけ重要なのは、国防費を従来の4倍に増やし、アメリカが今日の「世界の警察官」となったのは、第二次世界大戦ではなく朝鮮戦争であったという点である。
本書では、戦時においてきわめて残虐な行為が、北朝鮮によるよりも、むしろ韓国側およびアメリカ軍によってより大規模かつ頻繁になされていたことも、執拗かつ容赦ない形で多数の事例をあげながら指摘される。その点で、本書は、韓国・アメリカによる残虐行為に対する告発と断罪の書でもある。それだけではない。常識的には朝鮮戦争開始日とされる1950年6月までに、韓国の西南部地域においては、左派ゲリラ対策としてすでに10万人以上が殺害されていたことも詳述されている。まさに凄惨な内戦であった。
皮肉なことに、45年8月15日をもって日本は平和を迎えたが、韓国はその日から反乱と鎮圧が錯綜(さくそう)する国家となった。朝鮮戦争は実は45年に始まり、戦闘そのものは53年に終わったにしても、いまだ終結を迎えていないのである。同時に著者は、残虐行為の歴史を回復しようとする韓国の取り組みを評価する。東アジアで、「自国の歴史と他国との対立を完全に、慎重に、真正面から分析してきたのは韓国だけ」で、安倍首相もアメリカの歴代大統領ら指導者も、これを実践しなければならないと主張する。
韓国の国民が、社会全体として、自らが加担した残虐行為をどのように消化できるのか、興味深い。そこでは、慰安婦問題も含めた日本統治下におけるさまざまな負の遺産も相対化されるのであろうか。韓国にとって耳の痛い事実を多数ちりばめた本書が、韓国で、どのように受け止められるかも興味津々である。
原題=THE KOREAN WAR
(栗原泉・山岡由美訳、明石書店・3800円)
▼著者は43年生まれ。米シカゴ大教授。コロンビア大で博士号取得。著書に『アメリカ西漸史』など。
《評》東京大学教授 久保 文明
[日経新聞6月1日朝刊P.21]
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