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「記録的」がもたらす災害(3) 天気図と広島の水害
http://takedanet.com/2014/08/3_3de2.html
平成26年8月22日 武田邦彦(中部大学)
広島で大きな水害が起こった時の天気図は、太平洋に少し弱くなった夏の高気圧があり、大陸の高気圧との間に停滞前線を作っていて、それが中国地方の少し北の日本海にあった。
このような天気図は梅雨の終わりの頃の7月に毎年、よく見られるもので、気象観測が十分に行われるようになった1950年代から、「ごく普通の気象」である。初歩の気象で、このぐらいなら理科系の人ならおおよそ知っていることだ。
つまり、高気圧が日本の東南にあり、前線が日本海側に停滞しているので、東シナ海から湿った空気が移動し、それが湿舌のようになるので、九州や中国地方に大雨を降らせる。その規模は、1時間に50ミリから100ミリ、1日に500ミリから1000ミリというところだ。
この程度の雨は毎年、降るもので、それをNHKは気象庁の発表通り、単に「観測史上最大」と言っていた。この時に安倍首相は夏期休暇からの帰りの記者会見で、「その地域では珍しい豪雨」とより正しく表現していた。それほど多くの言葉を言えない首相でも「その地域では」ということを言って、誤解を少なくしようとしているが、NHKは誤解を増やそうとしているように見える。
2014年8月20日の広島の雨にしても、その数日前の福山の川の氾濫にしても(300ミリ)、狭い地域では珍しい雨かも知れないが、中国地方ではごくありふれた大雨の一つである。そうなると今回の広島の災害の真なる原因はどこになるだろうか?
今回の広島の災害での土砂崩れは一か所ではなかった。広島市の安佐北区で4か所、安佐北区でもあり、あきらかに偶然ではない。そして、広島県では平成11年に呉で同じような土砂崩れが起きて32名が死亡(1名は現在でも行方不明)している。
もともと広島の大地は「まさ土」でおおわれていて土壌はもろく、危険個所は32000か所に及ぶ。そして昭和40年から始まった宅地造成で多くの危険個所に住宅が建っているという。問題は「宅地造成の許可があるかどうか、あるなら許可基準はどうなっているか」である。
日本の役所の“ポンコツ認可”だから、「住宅が危険にさらされるかどうかなど許可要件にはない」などと言われるのではないか。姉葉事件の時に、建築確認というのは「マンションが危険な設計でも、そんなこと審査しない」と言われてびっくりしたものだ。普段は「役所が許可したから心配ない」と言い、事故が起こると「そんなこと知らない」と来る。責任の逃れて逃れの為に役人を雇っているわけではないのに。
8月20日の夕刊各紙は、朝日新聞が単に「豪雨」とし(正しい表現)、広島の造成地の問題を取り上げていた。毎日新聞は同じく「豪雨」とし(正しい表現)、「避難勧告は発生後」ということで午前3時過ぎの起こった災害の「避難勧告」が4時20分だったことを報じている。広島市の担当部長は「今までに経験したことがない雨量」と言っている。
しかし、もともと1999年に広島で32人の犠牲者を出す土砂災害があり、それが機になって土砂災害防止法ができている。でも、つねに「経験のない」と言えば「想定外」となり、個人の経験を超えることが起これば、住民は死んでも仕方がないというのが広島市の見解であることがわかる。
中日新聞は「記録的豪雨」と題していて(不適切な表現)、「その地点での二十四時間の雨量としては観測史上最多」としていて、「史上」というのが10年なのか、1000年なのかは書いていない。普通はアメダスが設置されてからだから、40年ぐらいと思うが、長い場所で80年ぐらい、短かい場合は10年にも満たない。
10年ぶりという雨を「観測史上初めて」という表現は、不適切を通り越して「報道として許すことができないほどの表現」ということができるだろう。日本語としては「史上」といえば、少なくの100年、あるいは1000年ぐらいの期間を指す。
また最近、「観測史上はじめて」が増えていて、それが「異常気象」とされるが、アメダスの設置場所を増やせば、それだけ「観測史上はじめて」が増えるという仕組みである。このような不合理な表現が使われるのは、おそらくなにかの利権があってNHKがそれに組みしているとしか考えられない。
多くの犠牲者を出した広島の事件が、気象のせいではなく、造成、許可、警告などの問題として取り扱われないと、なくなった人たちは浮かばれないだろう。この際、報道は、問題が気象にあるのか、それとも「お上」が国民に対してしなければならない義務を怠っているのか、それを明確にしないと、私たちは「いつどこに逃げる」とか、「この家に住んで良いのか」ということすらわからない。
ちなみに名古屋市はかなり「ハザードマップ」が充実しているが、それでも大雨で土砂崩れする危険箇所を示す地図は「地震ハザードマップ」に書き加えられているだけだ。また「ハザードマップ」というむつかしい英語を使わなければならない理由もない。普通に「危険箇所の地図」としたらどうか。
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