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IBMの半導体研究モデルは、何が他社と違うのか?
http://gansokaiketu.sakura.ne.jp/20161012-ibm-no-handoutai-kenkyudodel-ha-naniga-tashato-tigaunokai.htm
IBMの半導体研究モデルは、何が他社と違うのか? ・・・・・ 服部毅
1 VLSI ResearchのCEOが見たIBMの半導体研究の現在
米IBMは、2014年10月に自社の半導体事業部門であるIBM Microelectronicsを米GLOBALFOUNDRIES(GF)に工場、技術者、知的財産だけではなく、現金15億ドルまでも付けて譲渡すると発表して、半導体業界を驚愕させた。
GFは、アラブ首長国連邦アブダビ首長国政府系投資企業の資本で経営されているため、その後、対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)の審査を経て翌2015年7月に譲渡が完了した。しかし、IBMは半導体研究部門だけは自社内に残して、そこに30億ドルも投資して次世代半導体研究を強化するというから2度目の驚愕である。もはや製造部門無きIBMの半導体研究部門はどんなビジネスモデルで運営されているのか、誰しも疑問に思うだろう。
米国の半導体市場調査企業VLSI ResearchのCEO兼会長Dan Hutcheson氏(図1)は半導体業界でも
特異な存在であるIBM Research Groupの300mm半導体研究ファブ(米国ニューヨーク州の州都アル
バニー市Albany Nanotech Complex内、図2)を実地調査したという。彼が探り当てたIBM半導体研究
グループ独自の研究モデルを紹介しよう。
Albany Nanotech Complexとは?
State University of New York・Polytechnic Institute・College of Nanoscale Science and Engineering
(SUNY-Poly-CNSE)を中核に、同キャンパスにひろがるナノテク研究団地。なお、SUNYはニューヨーク州にある多数の州立大学の連合機構、PolyはCNSEとSUNY Institute of Technologyの2校が2014年に経営統合して誕生した工科大学機構。ニューヨーク州のCuomo知事はCNSEキャンパスを世界のナノテク研究の拠点にしようと世界中からの企業誘致を陣頭指揮している。
IBM、Applied Materials(AMAT)、東京エレクトロン(TEL)はじめ多数の世界的に著名なハイテク企業がキャンパス内の建物の一部を大学から借りて研究所やオフィスを設置している。
中でも、次世代半導体デバイス・プロせス開発に取り組むIBMの300mm研究ファブが最大である。このキャンパスでは、米韓台の先進半導体企業による450mmウェハを用いた製造検討コンソーシアム「Global 450mm Consortium」や、地元のGeneral Electricを核にパワー半導体の実用化を促進する「New York Power Electronics Manufacturing Consortium」、エネルギー省傘下の太陽光発電コンソーシアムなど多くの産官学共同研究が進行中である。Sematechも同地を本拠地として、世界中の主要半導体企業をメンバーとするコンソーシアム活動を行ってきたが、主要メンバーの脱退が相次ぎ、すでにCNSEに吸収されている。
IBM研究ファブはまるで先端半導体工場
IBMの300mm研究ファブ(図3)を見学したHutcheson氏の感想は「まるで小ぶりの最先端半導体工場のようだった」である。ただ異なるところは、旧IBM East Fishkill工場(現在はGFが所有)にあるようなファブ内に張り巡らされた300mmウェハ自動搬送システムがなく、FOUP(密閉ウェハ保管箱)は台車で運搬されていることぐらいである(図3左)。IBMは2014年にオランダASML製の300mm EUVリソグラフィ装置を設置し、最近アップグレードした(図3右)。
最新型の半導体製造装置や検査装置がずらりとならび(図3中央)、Albany Nanotech Complexに研究所を設置している大手装置メーカー研究所が所有する開発中の装置にもアクセスできる。この研究ファブでは1日当たり1マスクレイヤのスピードでウェハ処理しており、フルフローウェハセットは8週間で流せるという。
2 IBMモデルはファブレスともコンソーシアムともちがう
http://news.mynavi.jp/series/ibm_semiconductor/002/
2015年に世界初の7nmテストチップ試作に成功
IBMは現在、GFと韓国Samsung Electronicsを研究パートナーとして先端半導体プロセス・デバイス研究を行っている。同社は、2015年7月に、これらパートナー2社と協力して300mmを用いて世界で初めて7nmプロセスを用いたテストチップの試作に成功している(図4)。
IBMは自社の次世代コンピューティングシステムを構築するのに必要な半導体技術を研究開発するだけではなく、研究パートナーのファウンドリが近い将来に必要とする半導体技術も開発している。微細化に伴い巨額化する設備投資費用を1社だけでは賄いきれないので、パートナーと分担し合っている。かつては、東芝もNECもソニーもIBMの先端半導体研究パートナーだった時期もあったが、日本勢はことごとく先端ロジック製造から撤退してしまってIBMとは縁が切れたままである。
ファブライトの研究とはまったく異なるIBMの研究モデル
IBMの半導体研究グループの研究モデルと一般のファブライト(半導体垂直統合企業が、微細化に伴い急騰する設備投資に耐えきれず、設備投資を最小限に抑えて、生産の大部分をファウンドリに委託するが、設計や研究開発は自前で行う企業スタイル)の研究モデルは明確に異なっている。IBMは、基礎研究に的を絞り、具体的なチップ開発は研究パートナーに任せている。GFやSamsungのようなパートナーはIBMにとってのドライブトレインであり、新しい技術ノードにそなえてファウンドリ施設や設備に継続的に投資を続けられる規模を持っている。パートナーであるファウンドリ各社は先端技術を入手すえうためIBM研究部門を必要としている。こんなことは、ファブライトの研究モデルではありえない。これにより、ファウンドリ間での研究の重複をさけられるので、技術的にも経済的にも多大な節約ができ、市場へのアクセスも速められる。
IDM(設計から製造・販売までてがける垂直統合半導体メーカー)がファブライトになるのは、製造はそのほとんどを他社に委託しても研究は秘密にして技術だけは自社内にとどめておきたいという意図がある。しかし、IBMは逆で、パートナーに技術を誇示することで協業を拡大しようとしている。それだけではなく、パートナーの研究員が多数IBMの研究ファブに駐在して、研究の重要な部分を担当している。このため、パートナーは十分先を見通せるので、自社での研究との重複を避けることができる。
このようなやり方は、1992年に、IBMがドイツSiemens (現Infineon Technologies)および東芝とニューヨーク州のIBM施設でDRAM研究開発の協業を始めて以来、20年以上に渡り成功しているビジネスモデルである。3カ国の研究者によるDRAMの共同開発を通して、国による文化の違いも克服できるようになった。
IBMの研究成果はパートナー企業へ移管可能だろうか。もちろん可能だ。GFの最新鋭ファブ(ニューヨーク州マルタにある同社Fab8)はIBM研究ファブの近くにあるうえに、GFの研究者や技術者が多数IBMの研究ファブに来て共同研究しているからだ。しかも、IBMは過去20年以上に渡り技術移管の手法を確立させている。
これに対して、ファブライトの場合は、研究が重複して無駄になる場合が少なくない。なぜなら、ファウンドリも独自に研究しており、独自のPDK(プロセスデザインキット)を用意しているからだ。いまや、ファウンドリのプロセスのほうが、ファブライトのプロセスよりも優れている場合が多い。
IBMモデルはコンソーシアムとも違う
コンソーシアムの技術は移管可能だろうか。限度はあるもののたぶん可能だろう。しかし、コンソーシアムはプロジェクト指向で、成功は顧客の努力に左右される。IBMのように全責任を負って主体的に研究を引っ張る者がいないからだ。実は、顧客は、コンソーシアムのプロジェクトに期待していない場合がほとんどだ。なぜなら、先進メンバー企業は、すでに自分たちが知っていることを第3者に検証させようとするか、差別化で自社に優位性をもたらさないどうでもいい研究をコンソーシアムでやろうとするからだ。下位のメンバー企業は、なんとか上位メンバーから情報を入手できないかとの思惑でコンソーシアムに寄りかかる。コンソーシアムは、多数の競争相手が、非競争領域の研究を研究の重複を避けて研究費を分担して(一社当たりにならすと大幅に軽減して)行うことに意義があるとされる。しかし、競争相手がドンソン減ってしまっては、費用分担のメリットがなくなってしまう。日本では1994年以来、数多の半導体コンソーシアムや国家プロジェクトが企画され実行されてきたが、残念ながらどれも日本半導体復権に寄与せず消えていった。まるでその原因の分析結果ではないかと思えるような内容だ。
これに対して、IBMの顧客ファウンドリへの技術的貢献は顕著であり、IBMのおかげで、協業ファウンドリはビジネスで差異化を図ろうとしている。
IBMの半導体研究モデルとは?
それでは以上の議論をもとに、IBMの研究モデル、ファブライトの研究モデル、コンソーシアムの研究モデル、それぞれの比較表を作ってみよう(表1)。
これに対して、コンソーシアムは期限付きだし、ファブライトはファブレスへ徐々に移行する過程であり、IBMやベルギーimecのような最先端研究機関やARMのようなIPAベンダ、SynopsisのようなEDAベンダ、Applied Materialsのような装置メーカーなど幅広く周辺企業とも協業してポジティブスパイラル状態の先進ファウンドリに比べてファブライト企業の研究の優位性も確保しにくくなっており、ファブレスに競合するだけの製品企画力やマーケティング力もない状況では長期ビジョンも立てにくい。
3 50年先を見据えるIBMの半導体研究グループ
http://news.mynavi.jp/series/ibm_semiconductor/003/
ファブレスもIT企業もIBMを見習って半導体研究に注力
IBMという企業は全体として、システムの設計からウェハ・プロセスの研究まで一貫した半導体の研究開発を行っている。では、他のファブレスやIT企業はどうだろうか。
QualcommやNVIDIAはじめ米国の大手ファブレスは数年ほど前より、将来の技術ノード用に開発されている製造装置や材料、製造技術が、自社で開発中の半導体デバイス設計にどんな影響を与えるか、サプライチェーン全体について調べることに、多数の人材を投入しはじめている。ファブレスもプロセス技術者を抱え、先端半導体プロセスに関する学会情報や装置材料業界動向を真剣に収集している。
例えばAppleはプロセッサ専業ファブレス企業を買収し、iPhoneはじめ自社製品用に独自のアプリケーションプロセッサを設計している。また同社は、米国Maxim Integratedが売却しようと画策していたがなかなか買い手がつかなかった200mmファブ(カリフォルニア州サンノゼ市内)を2015年12月に買収しているものの、ここでどのようなことをするかを明らかにしていない。こうした点を踏まえると、IBMモデルに一番近づいてきている企業と言えよう。
このほか、GoogleやFacebookなどのITサービスプロバイダも独自にチップ設計を進めているほか、プロセスエンジニアの雇用を始めた。つまり、彼らは、IBMの垂直研究モデルをリバースエンジニアリングして、図5に示すように、サプライチェーンの上から下に向かって埋め始めたということだ。
IBMを見習ってこのような戦略をとるためには、どうしても半導体研究部門が必要となる。なぜなら、いまやシステム・アーキテクチャの優位性は、製造プロセスの優位性に依存するからである、最終製品の性能や機能性を確保するためには、トランジスタ技術や相互配線技術や製造バラつきをきちんと押さえておかないとならない。
ファブレス企業やIT企業は、ファウンドリに製造を委託するに際して、どのファウンドリが技術的に先進的なのかを判断できるだけの技術的な知識を持たなければ的確な判断ができない。この判断が最終製品の優位性を決めるからである。
IBM研究モデルは、最先端品の製造のために設備投資するのはやめて、製造はファウンドリにまかせて研究に徹する。研究のための最先端装置は一式そろえ、適宜更新する。そのために研究パートナーに研究設備投資費用や研究開発費の分担を求める。パートナーへの研究成果の技術移転を行うための仕組みが確立しているが、一方では、社内にデバイスをつかったシステムレベルのニーズがあり、長期レンジのビジョンを持って研究している。
設計と技術を同時に最適化
IBMの歴史は100年以上に渡るイノベーションの歴史である。同社は常に30〜50年先を見据えてきた。現在はニューロモフイック(脳神経細胞を模した)コンピューティング、コグニティブ(認知)コンピューティング、量子コンピューティングなど先進コンピューティングの研究開発に取り組んでいる。このために、世界各地で大勢の社員が将来の姿を思い浮かべながら研究に従事している。今後は技術とシステムをともに最適化することが重要になる。IBMではこれを「DTCO(Design-Technology-Co-Optimization)」と呼んでいる。半導体設計と製造の間を橋渡ししているDFM(Design for Manufacturing:製造を容易にするために、製造のトラブル情報を設計にフィードバックし、容易に製造が行えるように設計を手直しする仕組み)に似ているが、これよりもはるかに早い段階から設計と技術が連絡を密にして協業するということだ。
微細化の限界をシステムの力で乗り越える
2020年代にブレークスルーが求められているのは、原子のレベルに到達して行き詰るのが見えてきたプロセスの微細化にどのように対処するかである。これを乗り越えるにはさまざまな手法が考えられる。ゲートオールアラウンド構造、縦型FET、ナノワイヤ、ナノシート、フォト二クス、3次元マルチチップ集積、などだ。
IBMは微細化の限界は2032年にやってくるとみている。これをアプリケーションの出発点として、その要求をシステムに落とし込み、さらにデバイスに落とし、プロセスに落とすという具合にして、システムと技術の両方を最適化することで解決しようとしている。デバイスの微細化そのものが目的ではなく、アプリケーションが望む最適なシステムを作り上げることが目的だからだ。
これを具体的で例示してみよう。これからの大きなアプリケーションはビッグデータ抽出・解析であるが、これには、エッジデバイスから吸い上げた大量のデータの処理が必要である。そのためにはハードウェアシステムが必要だ。そのを構成するために心臓部にはプロセッサが必要だ。メモリや周辺チップも必要になる。これらには、トランジスタや相互配線も必要だ。これらはトランジスタの性能パラメータに影響を与えるからだ。システム構築には、単一のトランジスタの性能だけではなく、装置や材料、プロセスの知識も必要になる。なぜなら、これらが、コンタクト抵抗のような性能パラメータに影響を与えるからからである。
システムエンジニアは、単一のトランジスタの性能だけではなく、仕事関数の異なるマルチ・スレッショルド電圧ゲートスタックにも目をやらねばならない。これらのどれ1つが欠けても、最適なシステムは作れない。テクノロジーの限界を乗り越えるため、今後は、テクノロジー、システム、アプリケーションのすべてが最適化することが求められる。ちなみに、IBMが進める半導体研究のライバルであるベルギーの独立系半導体ナノテク研究機関であるimecのLuc Vsn den hove社長兼CEOも同じことを強調している。半導体プロセスやデバイスの限界を、システムやアプリケーションを含めた最適化で乗り越えようとする、先進研究機関に共通した考え方だ。
「IBM研究グループの当面のROI(投資対効果)は、将来実用化するシステム -おそらく2020年代か2030年代に実用化されるだろう- を製造できる技術を持つということである。IBMのROIは、長年にわたるビジネスの継続性であって次の四半期の業績向上ではない。過去100年に渡り常に時代を先取りして取り組んできたイノベーションを倍の200年に延ばすことである」とVLSI ResearchnのHutchenson氏は結論付けている。
IBM半導体研究チームの最大のライバルは、imecである。SamsungやGFはIBMと協業すると同時にimecのコアメンバーでもある。imecは、このほか、世界中の主要半導体メーカー、ファブライト、ファブレス、ファウンドリと協業して一体となって微細化に取り組んでいる。
研究面だけ見れば、両社のビジネスモデルは似ているが、企業としてのビジネスモデルは、まったく違う。imecはあくまでも研究機関であり、自社製品やサービスを売る企業ではないが、IBMはコンピューティングをベースにしたサービスを提供することをコアビジネスとする企業である。研究は、基本的に、コアビジネスを支え、先頭を走ることを支援するためのものである。両社は現在5nmおよびそれ以降の究極の半導体微細化(およびその限界や3次元化による打開策)を検討しており、今後、両社の競争はさらに激化するであろう。
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