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白い巨塔・大学病院「出世の階段」に「医者の実力」は関係ない? 楽をするほどカネが儲かる医療界の真実
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46055
2015年10月30日(金) 週刊現代 :現代ビジネス
患者にとって、医師はときに「神」のように輝いて見える。教授という肩書がつけばなおさらだ。だが、肩書が命を救ってくれるとは限らない—医師としての「実力」は「階級」に比例するのか?
■メスを握った教授の冷や汗
「教授が明らかに緊張しているのがわかりました。いつもはエラそうにふんぞり返っているのに、この時ばかりは冷や汗が止まらないようでした。途中で出血量が増えてきたので、別の若い医師に交代し、あとは教授は心配そうに横から見ているだけでした」
こう語るのは、関西の国立大学附属病院に勤める麻酔科医だ。彼は、ベテランの外科教授の行う開腹手術に立ち会った際、教授が自身の手術の力量に自信を持っていないことを如実に感じたという。
「手術を受けた患者さんの家族に『どうしても教授に執刀してほしい』と懇願されたそうです。しかし、この教授はそもそも研究畑の人で手術が得意ではないし、数もこなしてこなかった。50歳を超えていて反射神経も鈍っている。
それでも教授がまったく手術ができないとなると、病院の評判にかかわることになるので、しかたなく若くて器用な医師をつけて、体面上は教授が手術をしたということにし、患者さんに納得してもらったのです」
実は、大学病院ではこのようなケースが珍しくないという。病院の事情に詳しくない患者は、医者の階級がその実力に直結していると考えがちだからだ。
「とくに、東大病院や慶應病院といった病院名のブランドに惹かれて入院してくる患者さんやその家族に、そういう人が多いですね。助教や講師といった若い医師には見向きもせず、とにかく教授という肩書のついている人に診てもらいたがる。『うちは東大病院で、しかもエラい教授に診てもらった』ということに安心感を抱くのでしょうが、それが賢い受診のしかたかどうかは別問題なのです」(前出の麻酔科医)
医者の「実力」とその「肩書」は必ずしも比例関係にあるわけではない。研究活動を主体にしている大学病院の場合はなおさらだ。
そもそも大学病院には、診療・研究・教育という3つの役割がある。いうまでもなく、患者にとって重要なのは診療なのだが、大学病院ではむしろ研究活動に重きが置かれる場合が多い。
大学病院で出世を目指している野心のある医者は、患者を救うことよりも、いかに研究成果を上げるかということに邁進しているし、そうしないと厳しい競争で生き残ることはできないのだ。
小説『破裂』や『無痛』がテレビドラマ化され、話題を呼んでいる作家で医師の久坂部羊氏が、大学病院の根本的な矛盾について語る。
「大学病院には、患者を診る医療者と研究をする医学者が共存しています。'70年代頃までは、治療も研究も細分化されておらず、医学者が医療者を兼ねることができました。
しかし、医学の進歩によって研究にも治療にも膨大な知識が要求されるようになり、研究に専念すれば治療がおろそかにならざるをえず、逆もまたしかりの状況になりました。大学病院で出世するには、明らかに医学者(研究者)のほうが有利ですから、階級が高い医師の中には臨床が苦手な人も多いのです」
■大学病院の医師のキャリア
ここで、病院における階級と組織の成り立ちを理解するために、大学病院で働く医師のキャリアがどのようなものかを見て行こう。
6年の医学部生活を終え、医師国家試験に合格すると、5〜7年の研修医生活が始まる。当直などの激務をこなしながら、自分の専門となる診療科を決めて、2年の初期研修を終えた後は「医局」に入ることになる。
医療ドラマなどでよく耳にする言葉、「医局」こそが大学病院の権力構造を読み解く上でのキーワードだ。医局とは大学病院の教授が受け持つ講座や診療科に属する医師のグループ、人事組織のこと。前出の久坂部氏が解説する。
「入局を許されるのは、その大学の出身者ばかりでなく、他の大学の卒業生も受け入れられます。医局員の数は医局の勢力と見なされるからです。入局すると、医局のヒエラルキーに組み込まれ、出世の階段を上っていくのです」
ヒエラルキーの最底辺は研修医である。内科や外科のようなメジャーな科になると20人以上も研修医を抱える医局もある。その後、研修医を終えて、博士号を取ったら助教になる。助教の数はメジャーな科で15人くらい。
その後、30代後半で講師になる。医局内のグループを束ねる、会社でいうと課長クラス。科によって違うが、だいたい1〜3人くらいがいる。
その後、40代前半で准教授に。教授の補佐役であり、1つの医局に1人が原則だ。教授を目前にした重要なポストだが、権限はほとんどなく、教授との権力格差はとても大きい。
■医局での出世に必要な能力
科に君臨する教授は、一国一城の主、絶対権力者である。病院長といえども、科内の人事に口を出すことはなかなかできないほどだ。また、病院経営に関する重要事項はすべて教授会で決められる。教授会こそが病院の最重要意思決定機関である。
新しい教授を選ぶのも教授会だ。そのため教授選に立候補する准教授は、他の科の教授に根回しをする政治力も求められる。医療モノのテレビドラマで描かれるような、ごますりや足の引っ張りあいは、部分的に真実である。
ノーベル賞級の研究成果があるなら別だが、医学研究は細分化しており、専門外の論文を正当に評価するのはなかなか難しい。従って、建て前上、教授選では研究成果や臨床の実力が考慮されることになっているが、実際にはコネやごますりといった政治力が重要になるのだ。
ちなみに一昔前には、教授選の前に数百万円単位の「実弾」が飛び交うこともあったが、最近ではさすがにそこまで派手な金銭の受け渡しはなくなった。
「それでも博士号を取ったら、教授にお礼として『付け届け』をする人もいますよ。結婚式に来てもらっただけで100万円を渡したという先輩もいます。古い習慣だと思いますが、医局で出世するために、そこまでやる人もいる」(関東の大学病院勤務の内科医)
さらに教授が定年を迎えると、関連病院の院長などの名誉職が用意されることも多い。教授になれるかなれないかは、医師の出世の上で非常に大きな分かれ道となるのである。
こうして見ればわかるように、医局ではポストが上になればなるほど、用意される椅子は少なくなっていく。研究で結果を残しつつ、絶対権力者である教授のお眼鏡にかなうことによってしか、大学病院に残り続けることは難しい。
だから、医者がえらくなるほど、実力と肩書は比例しなくなる。実力とは、内科であれば、正しく診断し、適切な処方を下す力。外科であれば、手術のうまさだ。だが、それが出世に結びつかないとすれば、患者に向き合おうとしない医者が出てくるのは避けられない。
■開業医のほうが儲かるけれど
では、大学病院に残らなかった医者たちはどうなるのか。いちばん多いのは大学病院と関係の深い関連病院に派遣されるパターンだ。例えば、東大病院の場合、帝京大学病院や虎の門病院、三井記念病院など関連病院がいくつもある。都内のみならず、地方の辺鄙なところにも病院はあり、博士号取得後の数年間、「お礼奉公」としてそのような地方病院に派遣されるケースも多い。
興味深いのは、このように一般の関連病院に派遣されたほうが、医師としての稼ぎはずっと上がるということだ。大学病院に居続ける限り、病院から受け取る給与は他学部の教員と一律になるため、40歳の講師でも700万〜800万円程度だ。
ただし、外勤のアルバイトがあるので実質の実入りは大きな幅がある。なかにはアルバイトに精を出して、年間2000万円ものバイト代を稼ぐ「猛者」もいるが、あまりやりすぎると医局内での出世の道が閉ざされる。
一方で、一般の病院の勤務医になれば、大学病院の倍以上の給与が保証される。
一般病院では臨床が重視されるので、「出世している医者=患者にとっていい医者」となる可能性が大学病院よりも高い。ただし、ある程度出世した医者は病院経営の責任者でもある点には注意しておきたい。場合によっては、収益向上のため無駄な検査や手術が行われることもあるからだ。ビジネスの才覚があって出世した医者ほど、そのような検査を好む可能性が高い。
医局を出た医者の歩む道のもう一つのパターンは開業医だ。「お礼奉公」で地方病院に勤務しながら、開業資金を貯め、さらにローンを組んで30代後半から40代前半に開業する場合が多い。
自営業なのでそれなりのリスクを取ることになるが、開業医の年収は平均で3000万円弱。経済的に見れば、もっとも美味しいキャリアだ。開業後は、大学の医局とのつながりは弱まり、関連団体である日本医師会に所属することになる。
このように経済的に見れば、明らかに一般病院に勤務したり、開業したほうが得だ。しかし大学病院に残って医局の階段を上っていく道こそが、エリート医師の王道とされている。
研究の最先端の現場で豊富な症例に触れることができるし、学会や留学などで海外に出る機会にも恵まれる。なにより自分の研究が、医学の進歩に貢献していると実感できるのだから、やりがいは十分だ。米国での研究生活を終えて関東の国立大学病院に戻ってきたばかりの心臓外科医が語る。
「正直、割に合わない仕事だと思うこともありますよ。心臓外科は出世レースが激しい科なので、どうしても勤務時間が長くなりがちで、朝7時から夜の11時まで働くため『セブン-イレブン』といわれています。
それでも医局に残ることにこだわるのは、自分のやりたい研究があるからです。研究費を取ってきて、好きな研究をするためには出世しなければならない。手術に関しても、一番手にならないと大事な難しい手術はさせてもらえませんしね」
とはいえ、アカデミズムの道から離れて開業医になった同級生たちは平日からゴルフに行ったり、フェラーリに乗ったりする優雅な生活を満喫していて、うらやましく思うこともあるという。
「妻にもしきりに『早く開業してほしい』と言われます。でも、今は研究をあきらめるつもりはありません。
日本の医療界は楽をすればするほどカネが儲かるという変な構造になっています。最先端の医療で難病治療をするよりも、風邪の患者に解熱剤を処方しているほうが儲かるんですから。
さすがにもう少し待遇がよくてもいいかなと思うこともありますが、逆に言えば真面目な人材が研究に邁進し、カネ目当てで研究をする人がいない分だけ、日本の医学の質が担保されているともいえますね」
カネには代えられないやりがいや名誉、プライドが医局の出世コースには存在するのだ。
だが、あえて医師として「苦難の道」を選んだエリートたちが、患者が望む治療を施してくれるとは限らないことは、先に述べた通り。
次回は、東大病院をモデルに、大学病院の権力ピラミッドを詳細に見て行こう。
「週刊現代」2015年10月31日号より
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