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参照図
子宮頸がん検診は無意味?がん死亡は減らず、寿命も延びない
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11485.html
2015.09.10 文=岡田正彦/新潟大学名誉教授 Business Journal
「医療批判本」なる書籍のジャンルがあるそうです。そんな批判本のひとつに対し批判がなされ、そのまた批判が……という興味深い論争が、インターネット通販サイト、アマゾンのカスタマーレビュー欄上で繰り広げられています。
論争のテーマは、女性に対する「子宮頸がんの定期検診」(以下、検診)です。きっかけとなった本には、「検診で子宮頸がんによる死亡は減らない」と書いてあったのだそうです。その本に対して、ひとりの読者が「データの見方が偏っている」「この本で多くの女性が子宮頸がんで命を落とすことに」と、激しい論調の批判文を投稿しました。「検診で、がんの発生率や死亡率を70〜80%減らせる」とも書かれています。
注目すべきは、この批判文に対して、「参考になった」をクリックした人が1300人以上もいたことです。たぶん、前代未聞です。
ところが、さっそく別の読者から、「検診で異常とされる割合はあまりに高すぎて、実際の死亡数の100倍から3000倍にもなる。子宮頸がん検診は、やはりおかしい」という主旨の批判文が投稿されました。
■そもそも発想が間違っている
この論争の背景をまとめておきましょう。ちなみに子宮頸がん検診は、細胞をヘラなどで採取して顕微鏡で調べるという方法で行われています。異常が見つかれば、精密検査・治療へと進みます。このような検診の効果を検証した調査は世界中に多数ありますが、論文の内容はどれもよく似ています(意味不明の論文が多い点でも)。
そんな中から、メキシコでの大規模調査の結果を報じた論文を見てみます。まず検診でがんと診断された人たち(患者群:397人)について、過去に検診を受けていた割合(受診率)を調べたそうです。次に、比べる相手として健康な人たち(対照群:1005人)を、年齢分布が一致するように無作為に選び、受診率を調べました。計算の結果、患者群は受診率が(対照群を1とすると)0.38となり、検診をあまり受けていないことがわかりました。「検診を受ければ、がんになる割合は大幅に減る」と結論したのです。
この結論が果たして正しいのか、検証してみましょう。
話をわかりやすくするため、患者群と対照群のどちらも検診を同じ割合で受けていたと仮定します。どのがん検診もそうですが、地域ごとに同じ時期に行われるのが普通です。もちろん、ぴったり同じ日ではなく、いつもより早めに受けた人も、遅く受けた人もいたはずです。肺がん検診の受診時期を調べた人によれば、その割合は半々くらいだといいます。
では、「今年の検診でがんが見つかった人たち」について、前回の検診記録をコンピュータで調べると、どうなるでしょうか。
ちょうど365日前か、それより遅く受けた人だけが選ばれ、少しでも早めに受けた人はカウントされませんから、実際の半分くらいになります。だからといって、検索範囲を365日より広げてしまうと、前々回の受診率とダブってしまいます。
一方、「健康な人たち」が前回の検診を受けていたとすれば、それは昨日のことかもしれませんし、1年近く前だったかもしれません。ほとんどの人は、その間のどこかですから、ほぼ全数がカウントされることになります(冒頭の図参照)。メキシコの論文では検索範囲が明記されていませんでしたが、2年でも、3年でも同じではないでしょうか。
この方法では、検診の効果がどうあれ、患者群のほうの受診率が(対照群に比べ)常に小さくなってしまうため、そもそも発想が間違っているのです。冒頭に紹介した論争も、これでは噛み合わないわけです。
■正しい検証方法
では、検診が有効かどうかを正しく検証するにはどうしたらいいのでしょうか。
方法はただ1つ。偏りのない2群のボランティアを設定し、一方に定期的に検診を受けてもらい、他方には受けない約束をした上で、追跡するしかありません。
幸い、この方法で厳密に行われた調査が世界で1つだけあります。2009年にインドで報告されたもので、6万人を超えるボランティアを偏りなく検診群と対照群に2等分し、7年ほど追跡しています。その結果、子宮頸がんによる死亡も、また原因を問わず死亡した人の総数も、両群でまったく同じであることがわかったそうです。
子宮頸がん検診は、いくら受けてもがん死亡が減ることはなく、寿命が延びることもないというのが冷静な結論となります。
「でも、なぜ?」
謎解きは別の機会に。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
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