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体のあちこちにこぶ IgG4関連疾患 がんと混同、治療に遅れ
免疫の暴走原因 詳しい医師の診察必要
「IgG4関連疾患」は膵臓(すいぞう)や目など体のあちこちにこぶができて炎症が起こる病気だ。従来、無関係と思われていた病気で、免疫グロブリン(Ig)というたんぱく質の値が高いという共通点が見つかり、一つのグループにまとめられた。症状によってはがんと間違われるケースもあるため、詳しい医師の診察を受けて識別することが大切だと専門家は訴えている。
IgG4関連疾患は病原体などから身を守る免疫システムが暴走し、自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種だ。膵臓や肝臓、肺、目、唾液腺、腎臓などにこぶができる。膵臓にできると肌が黄色くなる黄疸(おうだん)が現れる。目では涙の量が足りなくなるドライアイ、唾液腺では唾液の分泌量が減り口の渇きを感じるドライマウスなどの症状が出る。
共通点の報告
こうした症状の患者は以前から知られており、別々の病気と考えられていた。20年近く前から、いくつか種類がある免疫グロブリンの中でもIgG4というタイプの値が血液やこぶで高くなっているという共通点が報告され始めた。そこで日本の複数の研究チームが、病気を一つのグループにまとめられると世界に提案してきた。
その結果、IgG4関連疾患という考えが定着し、医師の間でも徐々に認知度が上がってきた。研究の先駆けである東京都立駒込病院消化器内科の神沢輝実部長は「最近は国際会議も頻繁に開かれるようになった」と話す。間質性腎炎、間質性肺炎などのごく一部に、IgG4関連疾患が存在すると分かってきた。
国内でも厚生労働省の研究班が発足。研究班の2008年の調査では、発症患者の平均年齢は62歳で、全国に約2万6000人の患者がいると推定された。「病気の概念が知られるようになった今では、さらに増えているだろう」(神沢部長)
IgG4の増加で起こる「自己免疫性膵炎」は、高齢の男性の患者が多く、男性が女性の3倍かかりやすいことなども分かってきた。ただ予防法はなく、発症しやすさの違いがどこから来るのか、どんな仕組みで発症するのかなどよくわかっていない点も多い。このため厚労省研究班の代表を務める京都大学の千葉勉教授らは、患者約900人の遺伝子を調べ、原因や発症メカニズムを探っている。
IgG4関連疾患は診断がつくまで時間がかかることもある。典型例はこんな感じだという。60代男性が突然、首もとの唾液腺が腫れた。近くのクリニックを受診したところ、こぶが見つかり、がんが疑われた。切除したが組織を調べてもがん細胞は含まれておらず、男性は安堵した。
そのまま数年が過ぎ、今度は尿の色が濃くなった。さらに「黄疸が出ている」と周囲にいわれて男性は病院を受診、超音波やコンピューター断層撮影装置(CT)で検査すると膵臓に腫瘍ができていた。血液検査でIgG4の値が多いことも分かり、患部を一部切り取って顕微鏡で調べるなどした結果、IgG4関連疾患だと判明した。
患者によっては唾液腺の次に膵臓、続いて肝臓といった具合に、いくつもの臓器にこぶが順番にできる例もある。
こぶが体のあちらこちらにできるのは、がんに似ている。かつては膵臓がんと思って手術をしたら膵臓の炎症だったという場合もあったという。認知度が上がった今ではこうした例は減ったが、「詳しい医師がいない病院もある。間違える可能性は残っている」と千葉教授は指摘する。
神沢部長も「膵臓にこぶができた患者の血液検査で、がんの腫瘍マーカーの値が上がることもある」と識別の難しさを話す。がん患者がIgG4関連疾患を発症する場合もあるという。
薬やめると再発
IgG4関連疾患の治療は、炎症を抑えるステロイドの飲み薬を使う。大半の患者は、初めは多く服用し、半年かけて徐々に投与量を減らしていくと症状が治まる。ただ、この方法では完全に治らない人も多い。千葉教授は「症状がいったんよくなっても、薬をやめると3〜5割の人で再発してしまう」と指摘する。
ステロイドは感染症にかかりやすくなるなどの副作用の心配もある。ステロイドでうまく治らない患者向けに、厚労省研究班は米国と協力し、悪性リンパ腫の治療薬「リツキサン」の効果を確かめる臨床試験(治験)も計画している。
この病気をがんと間違えて手術すると、臓器などが傷ついてしまうが、逆の場合も注意が必要だ。がんにはステロイドが効かないため、がんによってできたこぶは小さくならず、成長してしまう。
このため、厚労省研究班がIgG4関連疾患全体の診断基準を11年につくった。一つまたは複数の臓器で腫れた部分がある、血液中のIgG4値が一定以上などを判断材料にして診断する。「医師も患者も正しい知識を得ることが最も大切だ」と専門家は口をそろえている。
(岩井淳哉)
[日経新聞3月20日夕刊P.7]
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