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ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報
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2014年05月26日11:59
米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーの著書。著者のエドワード・ルトワックは、かつては湾岸戦争当時にネオコンの軍事戦略家とリベラル派から呼ばれていた人物である。
日本では、ペンタゴンの研究書が地味ながら翻訳されていたルトワックだが、冷戦終結は彼にとって苦難の時期だったろう。日本では長谷川慶太郎翻訳の『アメリカンドリームの終焉』という本がかつて出ていた。あとはグローバリゼーションについて論じた、『ターボ資本主義』という本もあった。しかし、軍事戦略が専門のルトワックにとって、冷戦後の20年はアメリカの経済グローバリズムの時代であり、冷や飯食いの時期だったのではないか。
しかし、中国がリーマン・ショック後に、「もうアメリカの時代は終わった」と自信をつけて軍事的にも台頭してきた。ロシアもプーチンを盟主にしたユーラシア同盟を形成しようと動いている。再び、大国政治の時代が始まった。ルトワック再登場の舞台は整ったということだろう。
今、ルトワックは中国包囲網の実践を唱える理論家として活躍しているようだ。 私がしばらくぶりにルトワックの姿を見たのは、誰あろう安倍晋三首相を中心に野党時代に開いていた朝の勉強会の中継映像でだった。その時は「安倍晋三もなかなか 大物を顧問に持っているのだな」と思ったものだ。実際ルトワックは、首相就任後にも安倍首相に会いに首相官邸に訪問している。非公式な軍事顧問だろう。
「冷戦の闘士」とい うべきルトワックにとって、アメリカがかつてはソ連を封じ込めたように、今は中国をどのように封じ込めるかという大戦略を考えることがその主な任務である。しかし、ロシアと中国を連携させてはいけないという条件がついてくる。これだけではありきたりの議論だが、ルトワックの本が特徴的なのは、各国の「戦略文化」に注目して、その行動を読み解こうとしていることだ。
ルトワックは、 「戦略の論理」という持論を駆使して、かつてのドイツ帝国のように台頭する中国は、その経済成長と並行して行う軍備拡張により、周辺国の間に反発を必然的 に与えるのだと断言している。かつての「ドイツ封じ込め」では、イギリス主導の外交革命によって、かつては領土問題で対立していた、英仏ロシアの大国がドイツに対抗するために植民地争いを解決してしまったことを歴史の教訓として紹介している。これと同じことが南シナ海の領有権争いで起きると予言しているのであり、実際フィリピンとベトナムは中国に対処するために共同歩調を取りつつある。
中国は南シナ海の大半の領有権を主張しているが、これは歴史的には全く根拠が無い。「九段線」(牛の舌)といわれる海上国境線はインドネシアにまで近接している。フィリピン、ベトナム、インドネシアを米国や豪州に接近させてしまったのは中国のこの無茶な天然資源を狙った海洋権益の主張による「自滅行為」だというのがルトワックの解説である。本書は具体的にどのような領有権争いが存在するのかをまとめておりこの点で有益である。
中国は漢民族同士であれば通用する古典的な文化的背景に基づ く戦略を、他の異民族に対しても適用できると考えているために、中国は計算違いをしているというのがルトワックの主張だ。私が非常に興味深かったのは、 「漢民族は文化的には優れていても、軍事戦略の面では不得手である。それは、他の異民族に侵略され続けてきた歴史を見れば分かる」という主張である。
つま り、ルトワックは中国が自滅的な外交・軍事戦略を取るとしても、それは歴史的に繰り返されてきたことであると主張しているわけだ。
また、中国が領土問題の解決では多国間協議を嫌い、常に二国間協議を求めるのは、かつての「朝貢制度」の名残りであるという主張は極めて興味深い。
本書の前半はそのような中国の戦略文化の分析が行われており多少難しい内容だが、後半は各国の地政学的・地経学的な中国の現状(2011年時点)について述べられており 読みやすい。
ただ、ここで少し気になるのは、日本について特定の思想傾向をもった論客や政治家を中心にインタビューしているためか、「怪しい経歴」だの と、やや根拠薄弱な「ネトウヨ的」な分析を民主党の小沢一郎元幹事長に対して行っているところである。(ルトワックがインタビューした内容はどうやら上の安倍晋三の勉強会と同じである)
この点は本書の大枠には影響を与えていないにしろ、この点は 「海外の研究者がどのような情報源を元にするかによって、判断に歪みを与える可能性がある」という点を考える上で非常に重要な事例と言えるだろう。
さらに言えば、ルトワックはネオコン派であるから、ヘンリー・キッシンジャーやティモシー・ガイトナーのような、ロックフェラー系のエスタブリッシュメントの「金儲け主義」が大嫌いだ。この二人に対する批判はかなり辛辣であり、笑える内容である。
この本に限ったことではないが、安全保障系の論客は、安全保障を専門にする識者のインタビューに依存しがちなため、国民全体では大して問題になっていないこ とを、ことさら肥大化して取り上げてしまう結果を生みがちである。
その「肥大化した安全保障認識」がそのまま海外の研究者に伝わると、日本がかなり極端に 保守化したことが当たり前の前提となって論じられる危険性はある。これは程度の問題であるが、このような悪循環が仮想敵とされる国のナショナリズムに影響 を与えることもあることには留意しなければらならない。
とはいえ、本書はアメリカの戦略家がどのように中国を弱体化させ、アメリカの世界覇権に立 ち向かえなくするには何を行おうとしているかを知る上で非常に有益な本である。ルトワックは過去の『アメリカンドリームの終焉』で登場させた地経学(要するに経済封鎖や禁輸などの手段)を駆使して中国を締めあげるべきだと提案している。TPP推進論もやはりこの地経学のアプローチから検討されていると見た方がいいだろう。
ただ、iPhoneなどの米企業の電化製品が中国の低賃金国の生産者に依存している現状、この地経学的アプローチも万全とはいえないだろう。中国とのアメリカの争いが米ソ冷戦のようにスッキリと敵と味方に分けられないのはここに理由がある。
このルトワックだが、安倍晋三だけではなく民主党の親米派の長島昭久元防衛副大臣の勉強会にも呼ばれていたようだ。軍事面におけるジャパンハンドラーの一人と言って良いだろう。
- 中米露が快適に共存する道 あっしら 2014/5/27 02:13:58
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