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米ロ クリミアでの軍事対決はあり得ない(シンガポール『聯合早報』)
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投稿者 gataro 日時 2014 年 3 月 10 日 13:11:43: KbIx4LOvH6Ccw
 

米ロ クリミアでの軍事対決はあり得ない
スタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)研究員・薛理泰
2014年3月6日 シンガポール『聯合早報』

 ロシアのプーチン大統領は3月4日の記者会見で、ウクライナにおいて「憲法違反の政変と武力による権力奪取」が起こったと述べた。ヤヌコビッチは引き続きウクライナの合法的大統領であり、キエフの現政権にはウクライナの将来を決定する権限はない。ロシアは「もっとも極端な状況のもと」でかつ「合法的な基礎の上」においてのみウクライナに対して軍隊を使用する。彼は、ウクライナ東部において違法な事態が現れれば、ロシアはあらゆる手段を動員して現地のロシア公民を保護すると述べた。当面は出兵の必要性はないが、その可能性はある。以上は、ウクライナ情勢がエスカレートしてからプーチンがはじめて公式に態度表明を行ったものである。

 ロシアがクリミアに軍隊を増派してから、ウクライナとの関係は緊張することとなった。ウクライナの大統領代行(元議長)のトゥルチノフはロシアが「露骨な軍事侵入」を行ったと非難した。ウクライナの公的メディアに拠れば、ロシアはすでにウクライナに対する軍事侵入を行った。アメリカのオバマ大統領は3日、アメリカは経済及び外交的に「全面的な」措置を取ってロシアを孤立化させることを考慮中であると述べた。

 ロシア議会上院がプーチンのウクライナに対する軍事干渉を支持する決議を行った後、ロシア軍はクリミアに進攻して展開し、戦略拠点を支配した。1日、クリミア政府はロシアと協力して、黒海艦隊と共同で政府庁舎を含む現地の主要な建物を保護することを宣言した。現地住民は元々親露的として知られており、ロシア軍の進駐を切望していたから、進駐を歓迎した。

 クリミア駐在のウクライナ軍は武装抵抗を行っていない。むしろ寝返ってクリミア政府に忠誠を明らかにし、ロシア軍に協力する部隊が相次いでおり、迅速に行動してウクライナ軍のクリミア侵入を阻止している。ウクライナ空軍の1戦術航空旅団は3日に寝返りを明らかにし、800人以上の兵員と50機がウクライナ軍の支配を離脱し、ウクライナの地対空ミサイル3部隊も寝返りを宣言した。集団的反乱は海陸空3軍に及んでいる。

 クリミアの歴史を振り返ると、以上の異常な現象について理解することができる。クリミアは元々ロシアに属し、ウクライナに属してはいなかった。1954年に当時のソ連が「ウクライナとロシアの同盟結成300周年」を慶祝した際、フルシチョフ主導のもとでソ連最高ソビエト主席団がクリミアをウクライナに帰属させる決議を採択した。当時のロシアとウクライナは、高度な中央集権のもとにあるソ連の加盟共和国だった。クレムリンにとって、クリミアがロシアからウクライナに帰属替えすることは左手から右手に移る類に過ぎず、単に「同じ釜の飯」ということだった。

 ソ連が解体し、ウクライナとロシアがともに主権独立国家となることによって状況が変化した。クリミアがロシアとウクライナとの間の重大な領土紛争となるに及んで、ロシアの政治家の中には「この問題は当時フルシチョフ同志が酔っ払ったために起こった」と言うものもいる。過去においては両国が特殊な友好関係を維持していたために領土紛争が突出することはなかった。しかし近年になってウクライナがNATO加盟の足取りを加速するに伴い、ロシア国内では、クリミアに対する主権行使回復を要求する声が絶えることはなくなった。  歴史的に見ても、ロシアがクリミアを争うということは必然である。1853年から1856年にかけて、ロシアと英仏トルコとの間でクリミアにおいて大きな戦争が起こった。1854年9月から翌年9月までの間、英仏連合軍は1年に及ぶ包囲作戦の後にようやくセバストポリ要塞を攻略した。これをクリミア戦争という。

 第二次大戦中、セバストポリは再びソ連とドイツとの間の激戦の主戦場の一つとなった。ドイツの傑出した現地指揮官マンスタインは、ドイツ9師団とルーマニア軍を指揮して1941年10月から1942年7月までの9ヶ月に近い猛攻によってようやく要塞を占領した。ソ連軍がこの要塞を堅守し、ドイツの大軍を牽制したことは、ドイツ軍がスターリングラードで最終的に大敗した原因の一つに数えられている。

 今回ウクライナ政権が一朝にして転覆したのは、モスクワの判断では、NATOが背後で操っていたからであり、しかも政権急変はカラー革命という性格に属する。その後遺症の一つとして、NATOの勢力がさらにモスクワに向かって大きな一歩を進めることになった。今後ウクライナ方面に関しては、ロシアとしてはNATOの強力な抑止力に直面することになる。

 ロシアはシリアのタルトゥース港に海軍基地を保有しているが、ぼろぼろでかつ長期にわたって使用していなかったにもかかわらず、それでも放棄することを肯んじなかった。ましてや、ロシアはクリミアにはいくつかの軍事基地を擁しており、身近にあって利便この上なく、軍事的にも非常に重要な戦略的意味をもっている。ロシアに対して簡単に放棄することを求めるのはできない相談と言うほかない。

 ロシアとウクライナとの関係の前途は真っ暗で、形勢を挽回するのはほぼ難しい。関係が悪化するのは必然である以上、ロシアとしては前もってクリミアのツケを清算するというのは必然であり、ウクライナの治安が大いに乱れている時期に乗じて軍事干渉に踏み切ったというわけだ。

 数百年にわたり、ロシアとウクライナの国交関係の変動は欧州列強と密接な関係があり、現在について言えば、両国の矛盾の処理はロシアと米欧との間の戦略的抗争にかかわっている。筆者の見るところ、米露両国はクリミアで軍事対決することはあり得ないし、米欧は経済上、外交上、ロシアに対して「全面的」な制裁措置を取ると公言しているが、長期的に持続することもほとんどあり得ないだろう。

 畢竟するに、ウクライナとグルジアとでは別であり、モスクワは現時点でウクライナに対して全面的に軍事干渉することは考えていないだろう。いわゆる軍事干渉と言っても、目的はクリミアに限られているし、手段も限定的だろう。

 アメリカはアジアに対するリバランス戦略を定めたが、その前提は欧州において大規模な動乱、戦争が起きないということだ。アジアにおいてバランスが失われることは重大な災いだが、クリミアの主権帰属問題はかゆみ程度のことに過ぎない。仮にアメリカがクリミアのために世界戦略の重点を東欧に移すなどということをするのであれば、ハンドリングとしてあり得ない類のことになるだろう。欧州諸国にとっては、エネルギー供給において久しくロシアに依存しており、本気で行動に訴えようとしても、「それはないでしょう」ということだ。

 アメリカはすでに本年内にアフガニスタンから撤兵する大方針を定めている。その時には大量の人員と装備をロシア及びロシアと関係の深い中央アジア諸国経由にする必要がある。ロシアと中央アジア諸国がアメリカ及びNATO諸国と緊密に協力すれば、アフガニスタンから順調かつ迅速に撤退することができる。しかしロシアが仮に何かしでかさないとしても、積極的に協力してくれないというだけでも、軍隊及び装備の撤退には制約と面倒が発生し、アメリカとNATO諸国にとっては長期にわたって頭が痛いことになるだろう。

 ましてや、中東の混迷、イラン核問題、朝鮮核問題、グローバルな対テロ闘争、シリアの化学兵器撤去等々、アメリカにとっては頭が痛く、気持ちを休めることができない問題だらけだ。これらの問題についてはロシアの協力が不可欠だ。仮にアメリカと欧州諸国がクリミアの主権問題に引きずられてロシアとの間で根気比べをするならば、小事にこだわって大事を失うことになるのであって、それは間違いでなくして何であろうか。

(浅井基文さんの「クリミア問題とロシア」から引用)
 

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