09. 2014年11月06日 07:48:10
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「動く地球を測量する」 電子基準点のデータで巨大地震予測の道を 予測の発展を目指して挑戦を続けたい 2014年11月6日(木) 村井 俊治 前回のコラムでは、地震の「後」のみならず「前」においても地球が変動していること、その前兆現象を把握するためわれわれが、様々なデータと指標に基づく地震予測の分析方法を編み出してきたことを述べた。 特に指標としては、大きくわけて「短期間の異常変動」、「長期間の傾向値」、隆起や沈降の傾向値を累積した「累積変位」という3つのタイプがあり、地震の前兆現象を予測する方法を積み上げてきた。 それでは、その地震予測の実際はどうなのだろうか。読者としても、われわれJESEAの地震予測の分析方法が、どのような有効性と限界性を持っているかが一番気になることだろう。 そこで最終回の今回は、JESEAから発信しているメルマガを紹介しながら、実際の地震予測とその結果について見ていきたい。 その上で、われわれの地震予測が、日本のみならず地球規模での発展可能性をもっていることを最後に指摘したい。その発展は、さらに日本における地震予測の精度を高めるものであることを、最新のデータを基に述べていく。 「短期間の異常変動」を調べる地震予測 今年に入って震度5以上の地震は、10月現在で7回起きている。われわれJESEAが、毎週水曜日の会員メルマガ「週刊MEGA地震予測」でどのような予測情報を発信していたかを、まず紹介していきたい。 まず、2014年3月14日に発生した伊予灘地震(M6.2、震度5強)を見てみよう。この地震は、典型的な「短期間の異常変動」の分析方法があてはまった。メルマガが最初に警告を発したのは、2013年9月4日号のことだ。 「岡山県、広島県、山口県、鳥取県、島根県の中国地方は2月初めと6月末に一斉に沈降がおきました。地震の予兆かもしれません」 さらに2013年9月25日号では、全国で一斉に異常変動があったことを告げている。 「今週は電子基準点にこれまでにない多くの異常値が現れました。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の約半年前に現れた現象と酷似しております。但し、今月はじめに降った豪雨の影響も考えられますので、確実に地震の前兆・予兆と断定することはできません」 2013年10月30日号では、「異常変動地域が拡大 南海地震に注意」と呼びかけ、さらに補足によって場所をある程度特定している。 「今回の短期予測の地図を見ると、全国一斉というわけではないですが、かなり多くの点で異常変動を示しています。特に北海道、九州、四国、紀伊半島の異常変動が顕著です」「四国は愛媛県、香川県、徳島県のどちらかというと瀬戸内海側に異常変動が多いのが今回の特徴です」 このあと、連続して南海エリアが揺れる地震という意味で、南海地震(南海トラフ地震とは言っていない)が発生する可能性をメルマガで言い続けた。 2014年3月9日に放映のフジテレビ「Mr.サンデー」では、「南海地震が起きる時期は、おそらく3月」とはっきり述べた。伊予灘地震は、その放映から5日後だった。 「累積変位」を計算した地震予測 次いで、2014年5月5日に発生した大島近海地震(M6.0、震度5弱)を見てみよう。この地震は、3番目の「累積変位」を計算する分析方法で予測できた初ケースとなった(当初は「累積歪」と呼んでいたが、のちに「累積変位」に改称)。 2014年3月26日号は、累積歪マップを掲載して次のように説明している。 「東京都、神奈川県、千葉県および埼玉県などの首都圏に隆起の累積歪の高い点が多数ついています……現在は隆起が貯まっている状態ですが、将来隆起が沈降に反転したら地震の危険度が高まります。現在は注視している段階です」 その後、2014年4月9日号「首都圏は要注視」、4月16日号「首都圏の隆起に要注視」、4月23日号「首都圏は引き続き要注視」と、次のように続けざまに呼びかけている。 「かなり歪が貯まってきました。いままで首都圏では小地震も起きていませんでしたが、3月12日と13日に千葉県北西部で、3月17日に東京湾で、3月19日に千葉県北西部で震度1〜3程度の小地震が起きました」 「東北地方および関東地方の太平洋岸での隆起は首都圏にも及んできました……東京都の秋川や神奈川県の川崎などでは相当大きな隆起が見られます。首都圏で起きている小地震では川崎や横浜がいつも揺れています」 「4月18日に茨城県南部で起きた地震(M4.7、震度4)では茨城県、栃木県、群馬県のほかに埼玉県、東京都、神奈川県でもかなり揺れました。大きな地震ではないですが、首都圏周辺で小地震が頻発してきたのと、首都圏での累積隆起量が貯まってきましたので引き続き要注視です」 4月30日号では注視を告げなかったが、5月5日に大島近海地震が起きた。一番揺れたのは東京都の千代田区という首都圏のど真ん中だったため、われわれの予測も注目を浴びることになった。 震源の深さは160kmと極めて深く、短期の異常変動または隆起・沈降の指標では予測できるものではなかった。ここに、傾向値の累積を計算する「累積変位」が有効な指標であることが判明した。 「長期間の傾向値」の分析と最新の地震予測 2番目の「長期間の傾向値」による分析はどうだろうか。それは、2014年7月5日に発生した岩手県沖地震(M5.9、震度5弱)があてはまる。 東北地方の太平洋岸は、東日本大震災の時に大きく沈降したが、地震の後には大きな隆起を続けている。このため、隆起のエネルギーが貯まっており地震が発生する可能性が高い。 最初に注意を呼び掛けたのは、2013年10月23日号だった。 「東北地方の太平洋岸(岩手県、宮城県、福島県)および茨城県の隆起は高いペースで続いています。特に顕著なのは宮城県で昨年の1月から牡鹿、志津川では14cmも隆起しています。今年に入ってからも4cm異常隆起しました。エネルギーがかなりたまっていると解釈したほうが良いです」 その後も、一貫して東北地方・関東地方の太平洋は要注意を呼びかけた。実際に、震度3や4の中小地震はこの地域で多発している。隆起・沈降図を毎回掲載しているが、東北地方の太平洋岸は異常に隆起しているのがわかる。7月5日の地震は、この長期間の傾向から予測されたのだ。 それでは最後に、最新のケースとして2014年9月16日に発生した茨城県南部地震(M5.6、震度5弱)をみてみよう。その震源は茨城県南部だが、震度5弱の一番揺れた場所は栃木県、群馬県および埼玉県だった。これは、前述した「短期間の異常変動」の分析があてはまる。 2014年8月6日号は、「甲信越飛騨地方は要警戒」と呼びかけている。 「この地域は続けて要警戒を呼びかけてきました。この地域では2月に2度異常変動が見られたことと、群発地震が起きたためです。今回もこの地域では長野県の駒ケ根で10.4cmの異常変動が見られました。長野県で4cm超の異常変動点の数は15点もありました。群馬県で6点、山梨県で4点の異常変動点がありました。地震が起きる可能性が一番早いと考えられます」 2014年9月3日号でも警告を発しているが、9月7日には「Mr.サンデー」の放映があった。そのなかで私は、「栃木県、群馬県、埼玉県で、震度5弱から5強の地震が8月末か9月中に来るでしょう」と明言している(収録は7月12日)。地震は、その放映から9日後に発生したことになる。 以上、3つの分析方法に沿って、実際に地震予測がどれだけできたのかを述べてきた。予測の時期や範囲など、まだ課題は山積している発展途上ではあるが、これらの積み重ねを続けていくことが発展のカギであると考えている。 地球規模で動く巨大地震 われわれの地震予測は、全国で1300カ所という世界有数の電子基準点のデータに基づいている。とはいえ、日本の周辺国をふくめ世界にも国際的な組織のIGS(International GNSS Services)に登録されている500点弱の電子基準点が存在し、そのデータが利用できる。 下の図は、IGSに登録された電子基準点の位置を示している。 (出所:IGS) また、国土地理院は「アジア太平洋地域地殻変動監視プロジェクト」に参加し、ウェブサイトでアジア太平洋地域の電子基準点の変動をグラフで公開している。
これらを有効に活用すれば、われわれの地震予測は、日本のみならず地球規模にも発展させられる可能性を秘めている。また、日本での地震は単独で発生しているものでなく、周辺の変動にも影響されている。特に日本の周辺国での地震予測は、日本の地震予測と相乗効果があることが期待される。 荒木春視博士と私は、2004年12月26日に起きたスマトラ沖地震(M9.3)、および2008年5月12日に起きた四川省地震(M8.0)の巨大地震で、3000km以上離れた電子基準点で前兆が見られることを、すでに検証している。 このことは、東日本大震災にもあてはまっていた。その震源は宮城県沖だったが、約1000km離れた九州や四国の電子基準点にも、はっきりと前兆現象が現れていたのだ。 前述の「アジア太平洋地殻変動監視プロジェクト」で登録されている電子基準点は、北海道の新十津川、茨城県のつくば、鹿児島県の姶良(あいら)、小笠原諸島の父島、南鳥島の5カ所がある。 これらに加え、日本周辺のアジア諸国では、韓国のソウル、中国の北京、上海、台湾の台北、タイのバンコク、グアム、ロシアのサハリンの電子基準点を選んで調べてみた。 すると、3.11の時には、これらのすべての電子基準点で東方向に異常変動し、高さはいったん隆起して数日後に沈降する異常が見られた。遠く離れたハワイでも、高さがプラス3cmからマイナス2cmに異常変動したことが読みとれた。 次いで、その前兆現象を調べてみると、日本のいずれの電子基準点も、2010年の8月か9月に高さの異常変動が見られていた。アジア諸国では、2010年の8月中旬に北京、上海、台北、バンコク、グアムにおいて急に隆起していた。 今年の7月および8月には日本列島が一斉異常変動をした。メルマガでは来年の1月ごろまでに大きな地震が起きる可能性があることを述べた。周辺国の状況を調べたところ、7月末、8月初めおよび中旬の3日に、ソウル、北京、台北、グアムでも全く同じ日に一斉異常変動を示していた。 その異常値は東日本大震災を上回っている。大地震が起きる予測が的中するかしないかは分からないがデータは異常なのだ。場所はまだ特定できていない。今後の推移を監視したい。多くの方に心の準備をしてほしいと願っている。 このように、地球は互いに影響しあう軟体であることが衛星測位で明らかになった。まだ密度は低いが、日本のみならず全世界の電子基準点のデータを使えば、巨大地震をより立体的に予測する道は開けている。われわれJESEAは、これからも誠実に挑戦を続けていきたいと考えている。 このコラムについて 動く地球を測量する 地球は大地震の「前」にも、人が体に感じない異常な動きをしている。また、GPSなどの測位衛星であるGNSSによる位置情報は、ビジネスだけでなく日常生活でも欠かせないものとなっている。本コラムでは、測量工学の最新の技術についてやさしく解説した上で、「動く地球の測量の延長上に地震予測がある」ことを伝えていく。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141030/273214/?ST=print |