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ヤヌコビッチ大統領の解任は、クリチコ氏など野党の主流派とのあいだで事態収拾に向けた“合意”がなされた直後に、ヤヌコビッチ氏の与党である「地域党」の議員が反旗を翻し解任決議に同調したことで実現した。
キエフの独立広場で治安部隊と睨み合いを続けた勢力は、野党勢力でも少数派の“民族派”であり、大統領派と野党主流派の合意によって、時間の経過とともにその勢いは縮小したはずである。
治安部隊がヤヌコビッチ大統領に背を向けたという説もあるが、ウクライナの様々な政治勢力が入り乱れ、EU・米国とロシアの双方が介入しかき回し続けてきた騒乱ということもあり、事実経過は見えにくい。
親ロシアとされる「地域党」の一部議員が離反したことでヤヌコビッチ大統領の解任が決まったということを考えると、ロシアのプーチン政権が後ろから操っている可能性も捨てきれない。
それが事実かどうかは、プーチン政権が、フルシチョフ時代にウクライナに編入してしまったクリミア自治共和国問題にどう対応するかで見えてくるだろう。
クリミアを奪回する動きに出れば、必然的に、ウクライナ東南部地域の分離独立(ロシア化)運動を誘発する。
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ウクライナ情勢の焦点となったクリミア半島:ロシアによる軍事介入の可能性は?
小泉 悠 | 軍事アナリスト
2014年2月27日 6時21分
マイデン広場からクリミアへ
世界中の注目を集めるウクライナ情勢だが、その焦点は首都キエフのマイデン広場から、クリミア半島へと移りつつあるようだ。
クリミア半島には政権の座を追われたヤヌコヴィッチ前大統領が潜伏していると考えられる他、議会や一部の治安部隊は新政権に従わない意向を示している。
さらに複雑な民族問題や駐留ロシア軍の問題をも抱えている上、その目と鼻の先ではロシア軍が大規模な軍事演習を開始した。
ウクライナが抱える複雑性
すでに日本のメディアでも幾度も報道されているように、ウクライナは東部と西部で人種・宗教・言語・産業などの断絶を抱えているが、だからといって東部で多数派を占めるロシア系住民がウクライナという国家そのものの分裂とかロシアへの編入を望んでいるとは言えない。
しかし、クリミアは事情が異なる。
もともとクリミア半島はオスマン帝国の属国であるクリミア・ハン国が統治していたが、18世紀の露土戦争の結果、ロシア帝国に編入された。このため、クリミア半島にはウクライナ系ともロシア系とも異なる、クリミア・タタールと呼ばれるイスラム系人口が一定数存在する。
ソ連時代の1954年には当時のフルシチョフ書記長の決定によってクリミア半島は(ソ連邦内の)ロシアからウクライナへと移管されたが、当時は同じソ連国内であったから大した問題とはならなかった。
しかし、ソ連が崩壊してみると、黒海艦隊の本拠地であるセヴァストーポリ市を含めたロシアの重要軍事施設がウクライナ領内に存在することになってしまった上、2008年にはウクライナのNATO入りまで取りざたされるようになったことで、ロシアにとっては重要な安全保障上の問題に発展した。
結局、2010年の大統領選で前述のヤヌコヴィッチ氏が勝利し、2042年までロシア海軍の駐留を認める協定が締結された上、ロシアも自国領内のノヴォロシースクに新たな海軍基地を建設するというリスクヘッジ策をとったことで、ひとまず問題は落ち着いた。
緊迫化するクリミア情勢
しかし、本稿冒頭に述べたように、クリミア情勢は再び緊迫化している。
以上のような歴史的経緯から、クリミア半島ではウクライナからの独立の機運が強い。今回の政変でもクリミア自治共和国政府は新政権の「従属を求める圧力と脅し」に屈しないとして独自の路線を打ち出した。
東部の中でも特に親露的な住民感情に配慮すると同時に、今回の政変で急激に台頭してきた極右勢力(ネオナチと親和性が高い)の影響力がクリミアに及ぶことへの警戒もその背景には存在する。
さらにクリミアには、特にマイデン広場において反体制派に対する鎮圧を行った治安部隊「ベルクート」の隊員たちが居る。
新政権は同部隊を解散すると共に、治安作戦における残虐行為などについて調査を行うとしているが、隊員達はこれに従わず、クリミアの首都シンフェローポリでは武装籠城が続いている。
隊員達にしてみれば死傷を出しながら最前線で苦しい戦いを強いられた上、政権が代わった途端に放り出される(しかも復讐の対象になる可能性が高い)というのでは納得できまい。
クリミア自治共和国議会も彼らに同情的で、自治共和国が新たな職場を提供するとしている(自治共和国内に対テロセンターを設置するとの報道もあり、これが彼らの再就職先として想定されていると思われる)。
ただし、前述したクリミア・タタールはこうした自治共和国政府の動きには否定的だ。シンフェローポリの自治共和国最高会議前では、独立を訴える親露派住民(セヴァストーポリからやってきた住民達も含む)とクリミア・タタール系住民が対峙し、すでに小規模な衝突も発生している。
キエフに続いてシンフェローポリで大規模な騒擾が発生する可能性も出てきた。
ロシアは大規模演習を開始
さらに注目されるのがロシアの出方である。
キエフでの騒乱はソチオリンピックの期間中と言うこともあり、ロシアは表面上、ほぼ静観の構えをとっていた。
しかし、ウクライナの帰趨はロシアにとって死活的とも言える重要性を有する。クリミアの戦略的価値に限らず、人種的にも宗教的にもロシアに近く(というよりもウクライナこそがルーシの源流と考えられる)、政治・経済的にも重要なパートナー(たとえばウクライナは欧州向け天然ガスの通過国のひとつであり、工業面でも協力が盛ん)であるウクライナが自国の影響圏を離脱してしまう事態はなんとしても避けたい。
ヤヌコヴィッチ政権の発足後、一時期はウクライナのロシア離れ傾向は落ち着いたように見えたが、周知のように昨年からロシアとEUがウクライナを自国の経済圏に留めるべく綱引きを行ってきた。
軍事面でも、ウクライナがNATOの「ステッドファスト・ジャズ2013」演習に参加したことにロシアは不快感を示し、定例のCIS合同防空演習からウクライナを外している。
現在のウクライナ情勢に話を戻すと、23日にライス米大統領補佐官がロシアの軍事介入を牽制する発言を行ったことに対し、ロシアのラヴロフ外務大臣は「軍事介入を繰り返してきたのは米国ではないか」と強い口調で反論した。
さらに26日、プーチン大統領はロシア軍西部軍管区に対する抜き打ち演習を命令した。
抜き打ち演習自体は軍の即応体制をチェックするために2013年から始まったものであるが(こちらの拙稿も参照)、ロシア軍を構成する4つの軍管区のうち、西部軍管区だけは(おそらくNATOを刺激しないために)こうした演習の対象外となってきた。
ロシア国防省によると、この演習は26日から3月3日までの6日間にわたって2段階で実施される。
第1段階は西部軍管区の陸軍第6軍および第20軍に加えて、中央軍管区の第2軍、それに最高司令部直轄の戦略機動部隊である空挺軍が参加する。第2段階では海軍のバルト艦隊及び北方艦隊が参加し、空軍第1コマンドが前線飛行場への展開を行い、参加兵力は合計15万人、航空機90機、ヘリコプター120機、戦車870両、艦船80隻にも上るという。
ショイグ国防相はこの演習がウクライナ情勢に関連したものではないとしているが(実際、黒海艦隊を含む南部軍管区は演習の対象外)、以前から予定されていたわけでは内抜き打ち演習をこの時期に行う意図は明らかであろう。
すでにロシア政府は、政変前に約束していた天然ガス価格の値引きを行わないとする姿勢も示しており、今回の軍事演習は新政権に対するさらなる圧力であると考えられる。
また、ロシアはセヴァストーポリのロシア軍基地を防衛すべく、黒海艦隊の警備体制を強化し始めた。
さらにシベリアのクラスノヤルスクではコサックがチェチェン戦争などの実戦経験者を募って「クリミア義勇軍」の編成に乗り出したほか、チェチェン共和国のカディロフ大統領もチェチェン人から成る平和維持部隊の派遣に言及しているが、もちろんこれはロシア政府の公式の動きではない。
軍事介入はあるのか?
問題は、これが実際の軍事介入にまで発展するかどうかであろう。
今回の動きを2008年のグルジア戦争になぞらえる向きもあるが、同戦争ではロシアとグルジア側の双方が以前から軍事的緊張関係にあり、2008年に入ると砲撃や領空侵犯を繰り返すなど、高度の緊張状態にあった。
今回のウクライナはロシアとの間でそうした状態にはなっておらず、単純に引き合いに出してくることは不適切であろう。
ただし、ウクライナの新政権がクリミアに対して何らかの軍事的手段をとってきた場合には、ロシアがどう出るかは予測しがたい。
逆に言えば、5月の大統領選挙で選出される新大統領がロシアにとって望ましくない行動をとらないよう、しばらくはロシアの無言の圧力が続くと思われる。
西側諸国も26日のNATO国防相会議で「ウクライナの領土的一体性を尊重」するようにロシアに対して改めて求めるなど、西側諸国も引き続き懸念を表面している。
小泉 悠
軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在はシンクタンク研究員。ここではロシア・旧ソ連圏の軍事や安全保障についての情報をお届けします。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆。
official site
くろいあめ、あかいほしM2
http://bylines.news.yahoo.co.jp/koizumiyu/20140227-00033043/
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