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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45388
015年09月18日(金) 長岡美代 急増する"虐待"老人ホーム
川崎市内の老人ホームで3人が相次いで転落死するという、異常事態が起きた。その後、同じグループの介護施設では、職員が入所者の首を絞めるなどの虐待があったことも報じられている。なぜ、介護の質はこうも劣化してしまったのか?
介護業界のウラとそこに潜む問題に迫った注目の新刊『介護ビジネスの罠』の前書きを特別公開します。
はじめに
海外旅行に出かけた先で飛行機を降りた途端、その国独特の匂いや雰囲気を感じ取れるように、老人ホームも玄関に足を踏み入れたときに受ける印象はそれぞれ違う。
ふわっと柔らかな心地いい空気が流れていることもあれば、長く留まるのを避けたくなるようなギスギスした気配を感じる場合もある。それは案外、ホームの質を表していたりする。
ところがそこは、人がいる気配が不思議なほどに感じられなかった。
薄暗いマッチ箱のような小さな部屋が平屋建てのホーム中央にある浴室を取り囲むように配置され、廊下からなかが丸見えになっている。介護ベッドを置くのがやっとの広さの部屋には、トイレも洗面所もない。
入居者はたしかにいる。点滴スタンドに掛けられた容器からチューブが垂れ、その先がベッドに横たわる高齢者の腹部につながっている。経管栄養の胃ろうである。どの部屋を覗いても見える光景は変わらず、物憂げな表情まで一様なので不気味にさえ思えてくる。早くこの場を立ち去りたい衝動に駆られるほどだ。
「空きは2部屋ですが、すぐに埋まるかもしれません。ここのところ申し込みが続いているものですから……」
女性スタッフのやたらに甲高い声が、静まり返ったホーム内に響き渡った。
入居を急かす老人ホームにありがちな営業トークのように聞こえるが、筆者の見学中も電話での問い合わせをいくつか受けており、話は本当だった。
ここは東海地方に点在する老人ホームの一つで、通称「胃ろうアパート」とも呼ばれる。口から食べられなくなった経管栄養の要介護者を専門に引き受け、前代未聞の巧妙な手口で公費を搾取していたことが一時、テレビや新聞、週刊誌などで騒がれ、社会問題にもなった。筆者は久しぶりにアパートの一つを訪ねたが、当時と状況はまったく変わっていなかった──。
次ページ 福祉用具のマルチビジネス…
2000年4月にスタートした介護保険制度は、それまで自治体の措置で提供されていた介護サービスを民間に開放することで選択肢を飛躍的に増やすとともに、市場原理によって悪質な事業者を排除できる、はずだった。
しかしながら実態は、胃ろうアパートのように高齢者を食い物にする輩が堂々とのさばっている。
いまや介護保険だけでも10兆円の巨大市場に成長した介護ビジネスには異業種からの新規参入が絶えないが、規模の拡大に伴って架空や水増しなどの不正請求で摘発される事例も増えている。
厚生労働省の調べによれば、2013年度に指定取り消しや効力停止処分(一部または全部)を受けた介護事業所・施設は全国216ヵ所と過去最多だった。前年度に比べ1.8倍にも増え、制度開始からの不正請求額は約176億円(加算金を含む)にも上る。その出所は、私たちが払っている税金や介護保険料である。
筆者は介護保険が始まる前から高齢者介護の現場を取材し続けているが、不正請求や悪徳業者が目立つようになったのは2002年頃からだ。その実態を筆者は週刊誌でいち早く追及してきたが、当時から制度の隙を突いたビジネスは暗躍していた。
長岡美代『介護ビジネスの罠』この実態から、誰もが無縁ではいられない。
なかでも際立っていたのが「福祉用具レンタルのマルチビジネス」だった。
足腰の弱った高齢者の立ち上がりを楽にする移動式座椅子リフターを数十万円で購入し、それを利用してくれる要介護者を探し出すと定期的に手数料が支払われるというビジネスだ。「介護保険で小遣い稼ぎができる」という触れ込みで全国的に広がった。
介護保険のサービスには公定価格が決められているが、福祉用具は例外でレンタル事業者が自由に料金を決められる。ビジネスの首謀者はそれを悪用し、リフターを購入者から借り受け、提携するレンタル事業者を通じて月2万5000円という高額な料金で要介護者に貸し出していた。
利用者の自己負担は一割(当時)だが、残りの9割は保険からレンタル事業者に入るので、そこから購入者に手数料を払える。要介護者がレンタルを続ける限りカネが転がり込むので、「数年後には購入費を上回る利益が出る」と持ちかけていた。
さらにリフターを購入してくれる人を紹介すればするほど手数料が高くなる、マルチ商法の形態をとっており、関係者によれば最盛期には3000台以上が普及していたという。
福祉用具が自由価格なのは、事業者同士の競争によって利用者が安価でレンタルできるようにする意図からなのだが、法外なレンタル料を設定しても利用者が納得すれば契約は成立する。リフターの購入者には要介護者もいて、自身で利用しているケースさえあった。
介護保険のサービスを利用するにはケアプラン(介護サービスの利用計画書)が必要になるが、同ビジネスにはその作成を担うケアマネジャーも加担していた。
ところが、「単なる椅子代わりにしか利用されていない」「段ボール箱にしまわれたままで使われていない」といった苦情が自治体に相次ぎ、ケアマネジャーへの締め付けが厳しくなったことからビジネスは先細り、最終的には破綻へと追い込まれた。
「こんなくだらないモノを買わされて……。欲に目がくらんだ自分も悪かった」
当時、取材した被害者の女性は、知人にも何台かリフターの購入を勧めたため責任を感じていた。その代償は被害額以上に大きかったようだ。
ただ、最大の被害者は私たち国民である。わずかな年金を頼りに暮らしている高齢者は生活費を削りながら保険料を支払っているのに、こんなことに使われているのを知ったら許せないだろう。
65歳以上の高齢者が月々払う介護保険料の全国平均は、制度開始当初の2911円から現在は5514円(2015〜17年度)となり、負担感は増すばかりだ。無駄に使われては制度の信頼性さえ揺るがしかねない。
しかしながら、右肩上がりの成長が見込まれる介護ビジネスには安易な事業者の参入も目立ち、昨今は法令順守の姿勢や介護の知識がほとんどない例まで見受けられる。特に老人ホーム事業でその傾向が強まっている。
介護保険は国が報酬やその使い方を決め、あるべき方向へ導いていく機能も有している。だが、制度の隙や抜け穴を突いてくる事業者は必ず出てくる。政策のまずさが制度の悪用を招くこともある。
度重なる制度改正や他法との関連もあって、最近では行政が見破れないような手の込んだやり方で高齢者を食い物にする悪質な事業者も横行する。医師が加担するケースも散見されるのが実情だ。
本書では不正の手口や悪徳業者の最新動向を紹介しながら、事業者が何を考え、それらに行政がどこまで対応し得るのかを取材でのやりとりを通して突き詰め、さらに制度のどこに問題があるのかを解き明かすのを狙いとした。
第1章では、近年急増している「サービス付き高齢者向け住宅」で横行する囲い込み≠ニ、それによって引き起こされる不正や不適切なケアの実態に迫った。また、介護給付費が増大している背景には、老人ホーム政策の矛盾があることにも言及している。
第2章は、国が進める在宅医療で、患者の獲得をめぐって手数料をやりとりする「患者紹介ビジネス」が一昨年問題になったが、その顛末のなかで厚生労働省の二転三転する対応が現場にもたらした混乱などを描いた。
第3章は、「シニアマンション」と称して無届けで運営する老人ホームもどき≠ノおいて今年、多数の高齢者への虐待が発覚したばかりだが、その背景には自治体に後ろめたい事情が隠されていることを突き止めた。
過去には、群馬県にあった同じく無届けの「静養ホームたまゆら」で火災が発生して10人の尊い命が奪われ、それを機に全国的に行政指導が強化されたはずだが、取材や独自調査によって実態はそうなっていないことがわかった。
たまゆら火災では当時の経営者が刑事罰に処されたが、その30回近くに及ぶ公判を取材するなかで群馬県が当時、マスコミに嘘をついて責任逃れをしていたことも判明した。その内容にも触れながら、火災を招いた「真の犯人」にも迫った。
第4章は、冒頭で紹介した胃ろうアパートの狡猾な手口とともに、それに思うように切り込めない行政指導の実態と限界を、数年に及ぶ取材によって明らかにした。ここには第1章から第3章までに取り上げた問題のすべてが凝縮されているが、今後もこの手のビジネスは増える可能性があると思っている。
第5章では、看取りへの関心が高まるなかで平穏死や尊厳死に注目が集まっているが、現実にはそれが難しい理由に触れた。ただ、解決策のヒントとなる試みも現場で生まれているので、その取り組みについても紹介している。
「措置から契約へ」を謳い文句に始まった介護保険だが、それは言い換えれば「福祉からビジネスへ」の転換でもあった。
介護サービスには多かれ少なかれ福祉的な要素が必要になるが、現状は利益優先の事業者が跋扈している。「いかにして儲けるか」ばかりを考え、あの手この手で高齢者を狙っている。その罠は巧妙で、ひっかかっても本人はもとより家族も気づいていないことが少なくない。知らぬ間に被害に遭うことがないよう、本書が少しでも役立てるなら本望である。
長岡美代『介護ビジネスの罠』講談社現代新書
長岡 美代(ながおか・みよ) 介護・医療ジャーナリスト。一般企業で経営企画に携わったあと、介護現場を経て、高齢者の介護や老人ホーム、医療などの取材・執筆活動を続ける。介護保険が始まる前から追い続けている制度の動向も取材テーマの一つで、悪質事業者の実態にも詳しい。各種メディアで発言することも多い。著書に『親の退院までに必ず!コレだけ!!しなければならないこと』(すばる舎)、『親の入院・介護に直面したら読む本[新訂第2版]』(実務教育出版)、『60代からの住み替えを考える本』(同)、共著に『シングルライフの老い支度』(同)、『老後の真実』(文春文庫)などがある。
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