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活断層の研究はどこまで進んだか?東京23区内にもある調査未了地域
2015年2月23日(月) 三木 いずみ
昨年11月末以降、長野、徳島、青森と大きな地震が続いている。どの県も「活断層」(これからも動くと考えられる断層)の存在が認められる場所であり、今後のこれらの活断層の動きに注目が集まる。
活断層と地震の関係性が、一般にも知られるようになったのは、活断層による被害「震災の帯」が確認された阪神淡路大震災からだ。この地震を契機に国は全国の活断層地図「都市圏活断層図」を作成。さらに、東日本大震災の原発事故を受けて各地の原発のそばを通る活断層の調査も始まった。
現在、これら活断層の調査研究はどのような状態にあるのか。東日本大震災前から原発そばの活断層の存在と危険性を指摘し、活断層研究の第一人者である東洋大学・渡辺満久教授に聞いた。
(聞き手=出版局編集第一部・三木いずみ)
昨年11月22日に長野県北部で震度6弱。つい先日、2月17日に青森県階上町で震度5強、2月6日にも徳島県南部で震度5強と大きな地震が続いています。また、昨年は長野県と岐阜県の県境で御嶽山の噴火もありました。東日本大震災以来、「日本は地震の活動期に入った」と言われますが、それを実感します。長野の地震発生直後、現地調査に行かれたとのことですが、改めて何かわかったことはありますか?
渡辺満久(わたなべ・みつひさ)氏
東洋大学社会学部教授。新潟県生まれ。東京大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科地理学専攻博士課程を修了(理学博士)。専門は変動地形学および活断層の研究で、2002年より現職。敦賀原発をはじめ各地の原子力発電所周辺の活断層の存在を早くから指摘。国内外に活断層のリスクについてさまざまな問題提起を行っている。2012年には、原子力規制委員会が行った大飯原発の現地調査で外部専門家として招かれるなどしている。
渡辺:実際に調査してみると、やはり、活断層の存在が指摘されていた場所に被害が集中していました。白馬村堀之内や三日市場、大出などの地区がそうです。
長野県には、山梨県にかけて約150キロに及ぶ日本最大級の活断層「糸魚川−静岡構造線断層帯」の一部、「神城断層」が縦に貫くようにあります。この活断層の一部とこれに付随する小さな活断層が動いたことが確認されたのが、堀之内や三日市場です。特に、これらの地区に家が倒壊するなどの大きな被害が集中していました(図1、図2)。
図1 活断層の隆起側で発生した被害。写真は堀之内地区のもの。家が倒壊している。
図2 写真は大出地区。地中の断層がずれたことで、上にある柔らかい地層がひずむ現象「撓曲(とうきょく)」が発生した可能性が高い。
小さな活断層が確認されなかった神城断層を挟んで反対側の地区(図3、地図の左側)では、被害が小さく、墓石が飛んだりもしていませんでした。
図3 長野県の詳細な活断層図。大出(北部)や堀之内(南部)など被害の大きかったところは、大断層とそれに付随する小さな活断層の近傍だ。一方、JR白馬駅やかみしろ駅の周辺ではほとんど被害を確認できない。出典:鈴木康弘ほか(2015)科学、85巻2号より。
大きな活断層が同じように近くにあるのに、被害の度合いが違ったということですか? なぜですか?
渡辺:大きな活断層の近傍では土地が盛り上がり、さらに付随する小さな活断層の動きも加わることで、「ズレによる被害」がより大きくなるからです。
ズレによる被害とは?
渡辺:活断層の起こす地震には「揺れによる被害」と、「ズレによる被害」の2つがあります。揺れによる被害は、最終的に地盤の良し悪しで決まるので、活断層のあるなしが被害の大小に関係するとは限りません。これに対して、ズレによる被害は、断層が動き、土地がズレることによって起きる被害なので、まさに活断層近傍で発生します。
問題なのは、揺れによる被害と違い、ズレの被害を防ぐのは容易ではないことです。地面がズレてしまうのですから、揺れと違い、家を耐震構造にしたとしても効果は薄い。
家のそばの活断層を知る手段はあるか?
小さな活断層も軽視できないということですね。現在、それら小さな活断層が、自分の住んでいるところにあるかどうか、一般の人が確認する手段はあるのでしょうか?
渡辺:残念ながらありません。本当に防災に役立つのは、自分の家の位置がわかるスケールのもので、そういうものを国は作るべきです。一般に公開されている活断層図のうち、「都市圏活断層図」(国土地理院)が最も正確な図ですが、それでも十分とは言えません。軟弱地盤と活断層近傍で被害は起きますので、住んでいる場所の地盤の強度と活断層の位置で見当をつけてもらうしか、今のところありません。
詳細な活断層を国で調べるところまで行っていないのはなぜですか?
渡辺:一つは研究者の間でも、考えが違うからです。大きな活断層に付随する小さなものは、活断層とは呼ばない、だから活断層図にも書かないという考えの人がいます。一番活発に大きく動いているところだけ書けばよいという主旨です。
「研究者は社会的なことに口を出すべきではない」という立場の人もいます。被害がどう出るかといった問題は科学ではない、研究者はあくまで活断層でどんな起伏ができるのかを見るべきだという考えです。
さらには、小さな活断層の存在は堀ってみないとよくわからないことも多いため、「小さいものを書いて、間違っていたらどうするんだ」という自治体などからの反発もあります。
「地震被害の大小に関する一番重要なデータは活断層の位置だ。もう少し詳細な活断層図を作らないとだめだ」と言っても、「間違っていたらどうするんだ」「財産権の侵害だ」と言われる。こうなると、同じ考えのグループでのみ、研究を続けるしかありません。
活断層があったときの被害の大きさを考えると、「ある」を前提で考えるほうが合理的な気がしますが……。残念ながら、いろいろな立場の人がいると。それでは、調査研究もなかなか思うように進まない気がします。
渡辺:警告を発しても、無視されてしまうことも多いです。阪神淡路大震災のあと、活断層を発見して活断層図に書こうとしたら「被災している人がまだたくさん住んでいる平野のなかに、活断層の線を引くつもりか」と言われたりもしました。
渡辺さんは、原子力規制委員会の原発そばの活断層を調べる調査団の外部メンバーでもありますね?
渡辺:原発そばの活断層に対する考え方に関しても同じことが起きています。私は原発を建てるなとは言いません。ただ、活断層があるのがわかっていて、そのそばに建てて本当にいいのかということです。
あるかわからないところがまだ多い
活断層の新しい調査方法はでてきているのでしょうか?
渡辺:今、注目しているのは、小型無人飛行機(UAV)を飛ばして、地形を空中撮影する方法ですね。UAVを1回飛ばして撮影するだけで、今はその写真から3Dの地形図を作ることができ、かなりのことがわかります。でも、これもプライバシーの侵害ということで、規制がかかるかもしれないという問題が懸念されています。
阪神淡路大震災で活断層が注目されて以来、活断層の研究者自体は増えたりはしていないのでしょうか?
渡辺:いいえ。全般に基礎研究が軽視される傾向のなか、活断層を研究する変動地形学はさらに絶滅の危機に瀕しているといえます。
一方で、活断層の調査研究を活用し、徳島県では、活断層を利用にした土地規制が行われるようになりました。三重県でも渡辺さんらの活断層図を参考に学校の建て替えの際、位置をずらしたという事例があります。
渡辺:ただし、活断層はあるかないかわからないところもまだたくさんあります。例えば、埼玉県から続く断層で、東京23区内ではその断層との連続性がよくわからないところがある。調査未了地域です。地震の活動期に既に入っている今、早急に調べるべきだと思います。
「土地の『未来』は地形でわかる」(渡辺満久著)
「土地の『未来』は地形でわかる」渡辺満久著、日経BP社
渡辺さんの近著。活断層とはそもそも何なのか、どのようにその存在を調べるのか、そして、どんな防災対策があるのか。活断層を調べる「変動地形学」の基礎から、これらをわかりやすく解説した。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150216/277551/?ST=top
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