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国際カルテル被告、海外で初の引き渡し 米の追及、日本も影響注視
企業、防止策の徹底 急務
国際カルテルを巡り、米司法省が外国人に禁錮刑を科す姿勢を強め始めた。4月には、米国での裁判を避けて海外にいた外国人被告の身柄引き渡しが初めて実現したと発表した。日本企業幹部の引き渡しを要求するとの観測も浮上しており、実現すれば本人や企業のダメージは大きい。カルテル防止策の徹底が急務だ。
(編集委員 塩田宏之)
「各国の独禁当局と協力し、米国法の執行を妨げようとする者に裁きを受けさせる取り組みが大きく前進した」
4月4日、米司法省のビル・ベーア反トラスト局長はこう語った。イタリアの石油輸送用ホースメーカー元幹部が、米国の要請でドイツから引き渡され、禁錮2年を科された。日本でも10人以上に引き渡しの可能性があるとされ、関係者に緊張が走った。
国境を越えて同業者が共謀し、製品の販売価格などを不当に取り決める国際カルテル。司法省は法人としての矢崎総業やブリヂストンに4億ドルを超す巨額罰金を科したほか、役員や社員にも禁錮刑を迫るなど、日本勢に厳罰姿勢で臨んでいる。
選択肢は2つ
同省に有罪と見立てられた日本人の選択肢は主に2つある。
1つは司法取引に応じて有罪を認め、調査に協力して米国での禁錮刑に合意することだ。既に自動車部品カルテルなどで20人以上の日本人幹部が刑務所に収監されたといわれる。ダイヤモンド電機のように上場企業の元社長と元副社長が禁錮刑を受けた例もある。
もう1つは、司法取引を拒んで日本にとどまり続ける道だ。司法省に起訴されても米当局による逮捕は避けられる。ただ、国際刑事警察機構に国際指名手配される恐れなどがあり、「渡航先がどこであれ、海外旅行は一切控えた方がいい」(平尾覚弁護士)という窮屈な立場になる。
さらに日米犯罪人引き渡し条約に基づき、米国に引き渡される可能性もある。これまで小さいとみられていたリスクだが、4月4日の発表で一気に注目度が高まった。
自動車部品関連などの企業では幹部が既に起訴されている。起訴の公算が大きい人も含めると「10人以上が引き渡し要請の対象になり得る」(複数の弁護士)という。
今後、米国は日本人の引き渡しを求めてくるのか。4月の発表でドイツが引き渡したのはイタリア人だった。犯罪人引き渡しに詳しい弁護士は「相手国の自国民という微妙な問題は避けつつ、逃げ得は許さないという強い姿勢を打ち出した」とみる。日本政府に日本人の引き渡しを求める場合はハードルが高くなる。
だが、平山賢太郎弁護士は「米司法省が1人も引き渡しを求めないとは考えにくい。非公式には既に日本の法務省と交渉しているかもしれない」と言う。池田毅弁護士は「短期的にはともかく、長期的には引き渡しを請求してくる可能性があると思う」と話す。
日米で刑罰に差
引き渡し要請が来たら日本政府はどう対応するのか。一定の条件を満たせば法務相の判断で決まる。実は殺人のような犯罪以外でも、1986年にテレビゲーム用の回路基板を無断複製、販売した日本人が米著作権法違反で米国に引き渡された実例がある。
一方、日本政府は引き渡しに慎重になるとの見方もある。日米ではカルテルに科す刑罰の重さに差があるうえ、日本では実刑の例もないためだ。
個々の日本人について引き渡しの可能性を予測するのは難しいが、リスクが高まったことは確かだ。日本企業は改めてカルテルの未然、再発防止策が十分かどうか点検する必要がある。
平山弁護士は「社長自らが『カルテルはダメ』とはっきり言う必要がある」と話す。そうすれば営業担当者がカルテルに巻き込まれる恐れを感じた時、法務部門に報告、相談しやすくなるという。逆に経営トップの姿勢が明確でないと、役員や社員がトップの胸中を推し量り「やるなら発覚しないように」という趣旨だと受け止めかねない。カルテルのリスクは芽の段階で断ち切ることが重要だ。
▼日米の被告人などの引き渡しルール 日米犯罪人引き渡し条約5条は「被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる」と定めている。手続きは逃亡犯罪人引き渡し法が規定しており、米国からの引き渡し要求の書類は外交ルートを経由して法務相、東京高検検事長に回る。東京高検は東京高裁に審査を請求、高裁が法的に問題がないと判断したら、法務相が引き渡しの是非を最終判断する。
引き渡しの条件には証拠が十分なこと、日米の双方で時効が成立していないことなどがある。ただ米国で起訴されると時効の進行は止まる。
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日米で基本ルールを 元最高検次長検事 伊藤鉄男弁護士
国際カルテルに対する米司法省の追及は新たな段階に入った。今後、日本への引き渡し請求はあるのか。国際的なルールはどうあるべきか。元最高検察庁次長検事の伊藤鉄男弁護士に聞いた。
――今後、司法省が日本人引き渡しを求める可能性はありますか。
「ありうる。日本にとって自国民の引き渡しという難しさはあるが、予断を許さない。自動車部品カルテルでは既に20人を超す日本人が米国での禁錮刑を受け入れた。日本にとどまって刑を受け入れない人とのバランスが崩れており、司法省はこの差を放置すべきでないと考えるだろう」
――引き渡し請求があった場合、日本側に求められる対応は。
「最終判断をする法務相はカルテルの実態に注目すべきだ。例えば米国市場を主要な対象としてカルテルを結んだ場合と、主に日本市場向けのカルテルで一部の製品が米国に輸出されただけという場合では扱いが違うべきではないか。日米で話し合い、引き渡しの基本的なルールをつくるべきだと思う」
「大半の自動車部品カルテルで、公正取引委員会は日本企業幹部の刑事告発を見送った。司法省が引き渡しを要求してまで日本人を拘禁するのは素朴な違和感を覚える」
――日本企業のカルテル防止策は。
「例えば米国では同業者が会合を開くだけでカルテルを疑われる。企業は海外の摘発事例など実態を調べて研修を実施し、同業他社と会うときは事前に届け出るといった具体的なシステムをつくる必要がある」
[日経新聞5月5日朝刊P.15]
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