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亀田総合病院(「Wikipedia」より/あばさー)
医師不足深刻化でも、大学医学部が定員増に必死の抵抗…「医師不足利権」の病理
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12768.html
2015.12.08 文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授 Business Journal
医師不足の日本で、医師を派遣する権限は絶大だ。そこに利権が発生する。利権にたかるのは、大学幹部や県庁の役人だけではない。医局を仕切る医学部の教授なら、誰もが利権のお裾分けに預かっている。
大学教授たちがたかる相手は主に民間病院だ。都内の病院経営者は「外科医などを常勤で派遣してもらえば、億単位の売り上げが期待できる。教授に数百万円戻しても十分に元はとれる」と言い切る。
医師派遣には金がつきまとう。この状況は以前から変わらない。ただ、従来は「袖の下」と見なされていた。ところが、近年の特徴は、公然と行われるようになったことだ。きっかけは「寄付講座」だ。国のお墨付きのもと、役所までが正々堂々と寄付金という「袖の下」を送るようになった。
この結果、最近は大学以外の医療機関までもが「医師派遣ビジネス」に乗り出している。その一例が千葉県の「医師不足病院医師派遣促進事業」だ。
この事業では、医療機関が医師1人を千葉県内の自治体病院に派遣すると、医師への給与とは別に月額125万円が派遣元の医療機関に支払われる。3分の2は千葉県、残りは派遣先の自治体病院が負担する。つまり、医師を1名派遣すれば年間1500万円を受け取ることになる。「医師の技量は問われないから、問題のある医師を送ればいい(千葉県の病院勤務医)」ことになる。
千葉県の亀田総合病院関係者は、「幹部は損税の穴を埋めるため、医師派遣を推し進めている」と打ち明ける。地域医療の雄である亀田総合病院といえども、経営が悪化すれば医師派遣ビジネスに手を染めざるを得ない。
このように医師不足はさまざまな利権を産み出している。メディアが「医師不足」「医療崩壊」を報じれば報じるほど、利権が拡大する。
■多くの利権
もちろん、厚労省も黙ってみているわけではない。自らの権限を強め、利権に食い込もうとしている。厚労省は14年度から地域医療支援センター運営事業を開始した。その目的について「都道府県が責任を持って医師の地域偏在の解消に取組むコントロールタワーの確立」を挙げている。
具体的には、この組織が「公的補助金決定にも参画」し、「優先的に支援すべき医療機関を判断」するらしい。これでは、まるで「社会主義」だ。官僚が強大な権限を握る。その結果、多くの利権が生まれる。
例えば昨年、厚労省医系技官で健康局長を務めた矢島鉄也氏が、千葉県病院事業管理者に就任した。医師免許はあるものの、病院経営などやったことがない素人で、典型的な天下りである。天下り先が減った昨今、「役人にとって干天の慈雨」(元厚労官僚)ともいえるポストだ。
なぜ、このような厚労省の振る舞いに医師たちは文句を言わないのだろうか。それは、このような流れは大学にとっても都合がいいからだ。
医師不足の多くの地域で、実質的に医師を差配しているのは大学だ。地域医療支援センターは大学と無関係に運営できない。政府や県庁と連携することで、補助金のおこぼれにあずかることができる。
例えば岩手医科大学の場合、総収入に占める補助金の比率は14.9%で、近年増加傾向だ。09年度の32億8700万円から、13年度には49億5200万円に増加した。いまや一流国立大学医学部なみの金額だ。
財政難の日本で大学が受け取る運営費交付金や補助金は減っている。医師不足が問題となっていない東京の私立医大は、特にそうだ。14年度、日本医科大学が受け取った補助金は前年と比べ10億円減ったという。
もちろん岩手医大の場合、震災の影響もある。しかしながら、それだけでは説明できない。その証拠に岩手県からの補助金は震災前の09年の7億7600万円から10年9億9600万円と増加している。震災後の12年には17億1600万円となった。岩手医大の経営にとり、医師不足ほどありがたいことはない。
■「医学部新設は絶対に認めず」
救急車のたらい回しが頻発しようが、入院できない患者がいくらいようが、厚労官僚や医学部教授にとって医師不足の現状がもっとも好ましい。何もしなくても金とポストを得ることができるからだ。できるだけ、医師不足の状況を維持したい。こうなると、彼らの敵は、医師が増えることだ。医師を増やそうとする動きには、一致団結して抵抗する。
例えば08年、舛添要一厚労大臣(当時)が医学部定員を増やそうとしたときには、文科省医学教育課長に出向中だった医系技官は、東京大学などの医学部長に「医師はなるべく増やさない方向で頼みます」と電話し回った。
この時は結局、舛添氏に押しきられ、その後の民主党政権もこの路線を踏襲したが、12年に自民党が政権に復帰以降、医学部定員増員を骨抜きにした。09年度には医学部定員が、693名も増員されたのに、14年度の増員はわずかに20名だ。08年当時、定員を5割増やすことが目標とされたが、結局2割の増員で打ち止めにした。
代わって宮城県や千葉県成田市に医学部新設の話が持ち上がった際には、前出の岩手医大や千葉大の学長たちが反対の急先鋒に立った。
小川彰・岩手医大学長は「医学部の新設は、医師不足に対してまったく意味がない」という奇妙な理屈をこね、「医学部新設は絶対に認めず」という論陣を張った。もちろん、新規参入を妨害し既得権を守りたいだけだろう。
日本の医師は絶対数が足りず、遍在している。この問題を解決するには、医師の養成数を増やすしかない。あるいは医師が独占してきた業務を看護師や薬剤師に解放すべきだ。そうすれば、駄目な医師・病院・医学部は淘汰されるだろう。真っ先に淘汰されるのは、前述のような既得権益層だ。逆に彼らや厚労官僚の権限を強化しても問題は悪化するばかりなのは、これまでの経緯から明らかだ。今こそ、国民の視点に立って医療提供体制の在り方を抜本的に見直さねばならない。
(文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授)
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