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患者のことを考えたら病院敷地内に薬局の設置を
不便で手間がかかる院外処方、調剤費用も膨らむばかり
2015.6.1(月) 多田 智裕
5月21日 厚生労働省はいわゆる「門前薬局」(病院の近くに存在し、主にその病院のみの処方箋を取り扱う薬局のこと)について、来年度から診療報酬を今より減らす方向であることを明らかにしました。
複数の病院から処方された患者の薬をまとめて管理する「かかりつけ薬局」への転換を推進するのが狙いと説明されています。
かかりつけ薬局への転換を成功させるためには、「リフィル処方箋」(1年から1年半程度の期間内に反復して使用できる処方箋)の導入が大きなポイントであることを以前指摘しました(「『薬だけ受診』の人に薬局に行ってもらう方法」)。
また、薬剤費を抑制するには、ジェネリック医薬品の価格も含めて薬剤の価格交渉権が最重要課題であることも、以前のコラム「夢の肝炎治療薬が医療財政に与える大打撃」で説明しました(ちなみに、コラムで取り上げた肝炎治療薬「ソバルディ」の日本発売価格は5月15日に1錠6万円と決まりました)。
そこで今回は、「医薬分業」(医師に処方箋を出してもらい、病院や診療所の外の薬局で薬を受け取ること)のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。
本来は、患者サービスの充実が目的だったはずの医薬分業ですが、今では、患者には不便で調剤費用が膨らむばかりの状態に陥っているのです。
薬はなぜ病院外で調剤されるようになったのか
そもそも、薬の処方箋を発行する医師と、薬の調剤を行う薬剤師の役割をきっちりと区別する医薬分業制度はなぜ必要なのでしょうか?
医薬分業の起源は、国王などの権力者が、陰謀に加担する医師によって毒殺されることを防ぐために、病気を診察して死亡診断書を書く医師と、薬を厳しく管理する薬剤師を分けたこととされています。
これは、いわゆる西洋的な発想の制度であり、日本では長らく “何か理由があれば”医師が薬を直接調剤しても構わないとされていました。1980年代までは、事実上ほとんどの病院と診療所内で薬を受け取ることができたのです。
しかし、医師が調剤まで行ってしまうと、往々にして患者への薬の説明にまで手が回らなくなります。
それを象徴する出来事が、『医者からもらった薬がわかる本』(医薬制度研究会著、法研)という医学書が1985年に発売され、200万部を超える記録的なベストセラーとなったことです。それほどまで多くの人が「医者からもらった薬の内容や飲み方がよく分からない」と思っていたということでしょう。
ですから、90年代より、病院内で薬を調剤するよりも、院外処方箋を発行する価格を数倍高く設定する利益誘導を厚生労働省が行ったことは、決して間違っていたわけではないと思います。
患者が院外処方箋を持って薬局に行くことで、医師よりも薬について幅広い知識を持っている薬剤師によって、薬の投与方法や容量、相互作用などをチェックしてもらえるようになったからです。
薬局の“手抜き”が生まれる背景
患者の側から見ると、薬剤師が処方箋をダブルチェックしてくれること、薬の飲み方などについて詳しく指導してくれることは、大きなメリットです。
けれども現行の制度では、診療所側としては、いまひとつ納得できないことがあります。それは、薬の“処方間違い”コストが、薬局ではなく全額医療機関の負担になっているということです。
ここでいう、薬の処方間違いコストとは、手続き上の間違いのことです。
例えば、健康保険制度上は「一度に2カ月分まで」の処方と定められている薬が、一度に3カ月分処方されてしまったとします。この場合、多めに処方された1カ月分の薬剤代金が保険側に返金させられます。1カ月分の全額を診療所の収入から差し引かれてしまうのです。
例えば1錠100円の薬の場合、1カ月分の3000円が返金させられますが、診療所が受け取っている診察代と処方箋代金は1200円ほどなので、1カ月分余分に処方したことで約1800円のマイナスになってしまうのです。
「診療所が間違った処方箋にサインしたのだから責任を取れ」と言われればその通りなのかもしれませんが、ダブルチェックを行うはずの薬局にはなんのペナルティもありません。コストは全て医療機関が被るのです。
この仕組みには弊害があります。つまり、ペナルティがないので薬のチェックや患者への指導の際に手を抜く薬局が出てきてしまうということです。
今年の2月、あるチェーンの薬局店が、患者ごとの薬のカルテ(薬情報)を作成せずに患者に薬を渡していた不祥事が発覚しました。また、形式上は薬情報を記録していても、内容が不十分な薬局が一部には存在するとされています。
「薬局は処方間違いのコストをまったく求められない」という現状を、「処方した薬局も場合に応じてコストを負担する」ように制度を変更すれば、ダブルチェックと患者への指導を適当に済まそうとする薬局は淘汰されていくはずです。
「かかりつけ薬局」にしても患者は不便なまま
現状では、薬を病院や診療所内からもらうのではなく、院外で調剤してもらうと、一般的なモデルケースでトータルのコストは2130円から3880円になります(参考:「後発医薬品の普及に係る現状と今後の課題」)。
医療機関での診察代金720円を差し引いて調剤部分のみで考えると、これは1410円が3160円になっているということです。実に倍以上の金額です。
薬剤師のダブルチェックを受けて服薬指導を受けられるメリットは確かにあります。しかし、薬剤師の責任をチェックするシステムがないために、単なる“薬の袋詰め”だけで診察代よりも倍以上高い調剤費用がかかっているというケースも多々あるのです。
門前薬局の調剤料は、政策誘導上高く設定されすぎていましたので、診察代金並みに下げても良いと思われます。でも、かかりつけ薬局を推進するという施策は、病院を出てから調剤薬局に行かなければならない手間をまた患者に強いることになります。患者にとっては相変わらず不便で、調剤費用が膨らむばかりでしょう。
では、患者の負担を軽減し、利便性を向上させるベストの方法は何か。それは、門前薬局の調剤料を引き下げるのと同時に、病院敷地内への調剤薬局の設置規制緩和を行うことだと、私は考えています。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43906
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