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関東大震災では列車の脱線転覆があった(土木学会HP「関東大地震震害調査報告掲載写真」より)
【沿線革命045】 平日朝8時に首都直下地震に襲われたら鉄道はどうなる?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43613
2015年06月05日 現代ビジネス
ここのところ地震や噴火が続き、いよいよ大震災が近いとの大地の警告かもしれない。平日朝8時に首都直下地震に襲われたら、東京の鉄道はとんでもないことになりかねない。
■平日朝8時に首都直下地震に襲われたら・・・
5月25日の14時28分、埼玉県北部を震央に地震が発生し、最大震度5弱、首都圏の各所で4を記録した。30日の20時23分、小笠原諸島西方沖を震央に地震が発生し、最大震度5強、首都圏の内陸部でも5強、5弱、各所で4を記録した。さらに、6月4日の4時34分、釧路地方中南部を震央に最大震度5弱の地震が発生した。
5月29日の10時07分、鹿児島県の口永良部(くちのえらぶ)島・新岳が噴火し、住民ら137人全員が隣の屋久島に避難し、現在も警戒が続いている。2014(平成26)年9月27日、長野・岐阜県の御嶽山が噴火し、死者・行方不明者併せて63人に達した。
その他、神奈川県の箱根山、東京都小笠原村の西之島、鹿児島県の桜島、福島県の吾妻山、宮城・山形県の蔵王山などで活発な火山活動が続いている。
さらに、4月10日には、茨城県鉾田市の海岸に130頭以上のイルカが打ち上げられ、最近は東京湾でシャチの群れが目撃されている。過去の大震災の前、動物が奇怪な行動を取る例が多数報告されており、これらがそれに当たらないことを願いたい。
地震大国かつ火山列島である日本に生まれた以上、地震や噴火への覚悟を持たざるを得ない。1995(平成7)年1月の阪神・淡路大震災を機に、日本列島は地震・火山活動の静寂期から活動期へ移行したと受け入れなければいけないのだろう。
地震リスクの増大に伴い、地震保険の保険料も2014(平成26)年7月に15.5%値上げされ、2016年秋にも19%値上げされる見込みだ。
私は、平日朝8時に首都直下地震に襲われた際の鉄道のことを想うと、怖くて仕方ない。
■阪神・淡路大震災では鉄道に関わる死者ゼロ
阪神・淡路大震災において、私は、あの大きく変形した線路の写真を見たとき慄然とした。地上の線路は、大地震によりなす術もなくこんなに変形してしまうのかと。
大きく変形したJR西日本神戸線の摂津本山付近の線路((株)交通新聞社提供)
もし、あの線路に15両編成に5,000人以上が乗る満員電車が100km/h以上で突っ込んだら、どういうことが起きるかを想像すると、背筋が寒くなるどころの話ではない。山陽新幹線では、橋梁が落下した箇所もあり、大きな被害を受けたトンネルもあった。
落橋したJR西日本山陽新幹線の阪急今津線との交差箇所((株)交通新聞社提供)
阪急電鉄伊丹線の伊丹駅は壊滅的な被害を受けた。
壊滅的な被害を受けた阪急電鉄伊丹線の伊丹駅((株)交通新聞社提供)
なのに、16本の列車が脱線したものの、死者は生じなかった(『鉄道を巨大地震から守る』『よみがえる鉄路』(山海堂)より)。
なぜか。
早朝6時前だったからである。新幹線は運行開始前、在来線や民鉄も走行中の列車は限られ、車内もガラガラだったからだ。
その幸運に気付かぬまま、次への備えを怠っては絶対にいけない。
■早期地震警報システムで大惨事は防げる?
地震波は大きく分けて、速度が速く揺れが小さい縦揺れのP波と、速度が遅く揺れが大きい横揺れのS波からなる。震源が遠い場合は、P波とS波の到達に時間差が生じるので、P波を検知することにより本震であるS波の到達を事前に予知できる。
それを活用したのが早期地震警報システムで、一定規模以上のS波の進来が予測される場合は、運転士へ警報を発報し緊急停止させる。首都圏の鉄道はそれに守られ、安心かと言うと残念ながらそうではない。
鉄道の鉄車輪と鉄レールの組合わせは、自動車のゴムタイヤとアスファルト舗装の組合わせと比べ、摩擦力(鉄道業界では「粘着力」と称する)が圧倒的に小さい。
そのために、鉄道は転がり抵抗が小さく省エネかつ低環境負荷(特に100km/h以上では圧倒的)という強みを持つが、減速度が小さく緊急停止できない弱点になる。
目前の線路が破壊していても、障害物があっても、急には停まれないのだ。現行の鉄道は、緊急停止でも100km/hからで30秒、300km/hからでは2分近くを要する。
ということは、P波とS波の到達時間差の短い直下地震では、早期地震警報システムにより緊急停止指示を受けても、本震が来るまでに停まれない、あるいは十分に減速できない。
目前の線路が大きく変形していても、橋桁が落下していても、対向列車や多数の人が進入していても、停まれないのだ。また、列車そのものが上下動でバウンドしながら、地面や線路が大きく揺れる中を走り続けることになる。
■首都直下地震時の最悪シナリオ
起きて欲しくないからこそ、最悪シナリオを示そう。多くの人に恐ろしさに気付いてもらい、真剣な対策が実行されることを切に願っている。
平日朝8時前後、首都圏では数百人〜数千人が乗車した満員電車が数百本、数十km/hから中には100km/h以上で走行している。そこに首都直下地震が襲い、早期地震警報システムも効果を発揮できないとする。
首都圏では、こんな満員電車が数百本も同時に走行している(2015年1月27日に代々木上原駅にて撮影)
大きく変形した、しかも揺れ動く線路に高速の満員電車が各所で突っ込んでいく。その多くは脱線転覆し、隣接線へはみ出し、並行列車や対向列車との衝突も頻発しよう。地震動によりホームから大量の人が転落したところへ列車が進入といったことも起きるだろう。
仮に脱線・転覆が10本に1本で済んだとして数十箇所で同時に、2005(平成17)年4月の福知山線脱線事故(http://katoler.cocolog-nifty.com/marketing/images/amagasaki_jr_derail.jpg)と同等あるいはもっと悲惨な事故が起きることになる。5本に1本だと100箇所同時である。1本当りの死者・生埋め者が1000人だとすると総計10万人にもなる。
大規模停電も起きるだろうから、地下鉄の照明は非常用のわずかとなり、エスカレーターもエレベーターも動かない。非常用電源の燃料がなくなれば真っ暗となる。
■人員も機材も事故現場へ辿り着けない、生き埋め者を救えない
2011(平成23)年3月の東日本大震災の際、多くの人が帰宅難民となり、また道路渋滞で何時間も車に閉じ込められた。首都圏では震度も被害規模も大震災ではなかったのに、道路があんなに大渋滞して身動きが取れなくなったのだ。
本当の大震災に襲われたら、深刻な渋滞ばかりでなく、道路陥没や交通事故、また沿道の電柱や建物の倒壊が多数発生し、大規模火災による通行不能も各所に生じる。
道路は使いものにならず、消防車も救急車もパトカーも、クレーン車も作業員移動車も、移動がままならない。救援のための人員も機材も事故現場へ辿り着けず、鉄道の脱線・転覆で生き埋めとなった多数の人を、救いたくとも救えなくなる。
被害規模と比べて救急車はあまりに無力で病院搬送もままならない。医師も看護師も薬剤師も鉄道事故に巻き込まれる人が続出し、また交通が止まって病院へ出勤できず、病院の処置能力も低下する。
即死を逃れた多くの生埋め者の大半を、悲しいことにほとんど救えないのだ。真夏で最高気温が38度などとなったら、数万の遺体が数日で腐敗し伝染病が蔓延しかねない。真冬で最低気温が氷点下となったら、生埋め者は体温低下し短日時で絶命する。
■地下鉄はさらに恐ろしい
地下は地上と比べて地震時の揺れが小さく、地下鉄は地震に強いと言われる。
実際、東日本大震災では、JR東日本の地上と高架の鉄道は、駅・電柱・橋脚などが多数の損壊を受けたが、仙台市地下鉄では大きな被害はほとんどなかった。
しかし、地下鉄は地震に強いとは言え、限界点を越えれば大損壊を受け、大人数が地下に生き埋めとなり、停電で明かりもなく自力脱出も絶望的だ。
阪神・淡路大震災では、地下鉄である神戸高速鉄道の大開駅が壊滅的な被害を受け(毎日新聞http://mainichi.jp/graph/select/archive/hanshin/image/014.jpg)、もし列車が進入していれば大惨事となっていた。
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現代文明が掌握している今までの地震を上回る地震は起きないなどという都合の良いことはあり得ず、地下鉄に大開駅を上回る大損壊を与える大震災はいつか必ず来るだろう。それが明日なのか1万年後なのかは誰にも分からない。
さらに、震源が東京湾の内陸近くだと、短時間で津波が地下鉄の坑口に押し寄せ、途中区間の多くの列車と人を巻き込みながら地下鉄ネットワークを水没させかねない。死者・生埋め者はさらに増える。
地下鉄の開口部には可動式の遮水壁が設置されているが、そこで列車が脱線していたら閉められない。
関東大震災後から戦中・戦後・高度経済成長期・バブルの時代と、地球の長い歴史の中では偶然と言うべきか、日本列島は地震の静寂期だった。
その間に地震大国日本に地下鉄ネットワークを作り、近い将来に後悔することにならないことを願うばかりだ。
■死者117名の関東大震災の時代とは鉄道への依存度が大きく異なる
冒頭写真に示したように、相模湾の震源近くの早川・小田原地区の線路は信じがたい大損壊を受け、脱線転覆事故もあった。国鉄の列車脱線は23本で、死者117名だった(土木学会編『大正12年関東大地震震害調査報告書』より)。
しかし、関東大震災の死者・行方不明者10万人以上と比べたらわずかであり、なんら社会問題にならなかった。
関東大震災後、大規模火災被害を受けた城東地区を中心に郊外移転が進み、また、地方からの上京者の住まいは郊外が中心となった。その郊外開発を支えたのが鉄道である。
首都圏の各民鉄のほとんどの路線は、関東大震災後に急速に建設が進み、戦後の人口急増期には、国鉄の各路線とともに輸送力増強が重ねられた。
その間、短期的には幸運なことに、地震の静寂期が続いた。長期的には不幸なこととならないことを願い、この記事を書いている。
関東大震災時と現代社会では、首都圏の鉄道のネットワーク密度・列車本数・走行速度・利用人員とも桁違いだ。
首都圏の人口3,000万人は人類史上最大であり、しかも平和で豊かに暮らせている。それを支えているのは鉄道ネットワークであり、複線の路線長2,500km、利用者1日4,000万人も人類史上最大である。
過去の大震災の最大死因は、関東は火災、阪神・淡路は圧死、東日本は津波だった。私は、次の大震災では鉄道の脱線・転覆になりかねないと怖くて仕方ない。
首都直下地震により鉄道の脱線・転覆事故が同時多発したら、日本の国そのものの存亡の危機となる。首都圏に住む日本社会の中枢人材を大量に失い、大震災から数週間は救命・救護・遺体処理に社会全体が忙殺され、数ヶ月から数年は効率的な交通機能を失う。
我が国は社会全体の生産性を著しく低下させ、先人たちの努力により築き上げてきた栄華を失いかねない。日本民族そのものの未来の危機だ。
■鉄道各社の現行の地震対策は大事な点が漏れている
鉄道各社とも、次の大震災への備えが極めて重要なことを強く認識し、積極的な取り組みを進めている。
例えば、首都圏で最大の鉄道ネットワークを持つJR東日本は、2012(平成24)年から5年間に耐震補強対策等に3,000億円もの巨費を投じている(http://www.jreast.co.jp/earthquake_measures/)。
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主な内容は、橋脚へ鉄板を巻く等して補強、駅舎等の天井や壁を補強、盛土のり面を補強、東日本大震災時に共振倒壊した高架橋上の電化柱を補強、地震観測体制を整備、非常用通信設備・電源等を整備、地震に関するルール・マニュアル等を整備といったことである。
それらの対策を見て、大事な点が2つ漏れていると指摘しよう。
1つ目は、線路の構造として最も多い地上の有道床軌道(路盤に道床・まくらぎ・レールを敷設したもの)の線路が、阪神・淡路大震災の時のような大変形を起こさない対策である。
線路の構造で最も多い地上の有道床軌道(2015年2月18日に浜松町駅にて撮影)
軌道の乗る高架橋や盛土が損壊を受けないための対策にはふんだんに経費が投じられる一方、軌道そのものが大変形を起こさない対策に、なぜか力点が置かれていない。
2つ目は、列車の減速度を向上させる対策である。鉄道事故を甚大化させる大きな要素は走行速度である。直下地震では、いくら早くにP波を検知しても効果薄であることは既に説明した。
鉄道の弱点である減速度を向上させる対策に、もっと注力すべきではないだろうか。
■大切なことは健全な危機意識
我々は、東日本大震災により、起きて欲しくないことに目をつぶり、起きたら「想定外」と称することは許されないと学んだ。そして、起き得ることへのできるだけの備えをしなければいけない。
【沿線革命】の毎度のことだが、今回書いたことは、関係者を非難することや、先人達の苦労を貶めることが目的ではない。最悪シナリオは絶対に起きて欲しくないし、だからこそ、多くの人に「健全な危機意識」を持ってもらえるよう、思い浮かぶ限りの極限を書いた。
多くの日本人は、地震や噴火の頻発を大地からの警告と捉え、鉄道の大震災への備えの「現時点の」手薄さを非難する考えはないだろう。むしろ、「現時点の」手薄さが明確となり、今後の効果的な取り組みが示されることを望んでいるだろう。
健全な危機意識が広まり、事の重大性が共通認識となれば、鉄道各社の自己資金による取り組みばかりでなく、税金を投じて早急に実行すべきとの世論も高まるだろう。
首都直下地震が、平日朝8時でなく深夜3時に来てくれれば、私の心配は杞憂で終わる。心底、そうなって欲しい。しかし、そんな都合の良い幸運頼みに日本民族の未来を託すわけにはいかない。
最悪シナリオが起きないためにどうしたら良いのか、どうすべきなのか、低コストで早急な対策、鉄道を再構築する中長期的対策をいくつも用意している。
特に、今回指摘した地上の有道床軌道に大変形を起こさない対策と、列車の減速度を向上させる対策が重要かつ有効である。
次回はそれらを紹介しよう。
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阿部等(あべ・ひとし) 1961年生まれ。東京大学 工学部 都市工学科卒。88年にJR東日本へ入社、保線部門を中心に鉄道の実務と研究開発に17年間従事。2005年に同社を退社し(株)ライトレールを創業、交通計画のコンサルティングに従事。著書『満員電車がなくなる日』。日経ビジネスオンライン「キーパーソンに聞く」が好評。FacebookとTwitterにて実名で情報発信。交通や鉄道の未来を拓きたい方のために、交通ビジネス塾(http://www.LRT.co.jp/kbj/)を主催し、工学院大学オープンカレッジ鉄道講座(http://www.LRT.co.jp/kogakuin/)の事務局を務めている。
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