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箱根火山はもはや“異常事態”ではない 日本は「大地変動の時代」に突入した 鎌田浩毅(京都大学教授)
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1339
2015.06.16 07:00 文芸春秋
東日本大震災がもたらした「歪み」。
いま列島の地下で何が起きているのか
鎌田浩毅氏
神奈川県にある活火山の箱根山で火山活動が高まり、観光地の大涌谷周辺の散策路などの立ち入りが禁止された。箱根山では四月下旬から地下の浅いところを震源とする火山性地震が増加し、蒸気井から水蒸気が通常より激しく噴き出すなど近年になく活発な活動が続いている。
こうした状況から気象庁は五月六日に「火口周辺警報」を発表した。具体的には、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に上げて、噴火に伴う噴石などに警戒するとともに、自治体などの指示に従い危険な地域に立ち入らないよう呼びかけた。
また五月二十九日には、鹿児島県の口永良部島が噴火した。
富士山噴火の可能性は? Photo:Kyodo
地球科学的に見ると、箱根山や口永良部島での活発化は既に予測された現象だった。というのは、四年前の三月十一日に起きた東日本大震災以後、日本列島で地震や火山噴火が活発になる兆候がいくつも現れたからだ。言わば「3・11」をきっかけにして、日本全体が「大地変動の時代」に突入したことを、地球科学者全員が認識していたのだ。
本稿では今春の箱根山の噴火、昨年秋の御嶽山の噴火災害、ひいては近い将来に心配されている富士山噴火との関連などについて、最新の研究データに基づく解説をしよう。
■箱根山は噴火するのか?
最初に、箱根山の地下で何が起きているのか説明しておこう。四月下旬から地下で地震が活発化し、蒸気の噴き出す勢いが特に強くなった。これは地下水が熱せられることで起きる「水蒸気噴火」と呼ばれる現象である。箱根山の地下約十キロメートルにあるマグマによって暖められた地下水が、急激に沸騰することによって発生する(【図1】参照)。たとえば、地下一キロ〜五キロメートルの間で沸騰した水が、小規模の地震を毎日起こしている。
この沸騰がさらに激しくなると、体積を増した水蒸気が地表まで突沸し、出口にある岩石を砕いて空中に撒き散らす。突発的に大量の噴石が落下する非常に危険な現象であり、「水蒸気爆発」とも呼ばれている。
火山体の内部は硬い岩からなると思っている人が多いが、岩にはたくさんの割れ目があり、その隙間に水(熱水)が入っている。さらにその下の深い場所に、高温のマグマがある。このマグマの動きが活発になって地下水を加熱すると、水が大量に気化するのだ(【図1】)。
ちなみに、昨年九月に御嶽山で起きた噴火のメカニズムも、まったく同様である。死者・行方不明者を合わせた六十三名は、四十三名が犠牲となった長崎県・雲仙普賢岳の噴火(一九九一年六月)を上回る。
噴煙上がる御嶽山 Photo:Kyodo
御嶽山では噴火の規模が小さい割に、戦後最大の火山災害が発生した。元来、水蒸気噴火は突発的に起きるので予知が一番難しいものだが、加えて紅葉シーズンで快晴の土曜日、登山客の多い山頂近くで昼過ぎに噴火が始まるなど、すべてが最悪のタイミングだった。火山学者にとっても完全に不意を突かれたのである。
さて、今回の箱根山では、火山性地震が増加した後、大涌谷付近を中心に山が膨張するという「地殻変動」も観測されている。地下の熱水やガスが地面を盛り上げている現象だが、元々の原因は地下深部にあるマグマの活発化にある。
一方で、マグマの動きを直接的に示す火山性微動や低周波地震は、これまでのところ観測されていない。このことから、マグマが地表近くまで上昇している気配はまだないと考えられる。
今春のような群発地震を伴う水蒸気噴火は、十四年前に起きた現象とよく似ている。群発地震が二〇〇一年六月に始まって十月末にやっと終息したので、現在の箱根山も数ヶ月くらいは沈静化しないだろう。
火山活動続く箱根山の大涌谷 Photo:Kyodo
実は、噴火がどのように推移し、いつ終息するのかを具体的に示すことは、火山学がもっとも不得意とするところなのだ。したがって、時々刻々と変わる火山活動を、これからもリアルタイムで辛抱強く注視し続けるしかない。
地球科学には「過去は未来を解く鍵」というキーフレーズがある。過去の事例からの長期的な噴火シミュレーションは、さほど不可能ではない。
今後、地下にあるマグマが活発化すると、現在の水蒸気噴火から、マグマが直接関与する「マグマ水蒸気噴火」が起きる。さらに、その先には地上へマグマが噴出する「マグマ噴火」に移行する可能性もある。
具体的には、十キロメートル以深のマグマだまり周辺で火山性地震の数が増え、また地震のマグニチュード(以下Mと略記)が大きくなると、マグマが活発化したと判断する。さらに、現在も見られる山が膨らむ傾向が加速すれば、マグマ噴火ステージへの移行が懸念される。
たとえば、雲仙普賢岳の噴火では、水蒸気噴火が起きた三ヶ月後に、マグマ水蒸気噴火が始まった。その後は本格的なマグマ噴火へと移行し、山頂に巨大な溶岩ドームができたのである。これが崩壊して山麓の島原市街へ高温の火砕流が流下し、大災害となったことは記憶に新しい。
また、二〇一一年の霧島火山・新燃岳の噴火では、水蒸気噴火の十ヶ月後にマグマ水蒸気噴火へと移行した。その間には水蒸気噴火を何十回も繰り返したのである。
箱根山の中・長期的な噴火予測には、かつて箱根山が噴出した火山灰の記録が役に立つ。それによると、規模の大きい水蒸気噴火が十二世紀〜十三世紀にも起きていた。また、三千年ほど前の噴火では、マグマが地上に出て冠ケ岳が誕生した。この頃には山から崩れた土砂が早川の上流をせき止め、芦ノ湖が姿を現した。
箱根山でもっとも心配されるのは、六万六千年前に起きた「巨大噴火」である。大規模な火砕流が六十キロメートル離れた横浜市まで到達した。高温で高速の火砕流が、神奈川県のほぼ全域を焼き尽くしたのだ。
その直前には、大量の軽石と火山灰も噴出し、東京では火山灰が二十センチメートルも降り積もった。もちろん現在、こうした破局噴火が起きる兆候があるわけではないのだが、起きうる現象として、頭の片隅に留めておく必要はあるだろう。
この続きは「文藝春秋」2015年7月号でご覧ください。
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