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夢の肝炎治療薬が医療財政に与える大打撃
C型肝炎治療に必要な金額は15兆円?
2015.4.6(月) 多田 智裕
医療薬剤価格を抑制するための一番重要なポイントとは?(写真はイメージ)
3月26日、厚生労働省はC型肝炎治療薬「ソバルディ錠400mg」の承認を了承しました。これにより、早ければ5月にも日本でこの新しい肝炎治療薬の保険による治療が開始されます。
今回承認された新薬ソバルディは、NS5Bポリメラーゼ阻害効果(HCVがRNAを複製することを阻害し、HCVが増殖できないようにする)をもち、C型肝炎ウイルス「ジェノタイプU」をほぼ100%駆除する完治薬と称すべき治療薬です。
日本で行われた治験データでは、C型肝炎ウイルスの排除率は98%とされています。一般的に治験データは症例の適応をコントロールしていることもあり、その薬剤の最も良いデータが出ます。ですから、98%という確率は広く治療開始後に少し下がる可能性はありますが、それでもこれまでの治療薬のウイルス排除率80%と比べると段違いの効果を発揮することは間違いないでしょう。
米国では1錠が約12万円!
と、ここまでは良い話です。しかし、問題はこの薬剤の価格です。
日本での価格はいまのところ未定ですが、先立って発売された米国での価格は1錠1000ドル(約12万円!)、1回12週間の治療に要する薬剤費がなんと1人8万4000ドル(約1000万円!)になるのです。
今後、秋には日本でも承認されると思われる、より高価なC型肝炎治療薬「ハーボニー」(ソバルディの配合剤、ジェノタイプIbのC型肝炎に有効)もあります。日本における150万人を超えるC型肝炎患者に投与することを考えると、治療費の総額は単純計算で15兆円(1000万円×150万人)にもなります。
もちろん、実際にこの金額になると言いたいわけではありません。しかし、このまま導入が進めば、数年間で数兆円の金額が見込まれ、ジェネリック使用推進などの現在行われている医療費削減の効果などはやすやすと吹き飛ばし、医療財政に大打撃を与えるのは間違いないでしょう。
医療制度は感情が絡む問題ですので、金額の問題を経済学などのように議論するのは不適切なのかもしれません。でも、これほどまでに巨額の金額が発生することが見込まれるのであれば、費用の節約方法をタブー視せずに検討してみてもよいのではないでしょうか?
対応に追われる保険会社
C型肝炎治療薬ソバルディは、2013年末にアメリカで発売されたあと、その効果から当初の予測を大幅に上回って使用され、発売後1年間で10億ドル(1兆2000億円)を売り上げた史上初の薬剤となっています。
この裏で悲鳴をあげているのが医療保険会社です。高額な薬剤費用のため、保険会社の利益が会社によっては数割減るとの推測もなされています。各保険会社はその対策のため、ソバルディの保険での使用を拒否し、他の対抗する肝炎治療薬(アッビーの「ヴィキラ・パック」。こちらは1割程度安い)の使用しか認めないところも出てきているとのことです。
また、保険会社によってはC型感染の進行ですぐに治療が必要な患者と、競合薬(前述のアッビー以外にブリストル・マイヤーズ、メルクの2社が開発中)の発売まで治療を待てる患者を、医師に相談して区別しようとしているそうです。
日本においては、他の薬の使用しか認めないことは、いったん承認されてしまった以上、困難でしょう。でも、治療を今すぐ希望する患者への処方を制限することは、保険収載にあたり、使用制限通達事項を設けることで対応は可能です(例えば、他の肝炎治療薬が無効である患者にしか投与できないようにする、また肝硬変が進んでいるなど早急な治療が必要な患者にしか使用を認めない、など)。今後の詳細決定に注目が集まります。
医療費抑制に多大な効果がある「薬剤価格交渉」
ちなみに欧州では国により異なりますが、ソバルディは約4万1000ユーロ(約600万円)で保険支払いが認められており、アメリカよりも4割近く価格が安くなっています。また、インドやバングラディッシュにおいては、発展途上国価格として1錠10ドル(約1200円)でのジェネリック薬の発売が認められています。
ですから、日本の薬剤価格決定の仕組み(1日分で1万円程度という既存の肝炎治療薬剤の価格に、新規創出分の上乗せ金額を考慮して決定される)を考え合わせると、欧州の価格以下になる可能性が高く、500万円程度、またはそれ以下になる可能性は十分あります。
こう考えると、医薬品の価格交渉権が医療費に多大な影響を与えるのがご理解いただけるかと思います。
以前の繰り返しになりますが、医療薬剤価格を抑制するのに一番重要なポイントは、決してジェネリックの使用推進ではなく、医薬品の価格の交渉力(ジェネリック医薬品の価格も含めて)なのです。
5月末に行われるソバルディの日本での保険薬価収載価格がいくらになるのか非常に興味深いところです。
「夢の治療薬」と「夢のような状態」に潜む現実
いろいろと述べてきましたが、患者さんにとっては、C型肝炎治療は医療費助成の対象ですので(自己負担上限が月額1万円ないしは2万円)、薬剤価格が500万円であろうが1000万円であろうが大きな影響はほとんどありません。
ですから、5月にこの新薬の保険収載が正式決定された暁には、大手メディアはおそらく薬剤の良い点ばかりを取り上げて報道することでしょう。
次々に新しい薬が発売される中、懐の具合を気にして古い薬を選択する必要がなく、新薬の価格を気にせず使用できる日本の環境は、ある意味、夢のような状態と言っていいかもしれません。
しかし、その裏には、その夢のような状況をぶちこわしかねない薬剤価格の高騰が存在していること。そして、それを抑えるべく、厳しい交渉を日夜繰り広げている人たちがいるということ。そんなことに少しでも思いを馳せてほしいと私は思うのです
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43397
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