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『ニューズウィーク日本版』2014−5・13
P.20
「死刑大国アメリカをEUが締め上げる
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死刑反対のEUが死刑用薬物を輸出規制
その場しのぎの薬で死刑囚が苦しむ事態に
相手国の政権に政策変更を迫るため、経済制裁という手段に出るのは果たして有効か ―ロシアやシリア、イラン情勢のおかげで、最近そんな議論が盛んだ。こうした制裁を発動する側であるアメリカだが、死刑という人権問題に関してはアメリカもある意味「制裁下」に置かれている。それは先週オクラホマ州で死刑が執行された際に起きたひどい失態のせいで、自明のものとなつた。
クレイトン・ロケット死刑囚に薬物注射が行われたが、薬物が効かなかったために中断された。だがロケットはもだえ苦しみながら40分後に心臓発作で死亡。注射には前例のない薬物の組み合わせが用いられていた。
同州が新たな薬物を使用したのは、ここ数カ月でアメリカのさまざまな州が、薬物の供給先確保に苦心しているせいだとの指摘もある。というのも、死刑反対を叫ぶ製薬会社(多くが欧州の企業)が販売を拒否しているためだ。薬物の入手が難しくなり、銃殺やガス室など昔の処刑方法を検討する州まで現れた。
足並みがそろわないことも多いEU諸国だが、死刑反対では結束している。死刑に用いられる薬物に対し、EUは05年に輪出規制を開始した。
EUが最初に標的にしたのが、チオペンタールナトリウム。死刑執行の際に組み合わせて使う混合薬物の1つとして一般的に用いられてきた鎮静剤だ。米企業ホスピラは11年、チオペンタールの製造中止を発表。製造拠点を置くはずだったイタリアで、当局が死刑執行に使用しないことを条件にしたため、製造が不可能になったのだ。デンマークに本社を置くルンドベックは、やはり死刑執行によく用いられていた麻酔薬ペントバルビタールの使用中止を要請した。
最近では、マイケル・ジャクソンの死に関係したとされる麻酔薬プロボフォールが話題に。ミズーリ州は昨年、EUの規制のため、これの使用を中止した。
製薬会社は不本意だった
こうした輸出規制がアメリカの死刑の現状に影響を及ぼしているのは確かだ。何しろ数々の州が、効果にばらつきのある新たな混合薬物に頼らざるを得ない危険な状況に追い込まれているのだから。一方でこの規制が、アメリカでの死刑制度廃止という最終目標のために効果を挙げているかは疑問が残る。
イギリスを拠点とする人権団体リプリーブのマヤ・フォアは、製薬会社が権限を拡大して自社の薬物の使い道を監督するようになつた点が最大の効果だと語る。「本来、製薬会社は死刑に関与するのは不本意だった。今では企業自らが供給規制に乗り出している」
アメリカは今でも世界の民主主義国の中では執行数トップの死刑大国だが、年間の執行数は99年以来おおむね減少を続けている。国民の間では死刑支持が多数派を占めるものの、その支持率は死刑制度が復活した76年以降で最低に落ち込んでいる。
そんななか、死刑を廃止するべく打ち出された輸出規制のせいで各州が未試験の危険な混合薬物を使わざるを得をくなり、これまで以上に残酷な死刑を招いているというのは、なんとも皮肉なことだ。今回のロケットの事件で、透明性に欠ける執行の手法が見直される可能性もある。「安全に死刑を執行しているという当局の言い分も苦しくなるだろう」と、フォアは指摘する。
欧州に倣い、アメリカが近々死刑廃止の道を選ぶ可能性は低い。それでも、EUの規制で結果的に「残酷な死刑」への注目が高まったことで、死刑減少に向けた動きは加速しそうだ。
ジョシュア・キーティング」
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