2. 2015年10月13日 20:09:11
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日本の火山活動は活発化しているのか防災科学技術研究所 火山物理学 藤田英輔(1) 2015年10月10日(土)川端 裕人 阿蘇山、箱根山、御嶽山など、このところ活発化しているように見える日本の火山だが、本当はどうなのか。2011年の東北地方太平洋沖地震の影響は?富士山は?そして、火山についていまどこまで分かっているのか――。地震や地殻変動の観測をもとに地下の現象を解明し、火山防災に取り組み、噴火の予知を目指す藤田英輔さんの研究室へ行ってみた! (文=川端裕人、写真=藤谷清美) 最近、火山の噴火に関するニュースをよく聞く。 日本の火山は、ここのところ活発化しているのではないか。 そう感じている人は多いと思う。本当のところ、どうなのか。 最近の火山は難しい
茨城県つくば市の防災科学技術研究所には、地震・火山防災研究ユニットという組織がある。総括主任研究員の藤田英輔さんは、火山物理学を専門とする噴火メカニズムの専門家で、研究所の性質上、その応用としての防災にも深く関わってきた。今回、研究室にお邪魔することになった直接の動機は、「最近の火山(および火山研究)、どうよ」だ。 各火山からの観測データをリアルタイムで監視する部屋のすぐ隣に会議室があって、テーブルを挟んで相対した。そして、まず最初に尋ねたのはまさにその点だった。 「それ、意外に難しい問いでして──」 藤田さんはソフトな声でこたえつつ、パソコンから会議室のモニタに図表を出力した。 防災科学技術研究所、地震・火山防災研究ユニット総括主任研究員の藤田英輔さん。 「公開されている資料なので出してかまわないんですが、6月10日に開かれた気象庁の火山噴火予知連絡会で検討された火山のリストです」
口永良部島、桜島、箱根山、御嶽山、西ノ島、蔵王山、吾妻山、草津白根山、阿蘇山、霧島山、雌阿寒岳、十勝岳、浅間山、とそのリストにはあった。 やはり、最近、報道に挙がった火山の名前が並んでいるし、常時活動しているような、さもありなんという名前も多い。 日本各地の火山の現状。気象庁の第132回火山噴火予知連絡会(2015年6月10日)で重点的に検討された火山を黄色で示した。(画像提供:藤田英輔) [画像のクリックで拡大表示] 今年(2015年)に限っても、5月29日、鹿児島県の口永良部島で噴火があり、全島住民が島外避難(警戒レベル5=避難)することになった。
同じく鹿児島県の桜島では、8月15日、噴火警戒レベル4(避難準備)の噴火警報が出された。この時は、結局、噴火には至らず、ほぼ2週間後に、警戒レベル3(入山規制)へと引き下げられたけれど、鹿児島市を含む近隣の市町村は、緊迫した空気に包まれた。 そして、9月14日には、熊本県の阿蘇山が噴火。昨年から小規模な噴火を繰り返していたとはいえ、唐突に2キロ上空に達する噴煙をあげる本格的な噴火となった。入山規制(警戒レベル3)の警報が出されて、現時点(2015年9月末)でも続いている。 関東地方では、一大観光地である箱根山。4月下旬から、火山性の地震が増加して、5月末には大涌谷で小規模な噴火があるなどレベル3(入山規制)の警報が出された。ふだんは観光地として多くの人が訪れる場所だけに、注目された。警戒レベルは、本稿の時点で、一段引き下げられてレベル2(火口周辺規制)になっている。 さらに、長野県の浅間山では、4月下旬頃から山頂直下のごく浅いところを震源とする火山性地震が増え、6月19日には噴火が確認された。警報レベルは2(火口周辺規制)。 増えている? 年限を今年に限らずに言えば、2011年1月の霧島山(新燃岳)の噴火を鮮明に覚えている人は多いだろう。地域の住民1000人以上に避難勧告が出された社会的な影響だけでなく、巨大な溶岩ドームが発達したり、爆発的な噴火が繰り返したり、火山の持つ力を示してあまりあった。 そしてなによりも、2014年9月の御嶽山噴火。秋の行楽シーズンで、晴れた週末の日中であったため、死者行方不明者が60人を超える大きな人的被害を出した。1991年の雲仙・普賢岳の大火砕流による被害を超える、戦後最悪の火山被害となってしまった。 このように列挙していくと、本当に近頃、火山のニュースが、それも人的、社会的な被害をともなうものが「増えている」ように思える。藤田さんが「難しい」というのはどの点なのか。 「たしかに最近、火山活動が賑やかに見えるのは事実なんです。過去15年ぐらい、いや、90年代から見ても、間違いなく活発なんですね。でも、それは、これまでが静かすぎたんです。1991年には雲仙普賢岳の噴火があって、2000年には、三宅島の噴火とか有珠山の噴火がありました。でも、それらを除いたら、その後、ニュースになるような噴火がほとんどない時期が続いていました。ですので、私たちが思うのは、この15年ほどが静かすぎたというところです」
静かすぎた? なるほど、「最近多い」というのではなく、21世紀になってからの15年ほどが「静かすぎた」だけなのか。 「ところが、やはり難しいのは、もう少し大きなスケール、例えば百年っていう単位で見ると、今は、活動的な時期じゃないかなとも取れるんです。東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震の直後にもよく言われましたが、火山活動や地震が活発だった9世紀に非常に似てきているとやっぱり思っていまして。それを考えると、ここ1〜2年、活発化しているというよりも、2000年の三宅、有珠あたりからもつながっていて、一連の活発な時期に入っているのかもしれない、と」 なんと、「静かだったこれまで」を含めて、活発な時期の一部であるという解釈。時間スケールを変えてみると、違った傾向が見えてくることがよくあるけれど、ひょっとすると、長期的には活発な時期にあって、その上でたまたま少しの間静かな時期があった、という解釈だ。
さらにもう一点、物事を単純に言えない理由がある。 「最近、火山が噴火する前の異常を我々が検知する能力が非常に上がってきています。例えば、8月の桜島は、結局、噴火しなかったので、『噴火未遂』というような言い方を我々はするんですけど、以前だと単に見逃していたかもしれないわけです。でも、今では、GPSですとか、いわゆるSAR衛星(合成開口レーダーという観測装置を搭載した人工衛星)、日本のものだと2014年から運用されている陸域観測技術衛星の『だいち2』ですとか、リモートセンシングが発達して、地殻変動が非常にとらえやすくなったということがあります。今年の箱根に関しても、小さな噴火はありましたが、以前は捉えにくかった変動を捉えています」 ああ、こういった現象は思い当たるフシがある。感染症などの調査の仕方が変わったり、がん検診で感度の良い方法が導入されたりしたとき、報告され認知される患者数が一気に増えることがある。あれと似た理屈だろうか。 これまでのところを、ざっくりまとめると── 日本の火山が活発化して見えるのは、ごくごく短期的なレベルでは「これまで静かすぎた」とか「検知能力がアップしたから」で説明できることもあるかもしれないけれど、百年のレベルでは活発化しているかもしれないと専門家は疑っている。 というところか。 質問があまりにざっくりしていたので、ざっくりした回答にならざるをえないとみた。 ちらりと出てきた2011年の東北地方太平洋沖地震との関連もぜひ知りたいし、火山噴火の物理的な側面や観測について、もう少し掘り下げてうかがっていくのが、やはり最適な方法なのである。 [画像のクリックで拡大表示] つづく
藤田英輔(ふじた えいすけ) 1967年、島根県生まれ。理学博士。防災科学技術研究所地震・火山防災研究ユニット総括主任研究員。東北大学連携客員准教授。山梨県富士山科学研究所特別客員研究員。1993年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、同年防災科学技術研究所入所。入所以来、火山観測網の運用やそのデータ解析、数値シミュレーションなどにより火山噴火のメカニズムの解明についての研究に従事。近年は特に地震・火山噴火の連動性に関する評価や地下でのマグマ移動現象の解明について取り組むとともに、欧米やアジアの火山コミュニティーとの連携強化に尽力している。 川端裕人(かわばた ひろと) 1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、『雲の王』と同じく空の一族の壮大な物語を描いた『天空の約束』(集英社)、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。 本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)がスピンアウトしている。 ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。2015年10月に有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を開始した。 (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです) このコラムについて 研究室に行ってみた 世界の環境、文化、動植物を見守り、「地球のいま」を伝えるナショナル ジオグラフィック。そのウェブ版である「Webナショジオ」の名物連載をビジネスパーソンにもお届けします。ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトはこちらです。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/227278/100200018 |