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「化学」とのコラボで、がん種に応じた放射線療法へ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150315-00014743-president-bus_all
プレジデント 3月15日(日)14時15分配信
京都大学 名誉教授 小野公二氏
がんは不治の病ではない。研究の現場を訪ね歩くと、そう感じる。アプローチは1つではない。治療法はあらゆる角度から進化している。研究者たちのほとばしる熱意を感じてほしい──。
放射線療法の課題は「いかに正常組織を傷つけず、がん細胞に線量を集めるか」につきる。
局所固形がんに保険適用を持つ放射線療法では「IMRT(強度変調放射線療法)」が実績を持つ。多方向から放射線を当て、がん塊で最も多く重なるように照射する原理は3D照射や定位照射(リニアック)と同じ。しかし、IMRTは一方向からの照射範囲の中にさらに放射線の「強弱」をつけ、がん塊のデコボコにあわせた照射を可能にしている。
IMRTの「縦・横・斜め」三次元照射に「時間軸」を加えた四次元照射をリードするのは、京都大学の平岡真寛教授のグループと三菱重工が共同開発した「動体追尾放射線治療システム」だ。治療中の呼吸運動で動いてしまう肺がんや肝臓がんの動きを「追尾」して放射線を当てる方法で、がん塊に集中攻撃できる一方で、正常組織を傷つける確率はさらに低下する。
すでに肺がんと肝臓がんの治療が始まっており、京都大学附属病院や国内の一部病院で受けられる。IMRTの一種なので、放射線治療部分には保険が適用され、自己負担は数万円程度だ。治療装置の「Vero 4DRT」は日米欧の薬事承認を取得し、海外でも稼働中。次のターゲットは難治がんの代表、膵臓がんだ。
京都大学原子炉実験所(大阪府・熊取町)にある世界で唯一の病院設置型加速器によるホウ素中性子捕捉療法システム。
■中性子線を使い、進行がんに効果
さらに次世代の放射線療法としては「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」への注目が集まっている。現在、京都大学原子炉実験所・附属粒子線腫瘍学研究センターにおいて、世界で唯一の病院設置型加速器を使った第I相の臨床試験が行われている。(※2013年取材時)
BNCTが利用するのは中性子線自体の破壊力ではない。BNCTを受けるがん患者は「BPA」というホウ素化合物を点滴で注入する。BPAはタンパク質を構成するアミノ酸の一種とホウ素の化合物で、がん細胞が取り込みやすい性質がある。そのうえで正常細胞に影響しない程度の線量で照射する。
がん細胞に集まったホウ素化合物に中性子が衝突した瞬間、核分裂が起こりアルファ粒子とリチウム原子核が飛び出す。その飛距離はおよそ10μメートル。ちょうど「がん細胞1個分の大きさ」なのだ。周辺への影響はごく軽度で、ごく短い飛距離に全エネルギーが集中されるため、殺細胞力は重粒子線を凌駕する。
また、理論上は画像で検出されたがん塊だけでなく、BPAを取り込んだ微細ながん細胞巣も破壊される。これまでの放射線療法が苦手としてきた進行がんの治療のほか、再発・転移予防も期待できる。ちなみに照射回数は1回、30〜40分ほどで、従来の放射線療法とは異なり1日1回照射で治療が完了する。今後は患者の負担を減らすために、照射時間の短縮や2回照射法も検討していく予定だ。
2012年9月、同センターは加速器を開発した住友重機械工業とホウ素化合物を提供するステラケミファと共同で臨床試験を開始。対象症例は悪性神経膠腫で5年以内の承認を目指す。その後、再発頭頸部がん、悪性中皮腫への適用拡大を狙う。
なお費用は「私個人の考えだが、重粒子線より抑えられるだろうと思っている」(小野氏)。重粒子線治療の自己負担額は約300万円。照射施設の維持費等から推測すると、BNCTでは半額程度になると思われる。
BNCTと従来法との大きな違いは、ホウ素を介することで、がん細胞の選択的な照射が可能な点だ。BPAはいわば汎用型だが、現在、さらに高濃度のホウ素をデリバリーするタイプや抗がん剤を一緒に運ぶハイブリッド型の研究が進んでいる。将来は、がん種で化合物を使い分ける時代が来るだろう。
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京都大学 名誉教授 小野公二
1974年、京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院助手、カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員、京都大学医学部講師を経て、1991年から2013年3月まで京都大学教授。京都大学原子炉実験所・附属粒子線腫瘍学研究センター長、日本放射線腫瘍学会会長などを歴任。13年4月より現職。
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医学ライター 井手ゆきえ=文 森本真哉=撮影
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