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量子暗号、盗めない新通信
東大が理論、高い効率に注目
重要な情報を盗聴から完全に守ることができる技術として注目を集める「量子暗号通信」。最初に開発されたのは、盗聴があったら検出して情報を守る方式で、実用化段階に入っているが、このほど、そもそも盗聴自体が不可能な新たな方式が登場した。通信の効率が高いなどの利点もあり、国内外で原理を検証する実験が進んでいる。
個人のプライバシーや金融情報など、他人に知られたくない情報を誰かに送りたいときは、自分と相手しか知らない秘密の乱数表を作る。これを暗号の鍵にしてメッセージを暗号化すれば、同じ乱数表を持っている人しか読めない。乱数表を盗まれさえしなければ、確実に秘密を守れる。
今の暗号は数学的な手法で乱数表を盗聴から守っているが、ある日天才が革新的な解読法を発見し、解読される可能性もゼロではない。一方、量子暗号はミクロな世界の法則である量子力学が示す、特殊な性質を利用して乱数表を守る。物理法則が覆らない限り破れず、安心感が高い。米政府による盗聴が明らかになった2013年のスノーデン事件で、注目が高まった。
新方式は昨年、東京大学の小芦雅斗教授と佐々木寿彦特任研究員らが発表した。「今回の暗号は、これまでとは違う量子力学の原理を使っている」(小芦教授)という。
送信者は光を断続的に出すパルスレーザーを使い、各パルスに信号を記録して送る。光は極めて弱く、たった1個の光の粒(光子)が、連続して出てくる数十個のパルスに薄く広がっている。日常感覚では想像しにくいが、ミクロな量子の世界ならではの幻のような状態になっている。
ただしこの状態は、見ていない時だけ実現する。測定すると、その瞬間にどこかのパルスに収束して1個の光子となり、ほかのパルスは空になる。どこで検出されるかは偶然によって決まり、選ぶことはできない。「波束の収縮」と呼ばれる原理だ。
受信者は特殊な装置を使って、飛んできたパルスを適当な間隔で2つずつ組み合わせて測定する。「1番と5番」「2番と6番」という具合に順に測っていくと、ほとんどの組は空っぽで何も見えないが、どこかの組み合わせで光子が検出される。この光子を測ると、パルスの信号の違いがわかる。違いがあれば「1」、なければ「0」だ。
光子が見えたら、受信者は送信者に電話し、どの組のパルスかを伝える。送信者はパルスを送ったときの記録から、光子が「1」か「0」かを確認する。こうして1ビットの情報が共有できる。この手順を繰り返して乱数表を作る。
情報の秘密は、波束の収縮によって守られる。伝送中の光子は多数のパルスに広がり特定の情報を持たない。受信者が光子を検出して初めて光子の情報が決まるので、その前に盗聴しても意味がない。
盗聴者が途中で光子を横取りし、代わりの光子を送ったらどうだろうか。受信者が知らずに測定し「1番と4番の組で検出した」と電話したら、盗聴者が同じ測定をし、情報を知られてしまいそうだ。だが、その心配はない。盗聴者は横取りした光子を受信者と同じ方法で測定することはできるが、光子がどのパルスの組に出てくるかは運まかせだ。同じ「1番と4番」で光子が検出される確率は低く、情報は得られない。
第1世代の量子暗号は、ミクロな物体は測定すると状態が変わるという原理を利用していた。送信者は光子に情報を載せて送り、受信者は受け取った光子の状態を調べ、盗聴がなかった光子の情報だけを使って乱数表を作った。
この方法は盗聴による変化と通信時のノイズが区別できないため、通信路にノイズが多いと使える光子が減り、通信の効率が大幅に下がる欠点があった。今回の第2世代の暗号は捨てる光子が少なく、通信の効率が高い。
第2世代の方式を実用化するには、受信者が好きな間隔でパルスを測れる装置などを開発する必要がある。第1世代の実証試験を手掛ける情報通信研究機構の佐々木雅英室長は「装置の作り込みができるかどうか、評価には時期尚早」と指摘する。
30年前に開発された第1世代は、海外を中心にすでに実用化の段階に入っている。第2世代は国内外の研究チームが、理論の検証試験をしている段階だ。政府の「革新的研究開発推進プログラム」で関連テーマを率いる山本喜久プログラム・マネージャーは「量子暗号は2つの方式に絞り込まれた。将来的には今回開発された方式に置き換わるのではないか」と話している。
(松田省吾)
[日経新聞9月13日朝刊P.25]
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