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[本の小径]第1次大戦から100年 現代との関わりを検証
100年前に欧州で勃発した第1次世界大戦は、日本人にとって遠くの戦争という印象があるのではなかろうか。果たしてそうなのか。この未曽有の大戦争を、現代にひき付けて考察する出版物が、続々と刊行されている。
「現代の起点 第一次世界大戦」(岩波書店)は、初の世界戦争が与えた衝撃を日本やアジア諸国、社会、芸術の領域まで視野に入れて検証する4巻のシリーズだ。
まずは第1巻『世界戦争』の巻頭論文で、編者の山室信一・京大人文科学研究所教授が挙げる犠牲者数を確認しておこう。イギリスは100万人近い軍人と民間人29万人。フランスでは軍人140万人・民間人50万人。第2次大戦に比べ、戦死者は英で5倍以上、仏で3倍近くに及ぶ。ロシアが軍人200万人・民間人100万人、ドイツが軍人205万人・民間人60〜80万人……。4年余り続いた大戦の凄惨な結果が浮かび上がる。
5000人未満とされる日本の戦死者数は、日清日露戦争に比べても少なかった。しかし、その甚大な影響は、数だけでは計りしれない。飛行船や航空機、潜水艦による攻撃により戦闘空間は飛躍的に広がり、戦車や毒ガスの登場、塹壕(ざんごう)戦の長期化で心身に過剰なストレスがかかる。深夜の空襲などで、戦場が日常に融解していく事態を招いたと、山室氏はいう。
ヤン・シュミット氏は同じ第1巻所収の論文で、日本の新聞は、日本が軍事行動に出た山東半島やドイツ領南洋諸島だけでなく欧州の戦況も逐一、報道していたと指摘する。
そこで日本人は何を感じたのか。雑誌「アステイオン」80号の特集「第一次大戦一〇〇年」に明らかだ。戸部良一・帝京大教授の論文によれば宇垣一成らの軍人は当時、欧州の大戦を総力戦と把握し「一国の防衛は国民により国民の為にする国民の国防たらしめねばならぬ」と述べた。国家総動員に道を開く認識だった。
海野弘『1914年』(平凡社新書)は、作家シュテファン・ツヴァイクの開戦当時の回想を引く。「最も平和を好む人々、最も気立てのいい人々も、血の臭いに酔ったようであった」。断固たる個人主義者も一夜にして狂信的な愛国者に変わったという。ベル・エポックと呼ばれる長い平和の後、泥沼の大戦が起こるとは当初、誰も思っていなかった。遠い昔の出来事と片付けられる人は今、どれほどいるだろう。
(編集委員 宮川匡司)
[日経新聞6月1日朝刊P.21]
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