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妊娠率上げる凍結技術
不妊治療、胚の解析も進化
不妊治療大国と呼ばれる日本。体外受精などを受ける人は急増しているが、妊娠に至る割合は30%台半ばをなかなか超えられない。この壁を技術の力で乗り越えようと、受精卵の凍結保存や融解の方法の改善、着床効率を高める工夫などが進む。受精卵が胚に育つ過程を画像解析で詳しく調べ、その質を確かめる新手法も注目される。
体外受精では、女性の卵子を取り出し受精させた受精卵を培養して胚に育て子宮に入れる。日本産科婦人科学会(日産婦)は複数の胚が得られても、母子の安全を考えて子宮に移植するのは原則1個にすべきだとの見解を示している。残りは凍結保存し、必要な時に解かして使う場合が多い。
日産婦の調査では、凍結胚を解かして子宮に戻す場合の方が、そうでない新鮮胚に比べ妊娠する率が高い。2012年の最新データで凍結胚を移植した場合の妊娠率は33.7%で、新鮮胚より約13ポイント高かった。
国立成育医療研究センターの斉藤英和不妊診療科医長は、凍結胚だとよい胚を選び自然に近いホルモン状態の時に子宮に移植できるのが一因とみる。凍結で胚が損傷する恐れはほとんどないとされる
日本でもっともよく使う凍結技術はガラス化法で、胚をセ氏零下196度の液体窒素で瞬時に冷却する。融解の際も一気に室温に戻す。細胞を壊す原因になる氷の結晶の成長を防げる。
広島HARTクリニックの向田哲規院長によると、受精卵を胚盤胞まで育てて凍結した場合、不凍液が胚盤胞を包む透明帯を硬化させ着床しづらくなる。そこで、融解後に赤外線レーザーで微小な穴を開けてから子宮に戻し中身が出やすくする。この方法で00〜13年の胚盤胞移植8347件中、約47%が妊娠した。
受精卵以上にデリケートな卵子をガラス化法で凍結保存する試みも始まっている。細胞内の水分を抜き、内部の不凍液の濃度を30%程度に調整してから凍結する。リプロサポートメディカルリサーチセンター(東京・新宿、桑山正成社長)が専用キットを製品化した。悪性腫瘍の治療前に採取した卵子を12年間凍結保存した後、解かして受精させ子宮に入れた30歳の女性が昨年8月に無事出産した。
卵子や胚の解析技術も進化する。大阪大学の山縣一夫特任准教授は生きた胚の質を、高精細な画像解析で定量的に調べる手法を開発した。胚に目印たんぱく質を作るRNAを注射し、培養しながら特殊なレーザー顕微鏡で厚さ2マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルごとに細かく観察する。胚を傷めることなく染色体の複製異常などを検出できる。
マウスの胚を約70時間連続観察した後、雌の子宮に入れたところ無事に出産できた。卵子を得る際に卵巣刺激を実施したかどうかは、受精後に胚に育てる時の染色体の複製に影響しなかった。学内や不妊治療のクリニックの倫理審査を経て人の胚を数日間連続で画像化するのにも成功した。
HORACグランフロント大阪クリニックの森本義晴院長はこの画像解析装置を使い、細胞内でエネルギー生産を担うミトコンドリアの機能と胚の育ち方との関係を調べている。本人の体の細胞から得たミトコンドリアを卵子に注入し、不妊治療の成績を上げられないか研究中だ。
日本では規制されているが、不妊治療は将来「iPS細胞から卵子を作り受精させる方法にたどり着く」と同院長は予想する。
不妊治療で妊娠しても必ず出産するわけではない。自然妊娠と比べて特に起きやすいわけではないが、流産や出産時の異常などがあり得る。凍結などの影響も解明しきれていない。
日産婦の調査・分析データからは新生児の体重は新鮮胚に比べ、凍結胚の方が重くなる傾向がわかってきた。39週で生まれた場合、90グラムほど重い。卵巣刺激やホルモン療法の影響が何らかの形で出ている可能性があるが、メカニズムはわかっていない。成長への影響も今後の研究課題だ。
国立成育医療研究センターの斉藤医長は「不妊治療はまだまだ安全性の検証が必要。できればそれに頼らず、若いうちに妊娠出産を考えてほしい」と呼びかけている。
(編集委員 安藤淳)
[日経新聞1月18日朝刊P.15]
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