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噴煙をあげる桜島。九州は日本でも火山活動が活発なエリアだ〔PHOTO〕gettyimages
「1ヵ月後の巨大噴火を予知」そのとき、原発をどうするか?核燃料棒の取り出しは、とても間に合わない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41134
2014年11月21日(金) 週刊現代 :現代ビジネス
3・11で想定外の巨大地震に見舞われ、初めて大規模な原発事故に襲われた日本。自然が引き起こす巨大災害の教訓を活かしたはずの、新しい原発の安全審査に、火山学者たちが続々と異議を唱えている。
■川内原発は大丈夫なのか
「あきれはてて言葉もない。こんなに重要な問題で、あんないい加減な審査基準を打ち出して、したり顔しているとは。今回のことで私は、日本政府や電力業界に、原発の運転を任せられるような科学的な発想は皆無なんだと確信した」
九州は博多駅から電車を乗り継いで30分強、福岡大学のキャンパスで11月2日から4日まで開かれていた、日本火山学会の秋季大会に参加したある火山学者は、こうぶちまけた。
元来、火山学者の多くは、一人で山に分け入って岩石を採集したり、火山に設置されたセンサーのデータを見つめる研究生活を送っている、物静かな人々だ。
ところが、そんな火山学者たちが、「ふざけるな」と噴火≠オたのだ。
きっかけは、原子力規制委員会が、鹿児島県の川内原発についての安全審査を終え、再稼働にGOサインを出したことだった。
〈設計対応できないような火山事象が川内原子力発電所に影響を及ぼす可能性は十分小さい〉
これが安全審査の結論だった。原発が耐えられないような火山の噴火は考えなくてよい—。このニュースを聞いて、多くの火山学者が仰天した。
九州は、全国でも活発に活動する火山が多い地域だ。
たとえば、鹿児島県の桜島は日々、噴煙をあげているうえ、同地で観測を続ける京都大学火山活動研究センターの井口正人教授は以前から、
「大正に起きた巨大噴火の直前のレベルまで地下のマグマが溜まりつつある」
と警告しつづけている。
さらに、従来から観測が試みられてきた噴火ではない超巨大噴火を引き起こす火山も九州には存在すると、神戸大学大学院理学研究科の巽好幸教授は語る。
「『巨大カルデラ噴火』と呼ばれるタイプの噴火です。10月22日に記者会見で、九州中部でこのカルデラ噴火が起きれば、ほぼ全国民に相当する1億2000万人が生活の基盤を失い、最悪死亡する。また、日本のほぼ全域に火山灰が積もる。その可能性は100年で1%になると発表しました」
1億2000万人死亡という数字を叩きださせた「巨大カルデラ噴火」とはどのようなものか。
カルデラとは、火山が大規模な噴火を引き起こした結果、マグマが溜まっていた地下の空間が陥没するなどして形成される、巨大なお椀型の窪地だ。
日本では九州の阿蘇山周辺や、北海道の有珠山周辺などが景勝地としても知られている。だが、大規模なカルデラを作り出す巨大カルデラ噴火は、有史以来、日本人が経験したことのないような壮絶なものだ。
上の地図を見てほしい。これは、巽教授らのグループが発表した、九州中部・阿蘇カルデラでカルデラ噴火が起こった場合に、火砕流や降灰が到達する範囲を、日本全国の原発の配置と重ねたものだ。
火砕流が到達する範囲として示されているのは、発生から2時間以内に灼熱の熱風が届くエリア。このエリア内に現在、700万人が暮らしているという。
また九州の北半分から中国・四国、大阪を含む広い範囲で、50p以上の火山灰が積もる。火山灰は雪とちがって、やがて融けて流れていくものではない。鉄道を始めとする交通機関は完全にマヒ。木造家屋が次々と重みで潰され、上下水道設備も停止。火山灰は電気設備に入りこむと漏電、ショートを引き起こして、大規模な停電も発生する。
道路は寸断、飛行機のジェットエンジンやヘリコプターのローターも機能しないため、東京を含む本州全域で、長期間、外部からの救援が入ることはできない。火山灰に覆われ、日光すら遮られた真っ暗な環境で、大混乱が発生、多くの人が何の助けも得られないまま命を落とすことになる。
「100年に1%」という可能性は、巽教授によると、'95年の阪神・淡路大震災が発生する直前までのデータで計算した場合の、'95年以降の「30年間に兵庫県南部地域で大地震が発生する確率」と同程度と考えてよいという。
「つまりは、いつこうした噴火が起こっても、統計的にはおかしくないということになります」(巽教授)
■火山灰に埋もれてしまう
巽教授は「今回の発表は特段、川内原発の問題を意識して、このタイミングに行ったものではない」と話すが、いやが上にも、今後、原発が火山の影響を受けるのは必至と思える結果だ。
再び2ページの地図を見てほしい。この予測では、阿蘇カルデラからの火山灰は西から東に向かって吹く風に流されて、主に北九州から中国・四国方面に降り積もり、川内原発は10p以上20p未満の降灰エリアに含まれる。安全審査では、原発の施設設備は15pまでの降灰に耐えればよいとされ、ぎりぎりセーフとも見えなくはない。だが、風の流れが計算と多少でも違えば、より多くの火山灰が到達するのは明らかだ。
火砕流による混乱の影響は避けられない。川内原発を管理・運営する九州電力も、福岡市内の本店などが甚大な被害を受け、いざカルデラ噴火が起こったあとに川内原発で危機が起これば、対処がスムーズに行われるとは到底考えられない。
巽教授は、「政府の原発政策を批判する気持ちから言うのではない」と前置きしつつ、こう話す。
「川内原発で、九州電力や原子力規制委員会は、火山活動はモニタリング(継続監視)できるから、危ないときには事前に分かるというような主張をしています。しかし、火山学会や専門家は、現状では噴火の完全な予測はできないと、はっきり言っている。客観的に見て、現状では無理なんです。
ですから、そういう技術は、これから開発しないといけない。さらに、九州に多くの観測点を設けていかなければいけない。言うのは簡単ですが、実際にやるとなると大変です」
九州には、今回シミュレーションが発表された阿蘇以外にも、巨大カルデラ噴火を起こす可能性のある火山がひしめきあっている。
桜島を中心とする姶良カルデラ、鹿児島湾南端に位置する阿多カルデラ、さらに南の海、大隅海峡に出ると、薩摩硫黄島などを含む鬼界カルデラなどだ。
これらの火山を中心にして火砕流の到達範囲を考えてみれば、川内原発が「火山の影響は考慮しなくていい原発」と言われて火山学者たちが愕然とした理由も明らかだろう。
実は、日本火山学会は川内原発の安全審査が進められていた4月末、学会内に原子力問題対応委員会を設置。石原和弘・京都大名誉教授や中田節也・東京大教授ら7人の専門家が、巨大カルデラ噴火を含む巨大噴火が原発にどう影響するかを検討してきた。
だが、結論が出る前の7月16日に、川内原発の再稼働を認める安全審査の結果が公表されてしまった。
11月2日には、原子力問題対応委員会を代表して、石原名誉教授らが、「噴火予測の限界、曖昧さの理解が不可欠」とクギをさし、「審査基準を見直すべき」との見解を公表。発表で石原名誉教授は、
「モニタリングで噴火予測ができるという前提は怖い」
とまで踏み込んだ。だが、原子力規制委員会の田中俊一委員長はこれを受けて、
「火山学会がいまさら言うのは私としては本意ではない」「(意見があるなら)もっと早急に発信すべきだ」
と不快感をあらわにした。
「継続的な観測で噴火を予測できるなどと決めつけられては困る」という意見に対しても、田中委員長は、
「火山学会をあげて、夜も寝ずに観測して頑張ってもらわないと困る」
と批判。感情的とも思える非難を重ねている。
■破局の日を待つだけ
田中委員長は、「審査基準は火山学者の意見も聞きながら作った」とも指摘しているが、この主張には疑問も残る。たとえば昨年3月28日の原子力規制委員会の新規制基準検討チームの会合に、火山学会で原子力問題対応委員会に所属する前述の中田東大教授が招かれ、
〈火山をモニタリングしていても、噴火がいつ起こるということは、現在の技術では言えない〉
〈カルデラ噴火に至ってはまだ知見が不足し、よく分からないのが現状だ〉
と、はっきり伝えているからだ。
こうした議論もさることながら、私たち国民が知りたいのは、「もし、巨大噴火が起こると予測できたら、近くで運転している原発はどうなるの?」という点だ。
これまで見てきたように、実際には火山の噴火はいつ起きるか分からない。御嶽山では噴火の約1ヵ月前に火山性地震が増加した時期があり、これが前兆だったのではないかと言われるため、仮に1ヵ月前に兆候が摑めたとして考えてみよう。
噴火が近いとなれば、まずは周辺住民の移動という大混乱が発生する。まして、巨大カルデラ噴火のような超巨大噴火ともなれば、火山周辺の住民だけでなく、関西圏の人々が北海道・東北方面へ移動するような、まさに民族大移動だ。
そのような大パニックが起こる中で、ごく少数の技術者・関係者だけが残り、原発は運転を停止する。
だが、自ら熱(崩壊熱)を発する核燃料は、すぐに取り出せるわけではない。運転停止後、最低でも数ヵ月、通常では数年間、寝かせた上で燃料棒の取り出しが行われる。だが、残り1ヵ月とすれば、せいぜい2週間程度のうちに、高熱を発する燃料棒の取り出しを始めざるを得ないだろう。
川内原発1号機2号機では、264本の燃料棒を束ねた集合体が各157体も使われている。そのすべてを残り2週間で抜き出し、保管場所を見つけて運搬する。到底、無理な相談だ。
通常、燃料棒をまるまる他に移動するには、すべての工程を含め5年かかるとされる。つまり取り出しはとても間に合わないのだ。
田中委員長は11月5日の記者会見で、
「3ヵ月前に分かれば、すぐ止めて準備をし、容器に少しずつ入れて遠くに運ぶことができる」
と強がったが、具体策は検討されていない。運搬先も決まっていないため、「真面目に考えるとなかなか難しい」とした上で、
「チェルノブイリ原発事故のときのように、石棺という方法もある」
と述べるのが精いっぱいだった。石棺とは核燃料の周囲にコンクリートを流し込み、固めてしまう方法だ。
たしかにこれなら、核燃料が火砕流に巻き込まれ、壊滅的な被害を出すのを短時間で防げるかもしれない。
しかし、いま前提としているのは、1ヵ月で日本の西半分の人々が移動するような大混乱のただなかのこと。大量のコンクリートを誰が製造し、運搬し、停止直後の原発施設の内部にまでパイプを引き込んで、効果的な固め方で安全に埋め込むというのか。
復興需要とオリンピック需要のぶつかり合いだけでも建設技術者が足りず、建築資材もコンクリートも足りなくなるのが日本の現状だ。そう考えれば、石棺が実現可能な方策とは思えない。結局は原発が壊滅的被害を受けるのを、噴火が起きる日まで、なすすべもなく呆然と見守るしかない。
しかも、この方法は、立地する地元に対して、「もう二度と取り出せないように核のゴミを固めて埋めていきますが、あとはよろしく」と言うに等しい。緊急避難的な方法とはいえ、そこまでのリスクを国は地元にも国民にも説明していない。
巨大噴火に対して、ここまで無力な原発。世界でも有数の火山列島である日本で、原発を運転しようということ自体に無理があると考えるのが、常識人の判断ではないか。
「週刊現代」2014年11月22日号より
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