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【がん治療 最前線】「胃がん」「白血病」「肝臓がん」「肺がん」など 根治が見えてきた女王蜂「がん幹細胞」の新しい叩き方〈週刊新潮〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141114-00010005-shincho-soci
BOOKS&NEWS 矢来町ぐるり 11月14日(金)16時0分配信
分泌液が樹脂状に固まり、幾何学模様を呈した薄暗い巣。その中で怪物は、シルバーメタリックの巨大な卵嚢から、粘液にまみれた卵を次々と産み落とす。映画『エイリアン』シリーズで描かれたエイリアン・クイーンの産卵シーンである。この怪物同様、人類の難敵、がんも、最新研究で女王蜂の如き「がん幹細胞」から生まれていることが分かってきた。この親玉を叩ければ、がん根治が見えてくる。
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「そんなバカな……。“ショック”と“信じられない”という思い」
今年3月、喉頭がんを公表した音楽プロデューサーのつんく♂(46)は、抗がん剤治療などにより、がん細胞が観察されなくなる「完全寛解」と診断された。しかし、である。10月に入り、がんの再発が判明。急遽、手術を行った。その際、発表されたのが先のコメントで、本人が受けた衝撃の大きさが窺えよう。
つんく♂のように、抗がん剤などでがんが完治したかに見えた患者が、5年以内に再発するケースは少なくない。何故なのか。
これまで、がんは正常な細胞の遺伝子が傷つき、そのがん細胞が分裂して増えることで、がんの塊=腫瘍ができると考えられてきた。
「しかし最新の知見で、がんには2種類の細胞があることが分かってきた。一つは普通のがん細胞。そしてもう一つは、がん細胞を生み出すがん幹細胞です」
と、九州大学生体防御医学研究所の中山敬一教授。
「がん細胞は増殖しますが、親玉のがん幹細胞はほとんど眠ったままで増えない。一方、抗がん剤は、がん細胞が分裂する際、不安定になる隙を狙い撃ちするので、“よく増える細胞”の退治には強い効果を発揮する。しかし増殖しないがん幹細胞には効きません。抗がん剤で一過的に“がんが消えて治った”と思っても、がん幹細胞は生き残っているので、それが再び動き出して新たながん細胞を生めば、再発・転移につながってしまう。本当に叩くべき真の敵は、女王蜂のがん幹細胞で、それができない限り、がんの根治はないのです」
■逆転の発想
ヒトのがん幹細胞が世界で初めて発見されたのは97年。白血病のがん細胞の中から見つかった。その後、消化器がんでも発見されているが、数が極めて少なく、がん細胞の塊の中に含まれる割合は1%以下とされる。
「私たちは、眠っているがん幹細胞を起こし、増殖を促す研究を行っています。一般の方は危険だと思いがちですが、“増える”ことで抗がん剤が効く状態にする、逆転の発想です」(同)
中山氏らは白血病マウスで実験。細胞分裂の抑制には「Fdw7」等の2つの遺伝子が関わっており、実験前に遺伝子に細工し、特殊薬剤でこれらを破壊する。
「そのうえで抗がん剤を投与しました。すると、抗がん剤投与だけのマウスでは100%近く白血病が再発したのに、がん幹細胞の分裂を促したマウスは、ほぼ100%完治した。人間でも、2つの遺伝子の機能をブロックする薬が見つかれば、同じ効果が期待できる。それを目下、懸命に探しているところです」(同)
一方、がん幹細胞を標的にした治療法で、すでに臨床試験の段階まで進展しているものがある。慶大先端医科学研究所の佐谷秀行教授の主導の下、国立がん研究センター東病院で行われている胃がんの治験だ。佐谷教授の解説。
「がん幹細胞はがん治療に強い抵抗性を持っている。その理由を探り解析を続けた結果、がん幹細胞にはCD44vという分子があり、栄養の取り口となるポンプを活性化させることを突き止めました。このポンプはシスチンというアミノ酸を細胞内に取り込む輸送体の働きを果たす。これにより、がん幹細胞は強力な抵抗性を身につけていたのです」
そこでCD44vを持つがん幹細胞であれば、このポンプを薬剤で塞ぎ、治療できると佐谷教授は考えた。数千もの薬を試したという。
「その結果、ついにポンプにフタをする薬が見つかったのです。それは意外な薬でした。スルファサラジンという、すでに認可されたリウマチの薬だったのです」
マウス実験で劇的な効果を確認した後、胃がん患者を対象に治験が進んでいる。
「人間でもがん幹細胞が減少している症例があった。現在、安全性と効能を確認する第I相の臨床試験が終了したところです。目下、患者数を増やして行う次の段階の臨床試験の準備を進めています」
ちなみに阪大では肝臓がんで臨床研究を実施中。来年は九大病院で、肺がんを対象にした臨床試験もスタートする。むろん欧米でも激しい治験競争が展開されている。人類は確実にがんの正体を捉え、根治・撲滅への鍵を握ったと言えよう。
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