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医療費抑制、実現性に課題
病床20万削減の政府目標
「全国の病院のベッド数を20万人分減らす」。政府が6月にまとめたベッド(病床)数の削減目標が医療現場に波紋を広げている。高齢化への対応や医療費抑制を目的に、軽症の患者は病院から自宅や介護施設に移ってもらうことを目指す。ただ現場の医療関係者らからは反発の声が強い。実現可能性はあるのか。
病院や診療所のベッドは2013年時点で全国に135万床。ここ20年ほどは緩やかな減少傾向が続いている。
これをさらに減らそうというのが、6月に内閣官房の専門調査会(会長・永井良三自治医科大学長)がまとめた報告だ。報告書によると、今の制度のままだと団塊の世代が75歳以上になる25年には152万床が必要になる。この結果、医師の数など十分な医療体制が提供できなくなる恐れがある。医療費も膨らむ。
九州四国は3割減
このため病院の役割を見直し、手厚い医療を必要としていない30万〜34万人については自宅や介護施設での治療に切り替える。必要なベッド数は115万〜119万床となり、13年よりも1割以上少なくなる。
削減目標を地域別に見ると、41道府県でベッドが減る。特にベッド数が多い四国・九州では3割以上減るところが目立つ。逆に増えるのは高齢者が急増すると見込まれる東京都と千葉県、埼玉県、神奈川県と、大阪府、沖縄県の6都府県。今後、政府は目標実現に向けた計画策定を都道府県に求める。
ベッド数の削減は医療費抑制のカギを握ると考えられている。自治体ごとに人口あたりのベッド数と1人当たりの入院医療費を調べると、ベッドが多い都道府県ほど医療費が多くなる傾向がある。「病院がベッドを埋めて収益をあげようとし、不必要な入院が増えやすくなる」(日本総合研究所の西沢和彦上席主任研究員)ことなどが理由とされる。
ベッド数が減少した分の患者の受け皿は自宅や高齢者住宅、介護施設などが担う。そのためには、ベッドの機能をより明確にしたうえで「切れ目の無い医療・介護を提供する」(目標をまとめた甘利明経済財政・再生相)ことが必要だ。
具体的には、重症患者を集中的に治療する高度急性期や急性期のベッドを減らす。急性期のベッドは医療費が膨らみがちだが、実際には回復した患者が入院し続けるケースもある。今回の目標では高度急性期と急性期を現在の3分の2程度にする一方、リハビリや自宅復帰を目指す回復期を3倍に増やすこととした。
ただ、政府の思惑通りに削減が進むかは不透明だ。国はベッドの増設などを制限する権限はあるものの、すでにあるベッドの削減を強制することはできない。特に日本ではベッド数の8割は民間病院が占める。各病院の経営に直結するだけに、削減は容易ではないとの見方が多い。
北陸地方の中堅病院の医師は「ベッドを減らす動機がない」と指摘する。この病院は看護師不足で現在も約50床が稼働していないが、「いったん枠を減らすと、もう一度増やせる保証がない」(同)。すでに枠を持っている病院にとっては既得権益といえる。
懸念は患者側にも
日本医師会も目標が発表された直後、「こんな数字は納得できない」(横倉義武会長)と反発する声明を出した。
懸念は患者側にもある。構想は、症状の改善に応じて患者が病院を移ることが前提だ。日本では「大病院信仰」が強く、治療の途中で退院を促されることに不安を持つ患者も少なくない。同じ医師にずっと診てもらえないことに対する不満も出そうだ。患者の意識改革や受け皿となる施設の拡充は欠かせない。
高橋泰・国際医療福祉大教授は、ベッド数を削減するための方法として、供給が多すぎる地域のベッドについて、返上した病院に補助金を支払う仕組みを提言する。高橋教授の試算では、1床あたり500万円を支払っても医療費の削減効果により3〜4年で元が取れるという。高橋教授は「限られた財源で地域に必要な病院を維持するにはベッド数の削減が欠かせない」と話す。
(山崎純)
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人口あたりベッド数 日本、先進国で最多
日本の医療機関のベッド数は、先進国の中でも突出して多い。
経済協力開発機構(OECD)によると、日本は人口1000人当たり14床。2位の韓国(9床)、3位のドイツ(8床)を引き離す。このほかの先進国はフランス(6床)、米国(3床)、英国(3床)などいずれも少ない。
日本では国が1973年から10年間、高齢者の医療費を無料にした。自己負担がなくなったため医師も患者も気軽に入院を決めるようになり、ベッド数が急増する要因になった。
日本の医療費は年間約40兆円で、国の負担だけでも10兆円を超える。今後高齢化が進むと、支出はますます増えるのは確実で、抑制が急務になっている。
[日経新聞7月12日朝刊P.17]
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