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『ニューズウィーク日本版』2014−4・15
P.40〜41
「消えた飛行機が教えてくれること
航空機:エアライン史上まれに見るミステリー
マレーシア航空機失踪事件の原因と教訓
クライブ・アービング(英コンデナストトラベラ一誌編集者)
マレーシア航空370便が消息を絶ってから1カ月。故障説、ハイジャック説、機長によるテロ説など、さまざまな原因がささやかれてきたが、先週末の時点では、原因はもとより飛行ルートも墜落場所も、はつきりしたことは何も分かっていないというのが実情だ。
だが、多くが謎に包まれているからといって、この事放から学ぶべきことが何も見つからないというわけではない。370便がどんな運命をたどったのであろうと、この惨事から学ぶべきことは既に2つある。
■教訓@ 空の情報共有を急げ
370便は失踪したのではない。放置されたのだ。
3月8日未明にクアラルンプールから北京に向けて飛び立ったマレーシア航空横は、午前1時19分にマレーシアの管制官と操縦室が交信したのを最後に、消息が途絶えた。だがその交信後の重要な時間帯に、マレーシア軍とタイ軍のレーダーは370便を捉えていた。
マレーシア軍は「未確認」の飛行機が西に向けて飛んでいることを把握していたが、捜査当局に報告したのは2日後のことだった。タイ軍もインド洋上を南下する飛行機を発見したが、「聞かれなかった」ため10日間報告していなかった。
370便は当初、北京に向かう途中で何らかのトラブルに見舞われたとみられたから、捜索活動は東の南シナ海を中心に行われた。軍や国際間の連携不足のために、決定的に重要な最初の数日を無駄にしたわけだ。
マレーシア当局の二転三転する説明も、捜索を難航させる原因となつた。例えば、シンプルだが非常に重要な370便との最後の交信内容。当初マレーシア当局は、操縦室からの最後の言葉は「了解、おやすみ」だったとしていた。
ところが事件発生から1カ月近くたった今月1日になつて、実は「おやすみ。マレーシア(航空)370(より)」という、よりマニュアル的表現だったことが明らかになつた。こんな重安かつ単純なことを間違って発表していた当局の話など、どこまで信じられるだろう。
マレーシア当局は、機長が疑わしいとほのめかす情報を繰り返しリークしてきた。だが、横長の自宅で押収されたフライトシミュレーターをFBI(米連邦捜査局)が徹底的に調べても、犯罪をにおわせる証拠は何一つ見つからなかった。
■教訓A ブラツクボックスの時代は終わった
今や映像や音声をリアルタイムで配信・再生できるライブストリーミングの時代だ。フライトデータレコーダー(FDR)やコックピット・ボイスレコーダー(CVR)などの記録装置から成るブラックボックスを回収しなければ、事故の原因が解明できない現行システムは時代遅れだ。
09年にエールフランス447便が南大西洋で墜落したときは、ブラックボックスの回収に2年かかった。その反省からフランスは、飛行経路から主要機器の状態まで重要データをすべてリアルタイムで地上局に送信できるシステムの開発に着手した。
このシステムでシミュレーション試験を行った結果、墜落時にも8剖以上のケースでブラックボックスとほぼ同じ完成度のデータを確保できることが分かった。位置情報の誤差は半径6・4`以内。このデータストリーミングシステムを飛行機に搭載して運用するコストは、1カ月わずか1500jだ。
世界を驚かせた毒ガス説
それにしてもマレーシア航空370便にはいったい何が起きたのか。最終的に乗員乗客239人が犠牲になった(とみられている)が、飛行機自体はまるで問題などなかったかのように、燃料が切れるまで7時問半飛び続けた(とみられている)。
世界の航空専門家の問では現在、2つの仮説が大きな注目を浴びている(テロや犯罪は彼らの専門外のためここでは考慮されていない)。
■仮説@ 空飛ぶガス室
マレーシア捜査当局によると、370便の貨物に大量のリチウムイオン電池があった。このリチウムイオン電池は、使用中に電池全体の温度が異常に上昇する「熱暴走」を起こす可能性があることが指摘されている。
昨年、就航間もないボーイングのジェット旅客機787ドリームライナーが、全世界で運航停止に陥ったのは、原因不明のリチウムイオン電池の熱暴走が原因だったとされている(ドリームライナーはメインシステムのほとんどの電源にリチウムイオン電池を使っている)。
370便に積まれていたリチウムイオン電池は、携帯電話やコンピューター向けの小型バッ
テリーだったが、その総量は釣200`にも上る。これに対してドリームライナーのリチウムイオン電池は27`程度。単純に考えても、370便はドリームライナーを大幅に上回る火力を抱えていたことになる。
万が一、貨物のリチウムイオン電池が異常発熱すれば、有毒ガスが発生する恐れがある。バッテリー研究の世界的権威、ビクター・エテルは言う。「リチウムイオン電池内の有機電解液は高温になると溶融が始まり、一般にフッ素とヒ素を含む極めて有害なガスを生み出す」
旅客機には通常、煙探知機や火災探知機が付いているが、電解液が蒸発して発生した有毒ガスは、隙く問に操縦室や客室に充満した可能性がある。
もしそれが370便で起きたとすれば、機長はマレーシアかベトナムの最寄りの空港に緊急着陸しようと考えて、針路を南西に変更したのかもしれない。だが管制官との交信等、必要な手続きを終える前に、毒ガスにやられてしまった。そして370便はそのままインド洋を南下し続けた―。
とはいえ、そのあと何時問も飛行できるくらい機体に異常がなかったのだとすれば、位置情報等を自動送信するトランスポンダや、30分おきに運航情報を伝えるACARS(エーカーズ)が機能しなくなった理由の説明がつかない。
■仮説A 電気系統の火災
この説ならトランスポンダとACARSが機能しなくなつた理由を説明できる。どちらも操縦室下の電子機器が集まったエリアか、操縦室自体の電気系統の火災によって破壊された可能性がある。
しかしひとたび飛行中の旅客機で火災が起きると、管理するのは非常に難しい。果たして7時問半も飛行できるだろうか。
98年にニューヨーク発ジュネープ行きのスイス航空111便が墜落したのは、電気配線のミスによる火災が原因だった。このときは横長が地上に異常を報告してから、大西洋に墜落までの時間は20分もなかった。
*
多くの謎が残るなか、1つだけ言えることがある。それは毒ガスであれ火災であれ、あるいはハイジャックであれ、370便にはそのトラブルを克服する備えがなかったことだ。」
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