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「薬の飲み残しはありませんか?」(※イメージ)
70万円削減も! 山積み“残薬”は本当に減らせるのか?〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160304-00000000-sasahi-hlth
週刊朝日 2016年3月11日号より抜粋
医療機関の処方箋(せん)を持っていった調剤薬局で、薬剤師から「薬の飲み残しはありませんか?」と聞かれることがある。「調剤報酬改定」で薬剤師による残薬確認が始まって4年。“減らせ残薬”の効果はあがっているのか。
高齢者の残薬の問題の一つは薬の数の多さだ。循環器内科医で東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巖医師はこう話す。
「高齢者の多くは高血圧や糖尿病など慢性疾患を複数持っていて、さらに眠れない、便秘、おしっこが近いなど、さまざまな症状を抱えている。降圧薬と睡眠薬、痛み止め、胃薬というのは、高齢者への処方で多いものですが、これだけですでに4剤。ほかの慢性疾患が加われば、もっと薬を飲まなければなりません」
降圧薬や血糖降下薬などの薬では、一つの薬の量を増やすと副作用が出やすいため、多剤併用にしているケースもある。
持病が複数なら、かかる診療科も複数になる。その結果、同じ成分が重なったり、「抗菌薬と胃薬」のように、逆に効果を弱めてしまう薬が処方されてしまったりするおそれもある。「お薬手帳」があれば確認できるが、医療機関ごとに2、3冊持っているようなら、チェックしきれない。
薬が増えるのは、高齢者が育ってきた時代も関係する。認知症患者を中心に在宅医療を担う、在宅療養支援診療所たかせクリニックの??瀬義昌医師が解説する。
「健康保険の変遷のなかで、高齢者医療がすべて無料だったときがあります。その時代を知っている高齢者は、“薬はもらっておいたほうが得”と思うようです」
取材では、痛み止めをもらいに来た患者が、医師から6日分しかもらえなかったことに腹を立て、「全然足りない」と薬剤師に不満を漏らした例もあった。
高齢者の心理的な問題も影響している。「何かあったときのために」と薬を多めにもらい、保管しておくのだ。??瀬医師は言う。
「高齢者の不安は“死”に対する漠然とした恐怖からきます。ですから、本来は薬ではなく、患者さんに寄り添う別のアプローチが必要なんです」
生活習慣や体調は一人ひとり違う。本来なら患者の背景に沿った薬の飲み方や薬の形状が必要で、適切に服薬できるよう指導する役目を担うのは、薬剤師であり、地域の薬局だ。
だが、薬剤師や薬局にも課題がある。ひとつは患者とのコミュニケーション力が十分ではない薬剤師がまだ少なくないという点だ。
医療機関近くに乱立する門前薬局の存在も問題だ。最近では門前薬局同士の競争が激しく、「隣の薬局より1分1秒でも早く薬を出す」ようになっている。患者もそれを望み、少しでも時間がかかると「遅い」とクレームをつけてくる。説明不足のまま、渡してしまうケースも少なくない。下剤と降圧薬を間違えて飲み続けていて、薬剤師から説明を受けて初めて気付いたというケースもある。
残薬減らしという点から、先駆的な「節薬バッグ運動」に取り組む福岡市の例が参考になるだろう。
同運動のきっかけは、12年の調剤報酬改定の前年に報告された製薬会社のアンケート。調査に答えた薬剤師の98%は、処方薬を出すときに「患者に説明をしている」と答えたが、患者の48%は「説明を受けていない」と答えていたのだ。
「薬剤師が説明したと思っていても、患者さんには伝わっていない。その現実を突き付けられたんです」
そう話すのは、福岡市博多区の住宅地にあるシティ薬局の木原太郎さん(48)。福岡市薬剤師会の副会長として、節薬バッグ運動の先陣を切った一人だ。
同運動では12年、薬剤師会の会員31薬局がトライアルで1600枚のバッグを患者に配り、残薬を持ち込んでもらった。このデータを九州大学で集計・解析。3カ月間で252人から出た残薬のうち70万円相当を削減できたことがわかった。これを受け、13年には全会員650薬局に運動を拡大した。
調整した薬は下剤、胃薬、血糖降下薬など。費用的に大きかったのは、降圧薬と高脂血症の薬だった。
同薬剤師会会長の瀬尾隆さんは、この運動で「思わぬ副産物」が生まれたと喜ぶ。バッグが薬剤師と患者のコミュニケーションツールになったというのだ。
「これまでは薬剤師が患者さんに“残薬はありませんか?”と話す一方通行のやり取りでしたが、運動以降、患者さんのほうからバッグに残薬を入れてきて“薬が残っているけれど、どうしたらいい?”と言ってくれる。薬に意識が向くようになりました」(瀬尾さん)
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