http://www.asyura2.com/14/kokusai8/msg/165.html
Tweet |
[グローバルオピニオン]東欧・中東、民主化に時間
ESADE世界経済・地政学センター長 ハビエル・ソラナ氏
欧州ではウクライナ、ボスニア・ヘルツェゴビナなど政治に問題を抱える国が四半世紀前に民主化の道を歩み始めたが、目的はなお達成していない。一方、アラブ世界の民主化運動はまだ3年がたっただけで、歴史の中では一瞬にすぎない。民主化や(多様な文化、宗教などに寛容な)多元的共存を実現するには、ウクライナなどと同じく長い時間をかける必要がある。
いま中東で起きていることは、第一次世界大戦後の大変化を引き継いでいる。アラブ社会ではオスマン帝国の崩壊を受け、1920年代にムスリム同胞団をはじめとするイスラム系政党が登場した。他方、エジプト、シリアなどでは非宗教の世俗路線で建国をめざす動きがみられた。
2010年以降にアラブ世界が同時多発の市民の暴動で覆われた背景はイスラム、世俗といういずれの政治潮流とも関係がない。腐敗して機能不全に陥った独裁的な政権に大衆が反旗を翻したのだ。しかし現実は、シリアの内戦で13万人が死亡したといわれ、カダフィ大佐が去ったリビアは崩壊寸前。エジプトは軍部が再び権力を握りムスリム同胞団を追放した。成功例はチュニジアだけだといえる。
エジプトの民主化は13年7月の軍介入とモルシ氏の大統領解任で後退した。だが、11年まで続いたムバラク大統領の時代に逆戻りしたわけではない。若い世代が貴重な政治的経験を積んだ。同じことはシリアにも言えるが、同国はらせん階段を下り続け、逆転の試みは阻まれている。
一般的に多元主義の欠如や、(複数の人物や機関による)権力共有を認めない姿勢は民主化を阻害する要因になる。民主化の途上にある国には、これが大なり小なり当てはまる。エジプトでは軍、イスラム(原理)主義者の双方が全権力の掌握を狙う。
政治における多元的共存は強要するものでない。社会が望んだうえで、継続的な制度の構築が求められる。これには長い時間がかかるので、歴史的視点を失わないことが大切だ。市民による暴動が始まった時点でアラブ各国の状況は異なっていた。チュニジアのように構成員が均質な国では暴力が抑えられたが、そうでないシリアなどの国では別の結果になった。中東には民主主義と多元主義のモデルとなる国がトルコ以外に見当たらない。
こうしたアラブ世界に比べ、ウクライナのような東欧やバルカン諸国は民主化の出発点や進路を共有する幸運に恵まれている。欧州連合(EU)加盟、北大西洋条約機構(NATO)を通じた安全保障達成という共通目標も持つ。
ウクライナでもエジプトでも、必要とされるのは多元的な共存の実現に向けた忍耐強い戦略と不断の努力である。
((C)Project Syndicate)
Javier Solana マドリード生まれ。NATO事務総長、EU共通外交・安全保障上級代表など歴任。ESADEはスペインのビジネススクール。71歳。
混乱の放置は危険
民主化は一朝一夕に達成できない――ソラナ氏の主張はその通りだろう。だが、シリア内戦にはサウジアラビアをはじめとするアラブ諸国とイラン、ウクライナの混乱には米欧とロシアという関係国の対立軸が持ち込まれ、事態を複雑にしている。東西冷戦の最中と同様だ。すでにシリア内戦で経験を積んだイスラム過激派が世界各地にちらばる懸念が指摘され始めた。アフガニスタンでの紛争がアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを生んだように。達観による混乱の放置は危険だ。
(編集委員 加賀谷和樹)
[日経新聞3月3日朝刊P.4]
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。