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中国が人間の受精卵で「ゲノム編集」 欧米で大論争〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150519-00000009-sasahi-sctch
AERA 2015年5月18日号より抜粋
生命の設計図「ゲノム」を、簡単かつ正確に改変できる技術が登場して2年。デザイナーベビーはSFの話ではなくなってきた。
中国でついにヒト受精卵の「ゲノム編集」が行われた。簡単かつ正確に遺伝子を操作する技術「ゲノム編集」を受精卵に使えば、生まれる前に病気を治す可能性を開くが、一方でまだ未熟な技術を使えば子孫にどんな影響が出るか分からないから、研究を停止したほうがいい──ノーベル賞受賞者を含む専門家が、こう呼びかけるなど、欧米で議論が盛んになっている。
この背景にあるのが、中国での実験の噂。その実態が4月、明らかになった。中国広東省の中山大学などのチームが、専門誌で論文を発表したのだ。この論文を見る前に、まずゲノム編集がどんな技術か見ておこう。
1996年、DNA配列の狙った部分を分子のはさみで切る技術が登場した。技術的に難しく、それほど広がらなかったが、2013年に「革命」が起こった。米カリフォルニア大学バークリー校とスウェーデンのウメオ大学の研究チームが、非常に簡単な方法を発見したのだ。遺伝子を切断して一部を削り、その働きをなくしたり、別のDNA配列を取り込んで改変したりする。藻類から動物まで、対象となる生物は幅広い。
この分野の研究を進めてきた広島大学の山本卓教授は言う。
「従来の遺伝子組み換え技術より桁違いに効率がよく、しかもあらゆる生物で使えるので、世界中の研究者が飛びつき、驚くようなスピードで研究が進んだ」
医学研究に欠かせない特定の遺伝子の働きをなくした「ノックアウトマウス」の作製は、これまで1年以上かかっていた。それが数週間でできるようになり、しかも複数の遺伝子の働きを同時になくすこともできる。
米マサチューセッツ工科大学は、ある酵素の変異が引き起こす肝臓病の治療が可能になることを、マウス実験で示した。米テンプル大学は、エイズウイルスに感染したヒトの細胞で、ウイルスを取り除く実験をした。米ペンシルベニア大学はエイズ患者の臨床研究を行った。毎週のように新しい論文が発表され、関連ベンチャーの設立が相次ぐ。特許の取得競争も過熱し、米国はもちろん、中国、韓国でも研究の勢いが増す。そうした中で、とうとう中国はヒト受精卵を使った実験に踏み切ったのだ。
論文によると、目的はゲノム編集技術がヒトの受精卵でも使えるかどうかを試すこと。ただし、使ったのは、精子2個分の染色体が含まれる異常な受精卵。不妊治療クリニックから提供を受けたものだという。狙いは、血液に含まれるたんぱく質を作る遺伝子の改変。この遺伝子に異常があると重い貧血を起こす病気になる。受精卵86個を使った実験の結果、28個で狙い通りに遺伝子を切断できた。ただ、異常な受精卵を使ったためか、成功率が低すぎるので、実験を打ち切ったという。狙った場所以外での遺伝子切断が多数起こることも分かった。
研究チームは、英科学誌ネイチャーの記者に、同誌や米科学誌サイエンスは、この論文を倫理的な観点から受理しなかったと語っている。
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