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「ボケた!」と思っても5割は別の病気---年間2万人が訪れるERを率いる医師が教える 医師でも間違える病気・ケガ・薬の新常識(2)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40482
2014年09月30日(火) 林 寛之 現代ビジネス
家族の方が急に台所で放尿したり、同じことを何度も言ってつじつまが合わない会話になったりすると、つい「ボケたかな?」と思うでしょう。
認知症はゆっくりゆっくり進行していき、なかなか気づかれないことも多い疾患です。ところが実は治しうる疾患や命に関わる病気が隠れていたのに、認知症と勘違いすると取り返しがつかないことになってしまいます。
何らかの病気のせいで意識障害や精神症状がでているものを「せん妄」といいます。
多くの精神疾患は若年発症であり、40歳以上で初めての精神症状が急に出た場合は、まずは治しうる病気、つまりせん妄から考えるようにしましょう。
急性の精神症状はあわてる必要がありますが、慢性の場合は通常の内科にまずかかればいいでしょう。
脳の特定の血管が詰まってしまう脳梗塞の場合は、言葉を発するのが難しくなり、会話がうまくかみあわなくなり、「ボケた?」と勘違いされます。低血糖の場合、多くは意識低下を来しますが、約3割は怒りっぽくなります。特に糖尿病治療中の人やアルコールをたくさん飲む人は低血糖になりやすいので注意が必要です。
ここ1〜3ヶ月以内に頭をぶつけた場合も要注意です。慢性硬膜下血腫といい、じっくりと時間をかけて頭の中に血液が溜まってゆっくり脳を圧迫してくる病気です。事故後すぐに頭部CTをしても決して見つかりません。それくらいゆっくり血液がじわじわ溜まってくるのです。慢性硬膜下血腫の半数は精神症状を訴えてくるのです。
「先生、わしなんか変なんだよ、アッハッハ」と笑って同じ言葉を連発された方が、頭部CTで慢性硬膜下血腫と判明し、緊急手術になったことがあります。2か月前車ごと田んぼにはまったという事故に遭っていましたが、その日の頭部CT検査はまったくの正常でした。
慢性硬膜下血腫の多くはお酒のみのおじさんと相場が決まっています。お酒ばかり飲むと脳が縮んでしまい、脳と頭蓋骨の間に隙間ができてしまうため、そこにある静脈(橋静脈)が突っ張っている状態になるのです。だからちょっと頭をぶつけただけでも、細い静脈がひっぱられてプチッと破れて、ゆっくりじわじわ出血して、溜まってくるまで相当時間がかかってしまうので発見が遅れるのです。
高齢者は感染症でも精神症状が出やすく、脳の感染症である必要はありません。肺炎、尿路感染、胆道感染、ただの風邪でも精神症状がでることがあります。
また薬剤の副作用が、意識状態や精神症状にでることがあり、7剤以上の薬を飲んでいる人はリスクが高くなってしまいます。特に高齢者では皮膚が乾燥してかゆくなるからと言って抗ヒスタミン薬を漫然と飲んでいる場合があり注意が必要です。
比較的ゆっくりした発症であっても甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症では活動性が低下して「ボケた?」と間違われやすく、はたまた老年うつ病を認知症と誤診してしまうとせっかくの治療の機会を失いかねません。
せん妄で最も頻度が高いのは感染症と薬剤の副作用ですが、その他随分多くの疾患がせん妄を来しうるので、医者としてもなかなか原因を探し出すのが難しいこともあるというのが本音です。
以下のような、せん妄の特徴を知っておくと早期受診につながるでしょう。
(1)急性発症であり、いつからおかしくなったかが大体わかる
(2)1日のうちでも意識状態が変動してしまう。狐につままれたように、急によくなったかと思ったらまた悪くなって、状態が変動するのがせん妄の特徴です。認知症では常に一定なのでこの点は大きく違いますね。
(3)注意力が散漫になってしまい、ついさっきやったことを忘れる。古い記憶は保たれるので、名前や生年月日、住所は言えますが、今朝食べたものなどは忘れてしまいます。3つのもの(時計、桜、りんごなど)を覚えてもらい、5分後にはもう覚えていません。
(4)支離滅裂思考になってしまうため、「石は水に浮くよね」というと「ウン」と答えるようになります。「豆腐で釘が打てますか」と聞いても「ウン」と答えてしまいます。
(5)意識障害を伴うことも多く、むしろ意識が完全にないというのではなく、うつらうつらとしてしまう、同じことを繰り返して言う、名前や日付が言えないなどという状態になります。
これらの症状が急性に出た場合は医者を受診してください。なんでもかんでも「ボケた?」なんて思うと、取り返しがつかないですよ。
『年間2万人が訪れるER(救急)医が教える 医者でも間違える病気・ケガ・薬の新常識』より
林 寛之(はやし・ひろゆき)
福井大学医学部附属病院総合診療部教授。
1986年自治医科大学卒業。トロント総合病院救急部での臨床研修、僻地医療を経て、福井県立病院救命救急センター勤務後、2011年4月より現職。
年間2万人が訪れる救急医療チームの責任者として、福井県のたらい回しゼロに大きく貢献する。「家庭を大事にできないと、患者さんを大事にできない」がモットーで、過去に3ヶ月の育児休暇を取った経験がある。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』『総合診療医ドクターG』(いずれも、NHK)など、メディア出演多数。また、救急救命のスペシャリスト・研修医の指導医として、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地の病院や医療施設で医師や研修医向けの講演や研修会を多数行っている。
著書に、医学雑誌の大人気連載を書籍化した「Step Beyond Resident」シリーズ(羊土社)、多くの医師がお世話になっている『研修医当直御法度』(共著/三輪書店)など、医師向けのベストセラーを多数出版しているが、一般向けの書籍は本書が初めてとなる。
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