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ヒト受精卵の遺伝子改変 中国のグループが論文 「究極の治療」議論噴出
中国の研究グループが病気治療への応用をめざし、世界で初めてヒトの受精卵の遺伝子を改変したと発表した。成長が途中で止まり出産しないよう工夫したが、生殖細胞の遺伝子に手を加えれば影響は子孫に受け継がれる。倫理的問題が大きいと批判が出ている一方で、実用化を前提に課題や手順を整理しておくべきだとの指摘もある。
中山大学(広州市)のグループが科学誌「プロテイン・アンド・セル」電子版に発表した。不妊治療クリニックから提供を受けた86個の受精卵の遺伝子を改変した。血液の病気の原因となるヘモグロビンベータ遺伝子の変異を直すことを試みた。
分析できた54個の受精卵のうち狙い通り改変されていたのは4個だけで、それらが分割した細胞には遺伝子が正常化していないものがあった。目標とは別領域の遺伝子配列が変化した受精卵も多く、成長の過程でどんな影響が出るか不安を残す結果となった。研究グループも臨床応用は「時期尚早」で「治療法の信頼性を一層高めることが急務」としている。
使用した手法は遺伝子配列の狙った箇所を切り取って別の配列と置き換える「ゲノム(全遺伝情報)編集」。最近注目を集めている「CRISPR/Cas9」という技術を使った。東京大学の菅野純夫教授によると「短時間で容易にゲノム編集ができる」ため急速に普及している。
受精卵の遺伝子改変のうわさは数カ月前から出ていた。科学誌の米サイエンスと英ネイチャーはそれぞれ3月に、そうした研究をけん制する記事を掲載していた。中山大のグループは海外メディアの取材に、両誌に論文を投稿したが拒否されたと打ち明けている。
サイエンスは審査の有無を明らかにしないが「人間の生殖細胞の操作は深刻な倫理的課題をはらむ」「コンセンサスが醸成されるまですべての投稿論文について技術的、社会的問題がないか慎重に見極める」などとする声明を出した。ネイチャーも審査方針として、生命倫理学者による評価が必要な場合があるとの見解を示した。
プロテイン・アンド・セル誌は中国の高等教育出版社、中国科学アカデミーなどが資金を出してネットで無料公開している。中山大の論文は今年3月30日に投稿、4月1日に受理され、きちんと査読プロセスを経たのか疑問視されている。中国ではほかにも複数のグループが同様の実験をしているもようだ。
国際幹細胞学会は論文発表後、「リスクを詳細に分析し社会的・倫理的観点から幅広い議論がなされるまで生殖細胞のゲノム編集のモラトリアム(一時中止)を」とホームページ上で訴えた。
日本は「遺伝子治療臨床研究に関する指針」でヒトの生殖細胞または胚等の遺伝子改変を禁じている。欧州連合(EU)の多くの国も認めていない。米国は連邦政府予算ではこうした研究を助成しない。
もっとも、国内外のすべての研究者や医師が研究に真っ向から反対しているわけではない。国立成育医療研究センターの小野寺雅史成育遺伝研究部長は「受精卵の段階で遺伝子を治すのは究極の方法」と指摘する。出産後では治しにくい病気もある。受精卵のゲノムを調べ、取捨選択する方がよいともいえない。
より正確な遺伝子改変ができる技術の実用化は「意外に早いかもしれず、日本も人ごとでは済まされない」(小野寺部長)。東大医科学研究所の神里彩子特任准教授は「わかる範囲で技術がどう進みうるかをリストアップし、学会の枠を超えて倫理的な課題などを評価してはどうか」と提案する。社会の側も議論を注視し心構えをしておく必要がある。
(編集委員 安藤淳)
[日経新聞5月12日朝刊P.14]
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