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認知症研究・第2ステージ
(上)進行阻止、発症前が勝負
重症治療から戦略転換 大阪市立大など、予備軍を解析
アルツハイマー病を中心とする認知症の治療研究が新たな段階に入った。最初はどんな患者も治すことを目指していたが、症状が進むと太刀打ちできなかった反省から、発症前や初期の段階で進行を阻む試みが始まった。新たな原因物質に狙いを定める動きも出てきた。早期診断をもとに進行を遅らせる取り組みも期待を集めている。高齢化社会で増え続ける認知症の克服に向けた第2幕を追った。
65歳以下の年齢でアルツハイマー病を発症する家系がある。ふつうは原因物質が何らかの理由で脳にたまり、いつの間にか神経の機能を失う。この家系は原因遺伝子を受け継ぎ、将来の発症時期がほぼわかる。遺伝性のアルツハイマー病だ。
2年かけて追跡
発症から症状が重くなる経過を観察すれば、治療の手掛かりがつかめる。米ワシントン大学などは「DIAN(ダイアン)」と呼ぶ研究計画を2008年に始めた。
同計画の日本版が、6月に立ち上がる。米ワシントン大学の研究者らが来日し、発足の式典を京都市で開く。「ダイアン ジャパン」をけん引する大阪市立大学の森啓名誉教授は「発症前から追い続けるので、発症過程や進行具合が詳細にわかる」と意義を説く。
臨床研究では、両親などが認知症を患った20歳以上の予備軍や発症初期の50〜60人を2年かけて追跡する。発症の原因となるたんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」が脳内にたまる様子や、海馬の萎縮などを調べる。
条件が整えば、原因物質を防ぐ薬を投与し、予防や進行の抑制効果を確かめる。遺伝性ではない人の治療にもつながる。森名誉教授は「治療法の開発を加速させたい」と意気込む。
発症前後の人に研究の焦点が移ってきたのは、治療薬開発の失敗が相次いだからだ。00年代から欧米の製薬企業などが重症患者の臨床試験(治験)を進めてきたが、良い結果が出なかった。
患者の脳にはアミロイドβが発症の約20年前からたまり始める。数年前から認知機能が少しずつ低下する。当初は、アミロイドβを除去したり増加を抑えたりする薬で治せるとの楽観論があった。だが認知機能は低下し続けた。「ある程度の神経細胞が既に死んでいるとみられ、薬の効果が出にくい」(東京大学の富田泰輔教授)
そこで注目されるのが発症初期の患者に使う治療薬だ。エーザイはアミロイドβのもとになるたんぱく質の断片を作らせない薬を開発した。発症初期の700人を選び、米国で第2相試験を進めている。「アミロイドβの蓄積を早い段階で止めれば認知機能の低下の抑制につながる可能性がある」(エーザイ)
海外勢も英アストラゼネカなどが日米欧で初期の患者を対象に大規模な第3相試験を実施中だ。
有望な標的浮上
新たな原因物質を狙う治療法も視野に入ってきた。有望な標的に浮上したのが脳の神経細胞にたまるタウたんぱく質だ。
アミロイドβは早い時期から脳にたまり、ある程度の量になるとタウたんぱく質の蓄積を促し、神経細胞を壊すことがわかってきた。タウたんぱく質が増える時に取り除けば、新たな治療戦略につながる。
「共同研究がしたい」。放射線医学総合研究所の樋口真人チームリーダーのもとには、欧米企業から熱心な申し出が相次ぐ。樋口チームリーダーらは13年、脳内のタウたんぱく質を陽電子放射断層撮影装置(PET)の画像で見る技術を開発した。発症の兆候や治療薬の効き目を見極める有力な技術となる。
放医研も臨床研究に乗り出した。日本医科大学など国内10カ所以上の機関と協力し、患者など約400人でタウたんぱく質の蓄積と発症の関係を5年かけて探る計画だ。
タウたんぱく質の研究は、アミロイドβ一辺倒だった治療戦略に見直しを迫る。早期の治療にかじを切る流れと合わせ、認知症との闘いが転機を迎えている。国は、1月に認知症対策の国家戦略を発表した。5年以内に日本発の根治薬の治験開始などをめざす。
国内の認知症患者は12年の約460万人から25年には約700万人まで急増すると予測されている。時間が限られるが、やるべきことは多い。
アルツハイマー病とは
▼アルツハイマー病 認知症の半分〜7割程度を占める。物忘れなど軽い症状から始まり、症状が重くなると家族の顔を忘れるなど社会生活に支障をきたす。症状の改善や進行を遅らせる薬はあるが、根本的な治療薬はない。
1990年代には遺伝性のアルツハイマー病患者の脳の中にアミロイドβというたんぱく質がたまることがわかった。病気の発症に強くかかわるという「アミロイド仮説」が提唱され、アミロイドβが治療薬開発の主な標的になった。
治療薬の市場規模は世界で診断薬を含めて8000億円強とされる。先進国だけでなく発展途上国でも患者が増える見込みで、今後市場はさらに膨らむ見通しだ。
[日経新聞4月28日朝刊P.9]
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(下)原因物質いち早く検査 予防・ケアで生活の質保つ
「アルツハイマー病を発症する前に判定できるようにしたい」。理化学研究所発のバイオベンチャー、理研バイオ(東京・豊島)の西道隆臣社長はこう意気込む。
アルツハイマー病の原因物質といわれるアミロイドβ(ベータ)と呼ぶたんぱく質は、軽度の認知障害が出る15〜20年前から脳内でたまり始めるとされる。蓄積して発症の危険が高まると、血液中で特定の物質が増える。この物質を手がかりに、早期診断する技術を開発した。
陽電子放射断層撮影装置(PET)を使えば、アミロイドβの蓄積状況がわかるが、約30万円もかかる。新技術は採血だけで済み、費用も数千円に抑えられる見通しだ。
2015年中にも、約100人分の血液を使って精度を確かめる臨床研究を放射線医学総合研究所などと始める。西道社長は「健康診断などで予備軍を早めに見つけ出せれば、患者の増加を食い止められるのではないか」と話す。
ノーベル化学賞受賞者の島津製作所の田中耕一シニアフェローも、血液中に表れる微量な物質の変化に注目する。国立長寿医療研究センターと組んで、数滴の血液で発症の前兆をとらえる検査法の開発に取り組む。
田中フェローが質量分析の感度を高めた技術を開発し、血液に含まれるアミロイドβに関係する2種類のたんぱく質の比率を分析する。アミロイドβの蓄積の有無を見分ける。こちらも数千円の検査の実現を目指している。
早期診断技術に注目が集まるのは、障害が出る前に診断して対策を講じれば、認知症を発症するリスクを下げられる可能性があるからだ。例えば、病気で脳に体液がたまって発症する認知症は適切な治療で症状が改善して治ることもある。
さらに最近の研究で、発症しても早い段階で適切な治療やケアを受けられれば、患者の症状の悪化を防いで生活の質を保つことができ、家族の介護負担も減らせる可能性が見えてきた。厚生労働省は昨年度、医療や介護などの専門職が約200人の認知症患者の自宅を訪問して支援する研究を実施した。徘徊(はいかい)や妄想といった深刻な症状がほとんど出ずに暮らせる人の割合は6%から30%に増えた。
東京都は認知症の早期の診断や支援に乗り出す。今年度中にも、患者と家族を支援する「認知症疾患医療センター」を53の区市町村に設ける計画だ。取り組みを指揮する東京都健康長寿医療センター研究所の粟田主一研究部長は「早い段階から必要な医療などを提供して支援できれば、患者本人も家族も地域社会との接点を断たれずに暮らせるようになるだろう」と期待する。
認知症患者は世界で4700万人を超えたとみられ、今や「世界共通の課題」(厚労省)となっている。13年に初の「主要国(G8)認知症サミット」が英国で開かれ、各国が研究費を大幅に増やすことで合意した。さらに3月、世界保健機関(WHO)が初めて認知症の国際会合を開き、ケアや予防法などで、各国の連携を呼びかけた。
高齢化の進展で、認知症患者は30年には約7500万人に達する見通しだ。根本的な治療法が開発されていない現状を考えると、予防とケアについて各国が英知を持ち寄る必要がある。
西村絵、新井重徳、草塩拓郎、八木悠介が担当しました。
[日経新聞5月5日朝刊P.9]
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