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2023年6月27日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/259085
JR川越線で今年3月、単線区間に上下線の電車が同時に進入して約600メートルまで接近したトラブルは、運行を制御するJR東日本のシステムの欠陥が原因で、上下線の信号がいずれも青(進行)になったためと分かった。JR東は既に修正を済ませたとするが、山手線や東海道線など運転本数が非常に多い首都圏の列車を差配するシステムの欠陥だけに「国の運輸安全委員会などによる徹底調査が必要」という指摘も出ている。(嶋田昭浩)
◆強風によるダイヤ変更の際に「ATOS」誤作動
トラブルは3月2日午後9時50分過ぎ、川越線の指扇さしおうぎ(さいたま市)―南古谷ふるや(埼玉県川越市)間で発生。2本の電車は計約200人を乗せたまま、約2時間半停車し、上り電車を後退させて復旧したのは3日未明だった。
本紙が独自に入手した報告書によると、強風による電車の遅れで、ダイヤを変更した際にJR東の東京圏輸送管理システム(ATOS)が誤作動したという。
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<ATOS> JR東日本が1996年の中央線を皮切りに順次導入。輸送指令が入力した列車ダイヤの変更を駅に配信し、信号機と線路の分岐器(ポイント)を自動的に制御するなどの機能がある。同社ウェブサイトは「2〜3分間隔で列車が走る首都圏の高密度線区において、列車の自動進路制御を可能にし、その運行状況をリアルタイムに把握できる世界最大規模の運行管理システム」と紹介している。
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トラブル直前、JR東の指令員は、上下線の電車のすれ違い場所を南古谷から指扇に変更する指示をATOSに入力。ところが、指扇の信号は変更前の予定に従って既に青に変わっていたため、下り電車は進み続けた。
本来、システムがこの状況を検知し、指令員の指示を受け付けない仕組み。ところがシステムエラーが起き、南古谷の信号も青になり、上り列車も発車した。単線区間内の信号は別の保安装置が作動して赤のままで、衝突を免れたという。
◆既に不具合は改修 識者「運輸安全委員会の徹底調査を」
報告書はシステムを製作した日立がJR東に提出。列車の運行状況と操作のタイミングによって誤作動の可能性があったと認め、JR東に謝罪している。
日立の広報担当者は取材に「お客さまの設備なので当社は(詳細を)説明できない」と回答。JR東は「(システムとは別の)保安装置が正常に動作し安全上の問題はなかった。不具合箇所のシステム改修を3月4日に実施し、対策は完了している」と答えた。
曽根悟・東京大名誉教授(交通システム工学)は「システムの設計ミスが原因で、本来あってはならない事故と言える。ATOSは、人員削減を主眼に導入されてきたが、人が行うべきダイヤ変更などの運転整理を、機械が正確に理解できていない事態が明らかになった」と指摘。「利用者に不安を与えただけに、国の運輸安全委員会が重大インシデントとして徹底して調査し、類似の事例を防ぐ必要がある」と話した。
◆「止まれ!」輸送指令が叫んだ…トラブルの背景に何が
川越線で今年3月に起きたトラブルは、JR東日本の輸送管理システムの欠陥が引き金となった。鉄道の現場では「デッドロック」と呼ばれ、「あってはならない事故」。単線区間に上下線の電車が同時に進入して立ち往生した背景に、いったい何があったのか。
「輸送指令が『止まれ!』と無線で叫んでいたと、周辺の列車の乗務員から報告があった」。JR東日本輸送サービス労組(約2800人)の世良隆次・教宣サークル部長は話す。
トラブルの元となった「東京圏輸送管理システム(ATOS)」は、日立製作所がJR東と共同開発し、1996年に導入。交通システム工学が専門の曽根悟・東京大名誉教授によると、ATOSは当初、ダイヤ変更などを行う「運転整理」機能は不要とされ、プログラム上の問題の修正期間も十分に取らずに実用化した結果、問題が山積した。
曽根氏はトラブルの背景に「京王電鉄をはじめ先行する民鉄のシステムは運転整理も含め慎重に準備を進めた。だがJR東は、運転を熟知しないプログラムの専門家が、後から運転整理機能を追加した経緯があった」と解説する。
JR東の関係者からは「システムを日立に依存しすぎており、ATOSは社内でもブラックボックスのようになっている」という声も漏れる。その日立もトラブル直後の3月4日にJR東へ提出した報告書で、誤作動の背景に不明点が残っていると認め、トラブル防止対策を講じた場合の影響が「完全に見極められていない可能性がある」と記しており、不安は尽きない。
だが国土交通省も今回のトラブルは、衝突や脱線など重大事故が起きる恐れのある事態「インシデント」には当たらないとし、主体的な調査などは行わないとみられる。松本陽あきら・元運輸安全委員会鉄道部会長は「今回はATOSが安全な列車運行に支障を及ぼすような信号制御を行っており、従来のインシデントには含まれなくとも、安全上避けるべき事態が生じている。インシデントを幅広くとらえ、新たな事象を追加する姿勢も必要だろう」と指摘した。
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