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帰ってきた遺伝子治療[日経新聞]
リスク抑制、神経難病に効果
人体に遺伝子を入れ、その働きを利用するなどの方法で病気を治す遺伝子治療が、米欧を中心に広がっている。2000年前後に副作用による死者が出て一時下火になったが、最近は「復活」の流れがはっきりしてきた。新たな手法が次々と開発され、リスクを抑えつつ、効果が期待できるようになってきた。
遺伝子治療は当初、特定の遺伝子が欠けたり、うまく働かなかったりして起きる先天性疾患の患者に、正常な遺伝子を補う治療として始まった。その後、染色体に傷がつき、白血病を起こすなどの副作用が起き問題となったが、より安全な手法の開発や、病気に応じた治療ノウハウの蓄積が進み、リスクを上回る効果が得られるとの見方が広がった。最近では神経難病やがんの患者に、治療に役立つ遺伝子を入れる手法が脚光を浴びている。
日本でパーキンソン病治療の先頭を走るのは、自治医科大学で臨床研究を始めた村松慎一特命教授らだ。パーキンソン病は脳内の神経伝達物質のドーパミンがきちんと作られないため、手足が震え全身の動作に支障が出る。そこでドーパミン合成に必要な酵素「AADC」を作る遺伝子を脳に入れて症状を改善する。現在の薬も併用する。
アデノ随伴ウイルスというありふれたウイルスにAADCの遺伝子を入れて注射すると、ウイルスが細胞に感染し遺伝子を送り込む。細胞内で遺伝子が働いて目的の酵素を作る。病気を起こさず染色体を傷つけることもない。神経細胞に感染しやすく、10年以上遺伝子の効果が見込める。
自治医大チームは遺伝子治療研究所(宇都宮市)というベンチャー企業を昨年設立、治療薬の製品化も準備する。米国勢も医薬品としての承認に向けて臨床試験(治験)を進めており「ここ2、3年が勝負」(村松特命教授)だ。
2007年に最初の臨床研究を開始した。米企業にAADCを組み込んだベクターの製造を委託したが、他社に買収されていったん中断。タカラバイオに委託し直して今年4月、7年ぶりに再開した。
07〜08年には、発症して5年以上たった51〜68歳の6人に投与した。運動機能と関係が深い脳領域の中の被殻という部分に、AADC遺伝子を入れたベクターを3000億個注入した。4人は症状が改善し、3人は現在も存命だ。
今回も6人に試みる。1人目は6月初め、入浴中に突然死したが、重いパーキンソン病で心筋梗塞などが起きた例はこれまでにもあり、自治医大の内部委員会は「遺伝子治療と死亡との間に因果関係はない」と結論づけた。9月以降、2人目に投与する予定だ。
ドーパミンの生成に関連したほかの遺伝子と組み合わせ、効果を高める方法も計画している。頭に穴を開けず、通常の注射で遺伝子を神経細胞に届ける方法や、遺伝子が神経細胞で働きやすくする技術も開発した。
また運動をつかさどる神経細胞の死滅などにより全身が動かなくなっていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して、18年にも治験を始める。神経細胞の生存に必要な酵素を遺伝子治療で補う。将来はアルツハイマー病の治療も視野に入れる。
自治医大の別のグループは遺伝子治療で血液がんの悪性リンパ腫を治す臨床研究を始めた。東京大学医科学研究所病院長を兼ねる小澤敬也客員教授らがタカラバイオ、米スローンケタリング記念がんセンターと共同で実施する。
患者の血液を採り、がんを攻撃するT細胞という免疫細胞を取り出して「CAR」と呼ばれる遺伝子を入れる。するとT細胞の表面に、この遺伝子が作るたんぱく質ができる。患者の血管に戻すと、新たにできたたんぱく質が血液がん細胞の表面に結合し、高い破壊力を発揮する。今年7月に最初の患者を治療した。
ウイルス自体の遺伝子を改変し、がんを直接攻撃させる新タイプの治療法もある。東京大学医科学研の藤堂具紀教授らは、ヘルペスウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖するようにした。脳に針を刺してこのウイルスを腫瘍に入れると、増殖しながら次々とがん細胞を破壊していく。治験を始め、今年5月に1人目の患者に投与した。
遺伝子治療が、白血病などかつて問題になった副作用を起こすリスクが消えたわけではない。だが方法の選択肢は確実に増えた。「時間はかかったが、治療のリスクとベネフィットをより的確に判断できる状況になってきた」(小澤客員教授)。遺伝子治療が普及する条件は整いつつある。
(編集委員 安藤淳)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150809&ng=DGKKZO90328360Y5A800C1MY1000
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