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オバマ氏の失策 ポーランド孤立させた貧弱な軍事支援[フォーブス:日経新聞]
2014/5/24 7:00
ロシアがウクライナを貪るなか、オバマ米大統領がポーランドでのミサイル防衛(MD)配備を中止したのは、以前にも増して無謀な決断にみえてくる。
2009年当時を振り返ってみよう。オバマ氏が熱狂のなか大統領就任の宣誓を行い、オバマ氏のアドバイザーたちはロシアに対して「リセット」(米ロ関係を再構築するため当時試みられた米の外交努力を指す)しようと意欲的だったころだ。リセットできるなどというのは、大胆な発想だと自己満足にひたるだけのものだった。ホワイトハウスの主が交代したからといって、ロシアの長期的な利害に変化があるわけではなかったのだ。リセットという発想は、国の利害ではなく人間性が国を動かすとの仮定に基づく。
■後手に回った米の東欧MD配備
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はポーカーのような心理戦のなかで、すぐに相手の経験のなさを見抜き、掛け金を上げるがごとく要求水準を切り上げてきた。オバマ陣営はすすんで要求を聞き入れ、ブッシュ政権が進めていたポーランドとチェコにおける弾道MD施設の配備を無期限延期した。
ブッシュ政権はなぜ数十億ドル規模の防衛システムを約束したのか。冷戦の名残だったのか。それとも軍需産業への餞別(せんべつ)だったのか? そんなわけはない。きっかけは2008年、ロシアによるグルジア侵攻だ(この時も後にクリミア半島に侵攻したのと似た論理を展開した)。この侵攻をうけ、割れていたポーランドの国会は新たな防衛システムの受け入れに力強く賛同した。
ロシア軍がグルジア侵攻を中止した理由は何か。米国がポーランドやその他の同盟国に対し防衛兵器の配備を推進しようとしたためだ。オバマ陣営はその年に得た2つの教訓をよくよく学ばなかったようだ。2つの教訓とは、ロシアは新たな領土(あるいは元領土)を喉から手が出るほど欲しがっていること、そして、欧州へのロシアの影響力を限定するMDこそがロシアの動きを押しとどめる最善の選択であるという2点だ。
オバマ大統領のもと、東欧でのMD配備が後手に回ると、プーチン大統領は自由に旧ソ連の領土をパズルのピースのごとく一つずつ組み立て直せるようになった。今では隣国への侵攻も代償いらずだ。
MDに乗り出せば、ロシア側との交渉に支障が出るのではないかとオバマ政権が躊躇(ちゅうちょ)した(1980年代にレーガン政権がMD増強に予算を割り当てた際に、リベラル派が同様の懸念を持ち出したのと同様)ちょうどそのとき、ポーランド政府は数百億ドルを投じ、自前の多層MDシステムを開発した。これがTarcza Polski(ポーランドの盾)だ。
■軍事支出を拡大するポーランド
ポーランドの軍備増強は米国が身を引いたことがきっかけになったと、ポーランド指導者たちは明らかにしている。コモロフスキ大統領は2012年8月のインタビューで政府の考え方をこのように説明した。「米国の防衛システムの受け入れに際し我々が犯したミスは、米国の大統領交代に伴う政治的なリスクを計算にいれなかったことだ。ポーランドが払った政治的な代償は大きかった。同じ過ちは二度と繰り返したくない」
ポーランドは他の分野の予算を削って厳しい緊縮財政を敷きながら、軍事支出はすべての分野において急速に拡大させた。2014年までにポーランドの防衛支出は史上最高の水準に達している。ポーランドで疑義を唱える人はいない。ポーランド人の多くは1990年代初頭、ロシア軍の戦車が撤退していった日を記憶に焼き付けており、それ以来、ロシア軍の再来を恐れてきた。
つまり、オバマ政権のMDの方針ではロシアの武力侵略を抑え込めなかった。ポーランドという重要な同盟国を孤立させ自力での防衛を決断させた。さらに、米国はパートナーとして信用できないと世界に発信することになった。負の三連単だ。
奇妙なのは現在、オバマ政権はすぐに配備できる米国のMDシステムを推すこともせず、それが逆にポーランドが力を注いできたMDへの取り組みを妨害することになっている。
ポーランドは中距離弾道ミサイルに対する「ティア3」防衛システムとして4つの最終候補を挙げている。ポーランド政府はこの数週間のうちに最終決定を下す予定だ。
候補の一つがフランス主導の企業連合で、4つの候補の中では最もコストがかかる。一方、イスラエルのシステムは最も安いが、一度も稼働テストをしていない。このほか、価格面では中間に位置する2つが米国製。ここがオバマ政権のうまく立ち回れていない部分だ。
米国の2候補のうちリードしているのは、レイセオン社の地対空誘導ミサイル「パトリオット」システムだ。
業界紙のディフェンス・インダストリー・デイリーはパトリオットについて「最も広く採用され実績がある。開発面のリスクはゼロ。すでにポーランド国内にある米国の装備や、導入済みの世界中の基地と共通で、長期にわたるシステムの更新やサポートが保証されている」
カタールなど複数の国はこの1年間に、数十億ドル規模を投じてアップグレードされたパトリオットシステムを導入した。不思議なのだが、オバマ政権はこのシステム導入を強く推していない。
もう一つの米国製システムは中低空域戦術防衛システム(MEADS)だが、米国防総省は導入計画を破棄している。開発の遅れが重なったほか計画以上にコストがかかったことや技術的不備が原因だ。
360度レーダーなど技術的には様々な点でパトリオットを上回るともてはやされたが、MEADSは稼働テストが未実施で開発予算をオーバーしており、ここ何年も配備に至っていない。MEADSを主に支持しているのはドイツとイタリア。両国とも雇用プログラムとしてのほか、軍需産業の労働組合との関係維持のために支持を続けているようだ。
何年も配備の実績が無く、うまく稼働するとは思えないMEADSが導入されれば、プーチン大統領を喜ばせるようなものだ。MEADSに決まれば、ロシアのミサイルに対する防衛手段がない欧州中に、プーチン大統領は大きな影を落とし続けることになる。
覚えておかなければいけないのは、ミサイルの活用法は発射することではない。防衛手段のない国家に対して「こちらにはミサイル発射という手段がある」と知らせることだ。もし、ロシアの戦略らしくないと感じたら「フィンランダイゼーション」(フィンランド化)という言葉をネット検索してみるといい。
■オバマ陣営の傍観姿勢を検証せよ
オバマ政権はまだ傍観者のままだ。ポーランドはしばらく防衛の手が及ばない状態になるが、そうすればロシアに対する敵対度を下げられると考えているためだ。オバマ大統領がもともと主張する「ミサイル防衛は当面不要」という方針にも一致する。
今こそ、ロシアとMDに関するオバマ陣営の見通しの是非を厳しい目で検証すべきだ。ロシアに対しても、MDにも、リベラル派の冷戦批判からまだ抜け出せていないようだ。
ロシアは、MDはロシアにとって脅威だと主張したがるし、それはある意味で正しい。ただ、それでロシアの領土(拡大)への意欲は脅かされても、安全が脅かされるわけではない。
オバマ政権はロシア側の主張を額面通りに受け取り、MDシステムの役割についてロシア側が誤った解釈をしているかのようなふりをしている。防衛施設は本質的に防衛のためであり、武器と混同してはいけない、といった具合だ。自国にMDシステムを保有するロシアが、まるでこんなことも知らないかのように。
しかし、オバマ大統領とその周辺は、ロシア側の真意に耳を傾けようとしない。ロシアの真意とはつまり、防衛システムは、ロシアがポーランドやその他のかつてはロシアの手中にあった国々に対し、ふたたび支配力を復活させたいという野望に対する障害になるということ。北大西洋条約機構(NATO)加盟とMDシステムのおかげで、もし東欧諸国がロシア軍やロシアのミサイルを警戒しなくてすむのなら、それはロシア政府からの要求もドイツ政府からの要求も、同等の重要性を帯びるということを意味する。
だからこそ、ポーランドは巨額の費用もかけて、自前のMDシステムを構築している。ポーランドとしては、歴史的にずっと危険な隣国だったロシアが、平常な国として行動することを確実にしたいと考えている。ちょうど、ポーランドのもう一つの隣国で、同じく歴史的に危険な存在だったドイツのように。
不思議なのは、オバマ政権はポーランドにとっての不安ではなく、ロシアにとっての不安を懸念していることだ。なぜだろう。
ロシアを周辺地域でのいわゆる脅威から、平常な国へと転換する唯一の方法は、欧州での桁外れの影響力をそぐことだ。欧州のエネルギー問題における(ロシア)依存からの脱却、MDシステムと強いNATOが実現すれば、ロシアの勢いをくじき今後の動きを転換できるかもしれない。
■欧州を団結させる絶好の機会
残念なことに、オバマ政権は足元まで来ている歴史的な絶好のチャンスが見えていない。
プーチン政権がじわじわとウクライナへ侵攻していることは、まさに欧州がエネルギー面でのロシア依存を断ち切り、MDに関する見解をとりまとめ、NATOを最新式にするために必要なきっかけになる。プーチン大統領による侵攻がなければ、米大統領がだれであっても、欧州各国を一致団結して迅速に動かすことなどできない。
しかし、オバマ政権はロシアの粗暴な振る舞いをなだめ、抑制する機会をうかがってばかりいる。
実績のあるMDをポーランドに配備することが、有効な第1段階だ。ポーランドがすでにわかっていることをオバマ政権が理解するといいのだが。
(2014年5月15日 Forbes.com)
By Richard Miniter, Contributor
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http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2203C_S4A520C1000000/?dg=1
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