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しまむら・ひでき
1941年、東京都生まれ。武蔵野学院大学特任教授。東京大学理学部卒業、同大学院修了、理学博士。東京大学助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学(地震学)。「直下型地震」、「日本人が知りたい巨大地震の疑問50」、「新・地震をさぐる」など著書多数。
次々噴火する火山 日本列島の状況はどこまで深刻なのか ――島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く
http://diamond.jp/articles/-/73271
2015年6月17日 ダイヤモンド・オンライン編集部
死者・行方不明者が63人にも上った昨年9月の御嶽山噴火。今年に入ってからも、箱根山や口永良部島、浅間山など、火山活動が活発化したり、噴火に至るケースが相次いでいる。この現状を専門家はどう見ているのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
■東日本大震災の影響はどこまであるのか
――東日本大震災以来、地震や火山活動が活発化していると、多くの専門家が指摘しています。巨大地震が火山に及ぼす影響とは、どのようなものなのでしょうか?
東日本大震災を引き起こした、東北地方太平洋沖地震のモーメントマグニチュード(Mw)は9でした。Mwとは、従来の気象庁マグニチュードとは異なる計測手法で、近代的な地震計が普及して求められるようになった数値です。気象庁マグニチュードはM8.4以上の大地震が起きた場合、正確に数値を出すことができないのですが、Mwは巨大地震の大きさを正確に計測できる手法なのです。
地震計が進化してMwを求められるようになって以降、世界で起きたMw9以上の巨大地震は7つです。
このうち、東北地方太平洋沖地震以外の6つの地震では、地震の1日後から5年くらい後までに、半径600〜1000キロ以内の複数の火山が噴火しています。東北地方太平洋沖地震だけが、これまで噴火が起きておらず、例外的だと思われていましたが、昨年9月に御嶽山が噴火しました。
半径600〜1000キロといえば、本州がほぼ覆われるような範囲です。つまり、これからも日本列島のどこで火山の噴火が起きても、まったく不思議ではないということです。
ただし、これは病気で言えば「世界で7人しか患者がいない奇病」というようなものです。大勢の患者のデータが取れる病気であれば、予後について有意なデータも得られるでしょうが、たった7人では、その病気の予後を予測などできないでしょう。それと同じで、巨大地震と火山の関係もデータが少なすぎて「分からないことが多い」というのが、本当のところです。
また、現在の状況がおよそ1100年前に起きた貞観地震の頃と似ている、と指摘する専門家もいます。貞観地震の後に、関東で直下型の地震が起き、さらに南海トラフ巨大地震も起きました。ただ、この説も、確かに似てはいるものの、本当に同じことが起きるのかどうか、断言できるだけのデータをわれわれは持ち合わせていません。
■100年間静かだった日本列島 1世紀に4〜6回の大噴火は「通常の範囲内」
――ただ、確かに3.11以降、火山噴火が増えたという印象を持っています。
昨年の御嶽山噴火は死者を出した大災害となりました。そのほかにも、火山活動が活発化したり、噴火に至った火山が続出している。しかし、長い目で見ると実は、この100年のあいだ、日本列島は異常なほど静かだっただけと言えます。
火山の噴火はさまざまなタイプと規模があるのですが、火山学者は東京ドーム約250杯分以上の噴出物があったものを「大噴火」と定義していいます。この「大噴火」は日本の場合、100年間に4〜6回ほどは必ず起きていました。それが20世紀に入って以降、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いている。そう考えれば、3.11以降、むしろ普段に戻っただけとも言えるわけで、今世紀はあと4〜6回の「大噴火」が起きても、何の不思議もありません。
日本には110もの活火山があり、うち50の火山が24時間監視されています。さらに噴火を警戒せねばならない30の火山については「噴火警戒レベル」がつけられています。これらの火山のうち、たとえば浅間山は、過去100年で50回ほども噴火しており、少なくとも50年分はデータが蓄積されているため、予測しやすい。桜島や有珠山も比較的頻繁に噴火しているために、クセが読みやすい火山です。
しかし、これらの読みやすい火山は例外で、ほかの火山は噴火に関するデータが少なすぎて、まったく予測ができないのです。富士山にしても箱根山にしても、地質学調査によって、過去に噴火したことは確実に分かっています。しかし、噴火前にどのような前兆があったのかは分からないのです。
富士山に関しては、山体膨張(火山の下からマグマや火山性ガスが上がってきて山が膨張すること)が起きたことを示すデータはあります。ほかにも、河口湖で異常な水位低下が起きたり、氷結で氷が溶けるといった異変が報告されていますが、果たして本当にこれが前兆なのか。また、前兆であったとして、どの程度、噴火が差し迫っているのかは、分かりません。
■火山の噴火予知は難しい 御嶽山に「騙された」科学者たち
――では、噴火警戒レベルはあまりアテにならないのでしょうか?
昨年の御嶽山噴火では、噴火警戒レベルを上げなかったために登山者が大勢いて、大きな被害を生んでしまいました。これは、御嶽山に不意打ちを食らい、「騙された」とでも言いたいようなケースでした。
御嶽山はそもそも、過去には死火山に分類されていた火山です。それが79年にいきなり噴火し、気象庁も火山学者も非常に驚いた。それ以降、「死火山・休火山・活火山」という分類を止めてしまったほどです。今は、「活火山(過去1万年以内に噴火したことが分かっているもの)」と、「そうでない火山」という分類になっています。
その御嶽山は2007年にも小規模な噴火を起こしました。このときは、4ヵ月前から火山性地震や山体膨張、さらには火山性微動も観測されていました。しかし、14年の噴火では、2週間前に火山性地震が一時的に増えたものの、収まっていた。火山性微動が観測されたのは、噴火のわずか11分前でした。それなのに、多くの前兆があった07年よりも、ずっと大きな規模の噴火が起きてしまいました。
つまり、79年の噴火と14年の噴火で、気象庁と火山学者は2度、御嶽山に騙されたのです。
御嶽山のように前兆と噴火規模のつじつまが合わなかったり、たくさん前兆があっても噴火に至らないケースも多いので、07年の噴火警戒レベル導入時、火山学者のあいだでは「本当に導入してもいいのか?」と問題視する声が上がりました。
有珠山や浅間山、桜島、雲仙岳あたりは、その火山の「ホームドクター」といえる火山学者がいて、観測体制が充実している。しかし、それ以外の火山にはホームドクターはいませんし、先に述べたように、噴火のクセも良く分かっていない。それなのに本当に導入していいのか、と。その懸念が現実化してしまったのが、御嶽山のケースとも言えます。
また、火山活動がいつ終わったのかを見極めるのも、至難の業です。実際には、収まって半年もしてから「終わっていました」と言うのが精一杯なのです。残念ながら、噴火警戒レベルは決めるのが難しいし、また、アテになるものでもないのです。
――箱根山は4月下旬に火山性地震が増加し、噴火警戒レベルが2に設定されましたが現在、地震の数が減ってきています。これも「地震の数が減ったから火山活動が沈静化した」と一概には言えないのでしょうか?
御嶽山のケースのように、火山性地震がいったん減ったのに、噴火に至ったケースもありますから、簡単に安全だとは言えません。06年に噴火した雌阿寒岳も、やはり火山性地震が減ったあとに、小規模ですが噴火しました。箱根山は恐らく、沈静化に向かう可能性の方が高いだろうとは思いますが、噴火することもあり得ると考えています。
そして、確実に言えることは、箱根山は過去に何度も大きな噴火を起こしたということです。噴火の際に生じた火砕流が外輪山の内側を埋めて、仙石原や芦ノ湖をつくりました。また、新幹線と同じくらいのスピードで流れる火砕流が、神奈川県の大磯や横浜にまで到達したことも分かっています。
さらに、「大噴火」の400倍以上も大きい「カルデラ噴火」という巨大噴火が、日本では過去10万年間に12回、起きたことが知られています。たとえば、約7300年前に九州南部で起きた鬼界カルデラ噴火では、西日本で縄文初期の文明が断絶してしまうほどの威力でした。
カルデラ噴火までいかなくても、通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもあります。
現代社会であっても、噴火による被害は甚大です。たった1ミリの火山灰が積もっただけで、空港の滑走路は使えなくなりますし、鉄道も道路も大混乱になるはずです。電線が切れたり、水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出るでしょう。しかも、雪と違って溶けてなくなりませんから、被害は長期にわたります。
■現代人は自然災害に無頓着 原発再稼働は危ない
われわれ現代人は、大きな噴火について、あまりにも無頓着です。火山が噴火し、巨大地震が繰り返し起きることで、現在の日本列島が形作られてきたことを思い出さねばなりません。
噴火や地震を防ぐことなど誰にもできませんが、普段の生活で避難路を確認したり、枕元に懐中電灯や底の厚い避難用の靴を用意するなど、一人ひとりにできる備えはすべきでしょう。
また、再稼働問題が持ち上がっている原発についても、これほど大規模な噴火や地震が繰り返し起きている国なのだということを、よく考えていただきたい。フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)も、安定した地盤に作られていると言われていますが、スカンジナビア半島ではこれまで、いくつかの地震があったことは分かっています。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはないのです。
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