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http://bizgate.nikkei.co.jp/article/100672318.html
まとめ
「今回のテーマに絡めて言うなら、ペンを持って紙に『字を書く』ことをおすすめします。頭を使うということに関係している前頭前野の活動は、字を書くときに活発化するからです。漢字を書くという行為は、実は記憶した漢字の形、書き順や字のバランスなど『漢字を書くために覚えた手順の記憶』や筆圧感などを無意識に思い出しながら書いているのです。さらに、手を動かす運動野や手の動かし方のプランを立てる前運動野がフル回転します。パソコンのキーボードで『ai』と入力して『愛』に変換する場合と比べて、非常に良い脳トレになります」。
そのペーパーレス、本当に正解?
脳科学で解き明かす「紙とデジタルの知的生産性」
2016/03/23
みなさんの職場では、ペーパーレス会議を実践しているだろうか。会議室に各自がノートパソコンを持ち寄り、事前に配布した文書ファイルを見ながら議論する、といったスタイルだ。「会議の参加人数×資料の枚数」の分だけコストが減るのだから、こういうペーパーレスは合理的と言えば合理的である。
篠原菊紀氏(しのはら きくのり)
諏訪東京理科大学共通教育センター教授
脳科学者。数々のテレビ番組で脳トレ(脳のトレーニング)や脳実験の監修をしているほか、企業との共同研究も多い。脳科学に関連した著書多数。
しかし、「知的生産性」という切り口から見たとき、そういうペーパーレスは本当に正解なのだろうか。感覚的には、紙の方が効率的だと思う作業も少なくない。
この疑問について、脳科学者の篠原菊紀氏(諏訪東京理科大学共通教育センター教授)にたずねたところ、「実験データから、紙の資料を見るのとパソコンやタブレットで資料を見るのとでは脳活動に差があり、全体として業務のパフォーマンスは紙のほうが高いといえます。もし、深く議論せずに会議を通したい話があるなら、ペーパーレス会議は戦略的に良い方法かもしれません(笑)」という答えが返ってきた。
やはり、何でもペーパーレス化すればよい、というわけではないようだ。脳科学の観点から篠原氏が行った実験とその結果について見ていこう。
プレゼンの内容をよく覚えているのは、デジタルより紙の資料
篠原氏は、会議におけるプレゼンテーションを題材に、こんな脳実験を行ったという。
被験者にはメガネ市場に関するプレゼンテーションを聞いてもらい、手元の資料が「紙」である場合と同じ内容を「タブレット」で閲覧する場合とで脳活動に差があるかどうかを調べた。また、プレゼンの終了後に、内容をどれくらい覚えているかを確認するテストを実施した。
NIRS(近赤外線分光法)装置を使った脳活動の測定
脳活動の測定に使ったのは「NIRS(近赤外線分光法)装置」というものだ。被験者は左の写真のように、多数のセンサーが組み込まれたヘッドギアを頭にかぶって実験に臨む。「活発に活動している脳細胞には酸素が集まってきます。血液は、酸素を運んでいるときと酸素を放出したときで色が違うので、NIRS装置で脳に近赤外線を照射すると、酸素が多いところ、つまり活動が活発になっている場所がわかります」(篠原氏)。
結果はどうだったか。まず脳活動については、左側の前頭前野(脳の前方にある部位)の活動に有意な差が出た。「前頭前野は、記憶や情報を一時的に保持して組み合わせ、答えを出していくワーキングメモリーと呼ばれる機能に強くかかわります。私たちはものを考えたり、コミュニケーションをとったり、仕事をしたりする、いわゆる『頭を使う』というときにはワーキングメモリーを使いますが、左の前頭前野は特に言葉にかかわるワーキングメモリーとかかわっています。ここがタブレットより紙の資料の場合のほうが活発に活動したわけです」。
プレゼンの後に実施した内容確認テストでも、紙の資料を見たときの平均正答数は、タブレットで資料を見たときのそれと比べて約11%多かった。つまり、紙の資料のほうがプレゼンの内容をよく覚えていたということになる。
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この実験結果について篠原氏は、「直接の関係があるかどうかについてはまだ詰めなければならない点がありますが、外形的には紙の資料の方が左側の前頭前野(ワーキングメモリー)の活動が高まり、テストの成績も良かった、という結果が出ました。記憶力テストの場合、ワーキングメモリーが深く使われるほど成績が良くなるという実験データはほかにもたくさんあるので、妥当な結果だと考えています」と説明する。
計算の間違い探しも「紙」のほうがサクサク
もう1つ、篠原氏が行った脳実験を紹介したい。それは「計算」にかかわるものである。
「9−4=5」のように、1桁同士の四則演算の式とその答えがセットになったものが100個以上ある。おおむね計算は正しいが、ところどころに「3×8=27」のような計算間違いが混ざっている。その間違い探しをするという実験だ。問題の一覧を紙、パソコン、タブレットで表示して被験者に見せ、1問ずつ「○」か「×」を口頭で答えてもらい、60秒間で答えられた回答数と正答数を比べた。
結果について篠原氏は、「紙で作業しているときは、特に脳の頭頂連合野(頭のてっぺんより少し後ろ寄りの部位)と呼ばれる部分の活動がパソコンやタブレットのときより活発になる傾向がありました。頭頂連合野は、空間的な位置関係の認知とか計算にかかわっていることが知られています」と述べた。
60秒間で「○」か「×」を答えられた回答数とそのうちの正答数は、いずれも紙の場合がパソコンの場合より7%ほど多かった。つまり、「紙の方がサクサクと作業が進んだ」(篠原氏)というわけだ。正答率も紙の方が少し高かった。
「これらをまとめると、計算に関係する脳部位の活動がデジタルより紙の方が高まりやすく成績が良くなった、といえるのではないか」と篠原氏は話す。
なぜ紙とデジタルで成績に差が出てくるのか
実験によって、紙とデジタルデバイス(パソコンやタブレット)でパフォーマンスに差が出てくることがわかった。それにしても、同じ内容なのに、なぜ紙とデジタルでパフォーマンスに差が出てくるのだろうか。篠原氏は、「紙とデジタルデバイスでは、どういうわけか脳の処理系が異なっているようです。タブレットで見る資料は『画像的な理解』に向き、紙の資料は『言語的な理解』に向くらしい」と考えている。
篠原氏は一連の実験を通して、脳の活動の活発さとパフォーマンスが相関している脳の部位を探した。「脳の活動がタブレットだと活発になり、紙だと下がる、という脳の場所があるとするなら、紙で成績が上がる場合とタブレットで成績が上がる場合を推測できるのではないか」と考えた。
篠原氏が注目したのは脳の「画像メモ」だ。画像メモは画像的なワーキングメモリーで、特に右側の前頭前野とかかわる。視空間スケッチパッドとも呼ばれる。このほかワーキングメモリーには、音の時系列の情報を一時的に保持する音韻ループという機能があり、言語的なメモの場合は左の前頭前野とかかわりやすい。
右のグラフは、1つめのプレゼンテーションの実験において、「画像メモにかかわる脳部位の活動量」とプレゼン後に行った「内容確認テストの正解数」の関係を示したものだ。
「タブレットで資料を読んでいる場合は、画像メモの活動が強くなるほど正解数が増える傾向がありました。一方、紙の資料の場合、画像メモの活動状態と成績は無関係だといえます」。
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全体としてはタブレットより紙の資料の方が良い成績となることは前述したとおりだが、人によって画像メモの力や使い方に差がある。
そのため、「タブレットを使った方が良い成績の人は、画像メモの力が強いタイプの人たちだと推測されます。この力が弱い人は、タブレットでは成績が悪くなってしまいます。紙の場合は、この画像メモの力が成績に影響しないわけです」。
リズム・画像処理に関係する部位(右側頭葉・下頭頂葉)の活動とテスト成績の関係でも紙とタブレットで差が見られ、紙の場合はこの部位の活動が強いと特に成績が低下しやすかった(右図参照)。「リズムや画像に気をとられていると、プレゼンの内容を覚えられないということです。紙を資料として使う場合、特にこの傾向が強くなるわけで、実験の結果をまとめると、『画像的な理解』が得意な人は紙でもタブレットでも差はないが、『言語的な理解』が得意な人は紙の資料の方がいいらしい」と篠原氏は結論を述べた。
若い人ほど画像処理能力が高い?
この実験で興味深いのは、人によって画像メモの力や使い方に差があり、「映像的に記憶に残すタイプの人はデジタルデバイスでもよく、そうでない人は紙が向いている」という点だ。現時点では映像的に記憶に残すタイプの人は少数なのだが、将来もずっとそのままかといえば、そうとも言えない兆しがあると篠原氏は指摘する。
「現段階で私たちが実施した調査では、仕事のパフォーマンスという観点において紙よりデジタルデバイスの方が優れているという結果は出ませんでした。おおむね紙の方が良い成績を出しています。それはデジタルネイティブといわれる20代前半でも、現時点ではまだ紙の方が優位だといえます。ただし、年齢が低くなるほど紙の優位性が小さくなると思わせるデータが出てきています。まだはっきりしたことは言えませんが、より進化したデジタルネイティブが出てきたら、紙とタブレットの優位性が逆転する可能性があるかもしれません」。
脳は、日常生活や職業的な特性の影響を受けて、特定の部位が強化・訓練される。そうすると脳の働き方も変わってくる、と篠原氏は指摘する。「書籍のように文字を主体としたコンテンツは脳の言語的な能力を鍛えることにつながります。しかし、今のデジタルコンテンツはビジュアルを多用したものが多く、ぱっと見たわかりやすさはありますが、斜め読みすらしないで情報を取り込むことが多くなってきているのではないでしょうか。そのようなコンテンツを日常的にたくさん見ている若い人たちは、画像的な情報処理能力が鍛えられていきます。視空間スケッチパッドと音韻ループは代表的な脳のメモと考えられていますが、その構成比が変わってくる可能性があります」。
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あなたは画像派? それとも言語派?
さて、ここまでの話で自分が画像派か言語派か気になった読者には、篠原氏が考案した簡易判定テストの一部を紹介したい。胸に手を当てて、以下の(a)〜(d)項目のそれぞれについて、自分にあてはまるかどうかを考えてみてほしい。
(a)何かを覚えるときには繰り返し読む
(b)何かを覚えるときには目に焼き付けるようにする
(c)顔色で相手の気持ちがわかる
(d)しゃべり方で相手の気持ちがわかる
テストの意図はお気づきだと思うが、(a)と(d)にあてはまる人は言語派、(b)と(c)に当てはまる人は画像派である。
「紙とデジタルのどちらが良いか」という議論は、人によって異なる部分がある。画像派の人にはタブレットが向いているし、「やはり言葉のほうが理解しやすい」という言語派の人には紙が向いている。企業の知的生産性を高めるには、こうした事情(さらには情報を利用する場所・状況)も踏まえて、紙とデジタルを適切に使い分ける必要があるだろう。
◇ ◇ ◇
最後に余談だが、「脳トレ」(脳のトレーニング)の本を多数執筆・監修している篠原氏に、会社で実践できる脳トレの方法を聞いてみた。
「今回のテーマに絡めて言うなら、ペンを持って紙に『字を書く』ことをおすすめします。頭を使うということに関係している前頭前野の活動は、字を書くときに活発化するからです。漢字を書くという行為は、実は記憶した漢字の形、書き順や字のバランスなど『漢字を書くために覚えた手順の記憶』や筆圧感などを無意識に思い出しながら書いているのです。さらに、手を動かす運動野や手の動かし方のプランを立てる前運動野がフル回転します。パソコンのキーボードで『ai』と入力して『愛』に変換する場合と比べて、非常に良い脳トレになります」。
脳トレに関心のある方は実践してみてはどうだろうか。
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