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コラム:市場が織り込む「プーチン氏の勝利」=カレツキー氏[ロイター]
2014年 03月 7日 16:19 JST
[6日 ロイター] -作家オスカー・ワイルドは、結婚を「経験に対する期待の勝利」だと表現した。対照的に、金融や地政学において、経験は常に期待に勝り、現実主義が希望的観測を打ち破る。
ウクライナにおけるロシアと欧米の対立は、この好例だと言える。この問題を非常に危険な状態にしているのは、米国と欧州連合(EU)の政策が、期待や希望的観測に基づいているように見えることだ。ロシアのプーチン大統領が分別を持つか、少なくともロシアの経済利益や側近の個人的資産への制裁を恐れて思いとどまるという期待。そして、「民主主義や自由」は必ずや独裁主義や軍事的威圧に打ち勝つという希望的観測だ。
投資家や企業には、それほどセンチメンタルになっている余裕はない。銀行家ネイサン・ロスチャイルドがワーテルローの戦いの際に言った「銃声が鳴ったら買え」という言葉は決して忘れるべきではないが、今週のウクライナ情勢に対する市場の反応は、ロシアの勝利を市場が信じていると仮定した場合にのみ理解できる。
ウクライナがロシアのクリミア半島併合を黙認せず、反撃に出るとすれば、軍事的手段や少数派ロシア系住民への圧力に訴えることになる。ただ、その場合、ユーゴスラビアのような内戦に突入することはほぼ不可避で、ポーランドや北大西洋条約機構(NATO)、そして米国も巻き込まれる可能性が高い。
西側諸国には、ロシアの軍事介入を認めるか本格的な戦争突入以外に選択肢はない。なぜなら、プーチン氏が自発的にクリミア撤退を決めるとは考えられないからだ。クリミアを力で奪い、今さらそれを放棄するのは、ほぼ間違いなくプーチン大統領の終わりを意味する。クリミアが「もともと」自国の一部で1954年に偶発的にウクライナに移管されたというのは、軍・治安当局は言うまでもなく、ロシア国民のほぼ一致した見解だろう。実際に多くのロシア人が、その是非はさておき、ウクライナはロシアに「属している」と思っている。
こうした状況で、欧米の経済制裁を受けてプーチン氏がクリミアを手放すと考えるのは、全くの希望的観測にすぎない。歴史を通して、ロシアは地政学的な目標のために、西側からは想像を絶する経済的苦難を受け入れてきた。4日の金融市場では、プーチン氏がモスクワ株式市場の急落を受けて軍事行動を一時停止するとの見方が広がったが、控えめに言っても、そうした考えは認識が甘い。
実際のところは、プーチン氏はクリミア介入により自らの立場を悪くしたが、不器用にも見えるこの作戦は、欧米メディアが冷笑する戦術ミスとは全く違い、教科書にも出てくるような、戦略に則った現実的政治の事例だ。
プーチン氏は、欧米がクリミア占領を認めない場合、戦争しか選択肢がないという「既成事実」を作り出した。NATOによるロシアへの軍事攻撃は、ロシアのクリミア撤退と同じぐらい考えにくいことから、プーチン氏が狙うウクライナ国境線の引き直しは現実味を帯びる。
現段階での唯一の疑問は、ウクライナ政府がクリミアを黙って手放すか、それとも新たな国境内でロシア系住民に報復しようとするかということだ。報復に出れば、プーチン氏にクリミア以外のウクライナ侵攻の口実を与え、全面的な内戦に突入するだろう。
これは投資家にとって、ウクライナ危機がロスチャイルドが言うような買いの機会となるのか、それとも手遅れになる前に株式や他のリスク資産から撤退するのか判断を迫られる問題だ。こうした状況では通常、問題は平和的に解決されることが多い。つまり、この場合、欧米がロシアのクリミア併合を黙認し、プーチン氏も納得できる新たな挙国一致内閣がキエフで発足するということだ。
新たな政府は対立解消のために、公用語としてのロシア語の地位を確約し、NATOやEUとウクライナの関係に対してロシアに事実上の拒否権を持たせる必要があるだろう。これが最も起こり得るシナリオで、ほとんどの投資家や企業が週末までにそうなると推測している。
問題なのは、可能性はかなり少ないものの、もう1つの選択肢であるウクライナ内戦が起きた場合だ。もしこれが現実になれば、欧州や世界経済、エネルギー価格、世界の株式市場に与える影響ははるかに大きい。
金融史で同様の事例を振り返ると、地政学上の激しい対立が起きた際、株式投資家は通常、事の結果が判明するはっきりした確証を得るまで待つ。
例えば、1991年と2003年のイラク戦争では、「銃声が鳴ったら買え」が正解だったが、株価は戦闘の結果がはっきりして初めて上昇した。2002年には、戦争の機運が高まる中でS&P500が25%下落。状況がはっきり転じたのは米軍がイラク攻撃を開始した2003年3月で、そこから年末までに株価は35%上昇した。
同じように、1991年には、米国主導の部隊がサダム・フセイン大統領のクウェート侵攻から6カ月後にイラクでの勝利を確実にし、株価は大きく上昇。その後4カ月で25%も上げた。
ウクライナをめぐる対立により近いのは、1962年のキューバ・ミサイル危機かもしれない。同年夏、株価は世界的に20%下落。ジョン・F・ケネディ米大統領はソ連の指導者フルシチョフに対し、核戦争も辞さないとの態度で交渉し、キューバからミサイルを撤去させた。米株市場は1週間のうちに反転し、その後の半年で約30%上昇した。しかし、この年の株価反転も、フルシチョフが引き下がり、ケネディが神経戦に勝利したことが確実になってようやく始まったものだ。
今週の株式市場の動きについて論理的に説明するとすれば、投資家が今、ウクライナで同様の結果を織り込んでいるのだろう。ただし、今回の勝者はロシアだ。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKalDragonomicsのチーフエコノミストも務める。
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