3. 2015年9月30日 12:57:13
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世界が100年以内に終わるこれだけの理由『こうして、世界は終わる』/『昭和16年夏の敗戦』 2015年9月30日(水)ザ・絶賛エディターズ 【私が編集した本読んで下さい!】 『こうして、世界は終わる』 ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ著、渡会圭子訳 担当:ダイヤモンド社 書籍編集局第1編集部 三浦岳 ハーバードとNASAの研究者が「断言」 『こうして、世界は終わる』 永遠に続くものはないのは当たり前なのに、なかなかすっとは理解できないものだとよく感じます。とくに自分の命の終わりなど、受け入れがたいことについては、人は考えるのをやめてしまうようなところがあるのでしょう。
この世界の終わりについても同じなのかもしれません。『こうして、世界は終わる』によると、地球ではここ数十年の間に、化石燃料の燃焼等によって大変な勢いで温室効果ガスが放出されていて、このままの状態が続くと100年も保たずに、気温上昇に伴うさまざまな影響によって現状の文明が壊滅してしまうとのこと。 著者はハーバード大学の科学史、地球惑星科学のナオミ・オレスケス教授とNASAの研究者エリック・M・コンウェイ氏。とくにオレスケス教授はアメリカの上院委員会で議会証言するなど、地球温暖化問題について盛んに啓発活動を行っている環境問題の権威です。 つい最近もやはりNASAの研究者が、海面上昇が予想以上のペースで進んでいることを発表しましたが、人類全体としては、あまり真に受けることなく日々をすごしているように見えます。 また、国連がこの問題に本格的に取り組みだして国連気候変動枠組条約を定めたのが1992年で、以来、さまざまなかたちで温暖化に関するニュースが世界に流れましたが、その92年から2013年までの間に世界の二酸化炭素放出量はむしろ38パーセント増えたといいます。 それどころか、世間の実感としてはこの話題にはとうに飽きたというところすらあるような感じがします。単にじわじわと事態が進行していくだけで新しい論点が出てくるわけでもないので、ニュースにしようがないためかもしれません。 30年後、気温上昇4度で急激な変化が オレスケス教授の研究はアル・ゴアの『不都合な真実』の論拠になるなど、研究者や識者の間では大きなインパクトをもって受け止められてきました。しかしそうは言っても、世界的な流れはなかなか抑えられるものでもなく、二酸化炭素放出量は依然として地球規模で増え続けています。それでも破滅が目の前にある以上、行動する以外に選択肢はないとばかりに、なおも教授はこの現実について手を替え品を替え、粘り強く警鐘を鳴らし続けています。 本書はオレスケス教授のそんな活動から出た力作です。歴史学の視点からいまの状況を俯瞰的に見るために、あえて語り手を「300年後の歴史学者」と設定し、「西洋文明(いまのわれわれが生きている文明)はどのように崩壊していったか」を歴史として語るという、ユニークな構成になっています。 (「300年後の歴史学者」というのは、2093年に世界が壊滅的なダメージを受けた後も細々と命を繋いだ人たちで構成されている「第二次中華人民共和国」の歴史学者、という設定です) 現代の歴史学者がローマ帝国やマヤ文明を語るような語り口で、どういう経緯でわれわれは破滅していくのかを詳細に解説していきます。 著者はこれまで、理は十分に説いてきたけれど、思うようなムーブメントを起こすことができなかった。では、今度はここまでに至った筋道、そして今年から来年、再来年、そして文明が崩壊するまで、毎年どんなことが起こっていくのかを見せていくことで、読者の感情に訴えかけて心から動かそうというわけです。 今から平均気温が4度上がる約30年後から、熱波の頻発に続いてシロクマが絶滅、西南極氷床が崩壊、急激な海面上昇が起こり、沿岸地域から多くの人口が移動、虫が大発生し、世界的なパンデミックが続き…と、現状の延長線上のシミュレーションに基づいた想定が具体的なスケジュールとともに語られます。 絶望すると、逆に「楽観的」になってしまう 本書の巻末には、著者らによる詳細な解題がついており、ここでは、「なぜ人はこれほどまでに明らかな問題に対処しようとしないのか」について、さまざまに議論されています。 その中でそうか、と思わされたのは、どこからも「シグナルなんて来ない」という話です。いくらわれわれがぼんやりしていても、そうこうするうちにやがてとんでもない世界的な災厄が起こって、それを契機に人は目が覚めて、世界的に手に手を取って問題を解決する……そんなイメージをもっている人がいるかもしれないが、実際にはそんな都合のいいシグナルなんて来ることはない、というのです。 世界はただ黙々と破滅に向かい、むしろそうしたはっきりとした兆候が誰の目にも入る頃には事態は手遅れになっているというわけです。 だからこそ、専門家の研究を前提にして何年も前から国連を中心に温暖化に抗する動きが取られているわけですが、それでも事態の進行を食い止められずにいるようです。 では、なぜ食い止められないのか(本書のストーリーでいうと、すでに世界が崩壊した後の視点から語られるので「なぜ食い止められなかったのか」)ということになりますが、本書では大きな理由の一つとして、「市場原理主義という信仰」をあげています。 民主主義中心の世界では、市場に判断させることこそが正義だという風潮があまりにも強固に根付いてしまっているので、いくら深刻な事態になっても国連や政府が強引に経済活動にストップをかけることはできない、というわけです。 また、受け入れがたい事態を目の前にして、多くの人がその問題を認めようとしないという問題もあります。 本書のストーリーでは、未来の人々が「なぜこんな明らかな事態に対して当時の人々(=現代のわれわれ)は手を打たなかったのか」と考察していますが、そこには大きな困難を前にすると、根拠なく底抜けに楽観的になってしまうという、当時の人々(=われわれ)の心理現象が働いていたと分析されています。 「世界全体」を動かすことは不可能? とはいえ、では具体的にどうすればいいのか、という話は残ります。化石燃料を使うなといっても、いまの文明は電力なしではなりたたないし、考え方がバラバラの世界全部を同じ方向に向かせて、二酸化炭素の排出量を減らしていくなんてどうしたらできるのか、と。 これに対するわかりやすい答えは本書にはありません。そういう「だから、こうせよ」ということを一言でいえないところも、この手の問題が世論を喚起できない大きな理由の1つのようです。 その代わりに本書には、このまま行くとこうなるという陰鬱な未来像と、整然と破滅へと歩を進めるわれわれの奇妙な姿が強い説得力をもって示されています。この現実を親身に痛感することができて初めて、進むべき道を考えはじめることができるのだと思います。 【そんな私が「やられた!」の1冊】 『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹 著 中公文庫 『昭和16年夏の敗戦』 本書は関係者の証言や資料などから、昭和16年の太平洋戦争開戦に至った経緯を描き出したルポルタージュです。 当時、日本には軍部や官僚、民間等から若手エリートを集めた「総力戦研究所」という機関があったといいます。そして、そのメンバーが日米戦開戦の前に詳細なシミュレーションを行い、「最初は優勢だが、資源の枯渇により徐々に押され、やがてソ連まで参戦して3〜4年で負ける」というあまりにも正確な予測を出していた、というのがこのタイトルの意味です。 研究所のメンバーがその「日本必敗」の研究発表をしたのが昭和16年の8月の末、12月の開戦まで4カ月というタイミングでした。発表を直接聞いた、時の総理、東條英機の反応は、「これはあくまでも机上の空論。日露戦争だって絶対的に不利だったのに勝ったではないか」というものだったそうです。 とはいえ、このとき東條はひどく狼狽していて、一部の研究生は、この結果は東條の予想とそう違っていなかったのではないかと感じたといいます。 東條英機は「開戦」を避けたかった? 本書によると、この時じつは東條は、天皇陛下の命を受けて開戦を何とか回避しようとしていたようです。しかし当時の日本のシステムでは、天皇や総理といえど、大本営(軍部)の意向を容易に覆すことはできず、板挟みの中で苦しむ東條の様子がありありと描かれています。 ここに至った時点ですでに日本は中国や仏印(フランス領インドシナ)に進駐していたわけですが、アメリカは石油の対日禁輸を始める一方で、「関係を正常化し、禁輸を止めてほしいならば中国、仏印から全面撤退せよ」と言っていました。日本は日々すさまじい勢いで石油の備蓄がなくなっていく一方、世論を考えると、すでに無数の犠牲を出して乗り出している中国、仏印から突然撤退するなどあり得ない、という状況です。とはいえ、日米戦がはじまればもっと犠牲を出すことは目に見えていて、では、いったいどうすればいいのかというわけです。 そもそも、このタイミングで開戦を避けたいなどと言い出してもしょうがないわけで、もっと前にここで踏みとどまるべきポイントがあったはずですが、しかし今ここでそれを言ってもしょうがない。 「もはやどうしようもない」と思える状況の中、東條は苦悩し、抵抗するものの、結局、開戦に至り、シミュレーション通りに敗北し、大変な犠牲を出しました。本書を読んでいると、当時の「もはやどうしようもなかった」という感覚が伝わる一方で、現在の視点から「それでもどうにかしようがあったのではないか」ということを考えさせられます。 『こうして、世界は終わる』とともに、手遅れに見える状況のリアリティを意識でき、それでもなおも答えを探しつづけなくてはいけないということについて切実に感じさせてくれる一冊です。 三浦 岳(みうら・たかし) 1976年生まれ。2014年にダイヤモンド社へ入社。同社で担当した本は『0ベース思考』(S・レヴィット、S・ダブナー著、櫻井祐子訳)、『決める』(S・マクラッチー著、花塚恵訳)、『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』(D・アスプリー著、栗原百代訳)など。 このコラムについて 絶賛!オンライン堂書店
本の面白さを一番よく知っているのは、その本を仕掛け、書かせ、売る人、あるいは、他人の作った本に心から嫉妬している人。つまり、書籍の編集者だ。このコラムでは、ベストセラーを生んでいる編集者諸氏に、自ら手がけた本と、他の方の手になるお薦め本を紹介してもらいます。自分の仕事も他人の本も絶賛!オンライン堂へようこそ。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/233582/092800006/
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