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医者もなかなか分からない心筋梗塞---年間2万人が訪れるERを率いる医師が教える 医師でも間違える病気・ケガ・薬の新常識(1)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40478
2014年09月28日(日) 林 寛之 現代ビジネス
■「心筋梗塞=胸が痛い」とは限らない
「心筋梗塞は死ぬ程胸が痛くてつらいんでしょ?」と思っているとそれは間違い。
典型的な心筋梗塞はタバコを吸う中年男性で、手のひらや握りこぶしのサイズで胸の圧迫感がでます。心筋梗塞の痛みは、叩かれたり刺されたりするような鋭い痛みというより、鈍い痛みで圧迫感や喉が詰まった感じ、象が胸にのっかった感じと表現されます。
中には昼食べた鶏肉が胸につっかえていると訴えて冷や汗流して来院した心筋梗塞の患者さんがいらっしゃいました。お昼に食べたものが夜になって逆流してきたというのですから、素人解釈がいかに危ないかがわかります。
ただこんなにわかりやすいものなら医者なら誰も見逃したりはしません。典型的心筋梗塞なんて心筋梗塞全体の1/4くらいしかないのです。
実は、非典型的心筋梗塞が全体の6〜52%を占めるといいます。特に女性の心筋梗塞は医者でも見逃しやすいです。なんと女性の心筋梗塞の43%は胸痛を訴えないから医者泣かせなのです。
(1)胸以外が痛いという落とし穴……放散痛に騙されるな!
心筋梗塞の痛みは必ずしも胸が痛くなるとは限らないから厄介です。放散痛と言い、胃や肩、腕、喉、背中、時には歯が痛いという人までいます。
「Dr・林の30cmの法則」といい、心臓を中心に半径30cmの範囲で痛みがあり、冷や汗が出ている場合は心筋梗塞も考えないといけません。冷や汗は体が戦闘態勢に入っているという証拠であり、危険な徴候なのです。
特に、胃が痛いと訴え、嘔吐している場合は、やはり胃の病気が多いのですが、それでも冷や汗を伴う場合は、心筋梗塞を思いつくかどうかが運命の分かれ道です。安易に胃カメラをすればいいと考えずに救急病院に走ってください。
心臓の痛みなのに肩や腕が痛くなることがあります。特に両肩や両腕が重くてだるい、痛くてたまらないと思ったら要注意です。心臓は左にあると思っている人が多いですが、心臓は胸の中央にあり、心臓の先(心尖部といいます)が左に伸びているだけです。この心臓の痛みはむしろ右肩や右腕に出ることの方が多いので、左肩や左腕の痛みじゃないから大丈夫と思ってはいけません。
凍結肩(五十肩)なら痛みのせいで肩を挙げることもできませんが、心筋梗塞はスムーズに肩を挙げることができます。
(2)痛みはないという落とし穴
痛みを訴えない心筋梗塞があり、その場合は、嘔気・嘔吐、全身倦怠、息切れなどを訴えます。糖尿病を長く患うと神経が鈍感になるため心筋梗塞になっても痛みがわからないことがあり、ひたすらだるくてダメと訴えることがあります。だから医者は糖尿病の患者さんがだるいというと心電図をとることがあります。
救急を生業にしている私であっても、高齢女性で糖尿病患者さんの場合は何度も見逃しそうになって痛い目に会いました。
厄介なことに痛みを訴えない心筋梗塞の1/3にしか糖尿病がないので、むしろ糖尿病を持っていない人であっても、急性に全身倦怠感を訴える場合は、念のために心電図をとっておく必要があります。慢性的に疲れがたまっている場合は話が別なので、大騒ぎする必要はありません。
85歳以上の高齢者の場合はむしろ胸の痛みではなく「息切れ」を訴えることが最も多いのです。
困ったことに自己診断で「風邪ひいた」と言われて来院される方がいらっしゃいます。心筋梗塞にでもなれば微熱になることもあり、自分で「わしゃ、平熱は35℃じゃ。だから37℃もあったら風邪ひいてちょっと歩いてもしんどい」と言います。
もちろん、これは心不全による息切れですが、医者に「風邪」という自己診断の先入観を植え付けてしまうと、誤診につながってしまうのです。患者の声に耳を傾けたせいで見逃してしまうということがあるのです。
■多くの心筋梗塞は医者もすぐにはわからない
心筋梗塞という病気は実は医者も何度も痛い目に遭いながら、医療の限界と日々戦っている疾患です。
一番の決め手になる心電図ですが、「心電図さえとれば心筋梗塞くらいわかるだろう?」というとそうでもありません。
最初の心電図で異常が出るのは、心筋梗塞全体の13〜69%しかありません。最終的に心筋梗塞と診断するには時間をかけて心電図変化を追いかけないと、または昔の心電図と比較しないとなかなかわからないことがあるのです。ですから、初めての医療機関にかかるより、かかりつけの医者に行って昔の心電図と比較できる方が得なのです。
高血圧や脂質代謝異常、糖尿病でかかりつけ医がいれば、元気な時の心電図をとっておく方が得策です。救急で時間経過を追いかけるのであれば、8〜12時間まで追いかけてもわからないことがあります。
心筋梗塞で心筋が壊れた時にでてくる心筋酵素を調べる血液検査も一発診断はできません。心筋梗塞であっても半数しか血液検査はひっかかってこないからです。
特に、症状が出て最初の1時間以内に医療機関を受診した場合、血液検査のひっかかる確率はたったの10〜45%です。発症から8時間以上経過すると初めてこの検査は90%以上が引っかかってくれます。つまり血液検査が正常でもそう簡単に患者さんを家に帰すわけにはいかないのです。
3〜4時間後にもう一度採血と心電図を再度検査すると心筋梗塞の約96%を見つけることができ、8〜12時間後に採血と心電図を再検すると約98%の心筋梗塞を見つけることができると言います。この残りの2%は医療の限界への挑戦です。どんな優秀な医者でも難しいものです。
うるさくて眠れない救急室にずっとひきとめられて、患者さんにとっては早く帰宅したい気持ちがあるでしょうが、医者も時間をかけて調べてみないとなかなかすっきりしないのです。
「どうせすぐに帰宅できないのなら、早く入院させてほしい」という患者さんがいらっしゃいますが、医者の目の届かない病室に入ってしまえば安心と言うわけではなく、急変した時に対応できる場所を確保できない場合は、むしろ入院より、すぐに当直医がかけつけられる外来で様子を見る方が安全なものなのです。
心エコーや心臓CTというハイカラな検査もありますが、それも100%見つけられる検査ではなく、心エコーは医者の腕に左右されますし、心臓CTは結構被ばくするので本当に必要な時に受ける検査であり、動脈硬化が強ければ役に立たない検査なのです。
迷ったら心臓の栄養血管である冠動脈が詰まっているかどうか(詰まっていたら心筋梗塞)を調べる検査である心臓カテーテル検査をすればいいかというと、これも侵襲的な検査なので合併症がゼロというわけにはいきません。それなりのリスクを覚悟して受けないといけない検査です。危険さと有益さを天秤にかけないといけません。
最初に見る医者ほど診断が難しいのが心筋梗塞の診断としては当たり前なのです。「最初に受診した医者が見逃した」というのは簡単ですが、実は後で診る医者の方が有利なのは医者の世界では当たり前で、これを「後医は名医」と皮肉って言います。
いわゆる後出しじゃんけん的要素があるので、前医を批判する医者は信頼できないのです。臨床の不確かさや難しさを知らない医者程、自分の方が賢いと見せつけたがるのです。
医者も単純に時間をかけさえすればいいのではなく、あくまでも患者さんのリスクを評価してどうしていくか決めていきます。
喫煙、高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、家族歴、狭心症や心筋梗塞の既往歴など、特に喫煙はリスクが高いため、たばこを吸う人はいざ胸痛が出た場合は、医者はそうそう帰宅させないのです。やっぱり喫煙はやめた方が200%いいのです。
『年間2万人が訪れるER(救急)医が教える 医者でも間違える病気・ケガ・薬の新常識』より
林 寛之(はやし・ひろゆき)
福井大学医学部附属病院総合診療部教授。
1986年自治医科大学卒業。トロント総合病院救急部での臨床研修、僻地医療を経て、福井県立病院救命救急センター勤務後、2011年4月より現職。
年間2万人が訪れる救急医療チームの責任者として、福井県のたらい回しゼロに大きく貢献する。「家庭を大事にできないと、患者さんを大事にできない」がモットーで、過去に3ヶ月の育児休暇を取った経験がある。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』『総合診療医ドクターG』(いずれも、NHK)など、メディア出演多数。また、救急救命のスペシャリスト・研修医の指導医として、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地の病院や医療施設で医師や研修医向けの講演や研修会を多数行っている。
著書に、医学雑誌の大人気連載を書籍化した「Step Beyond Resident」シリーズ(羊土社)、多くの医師がお世話になっている『研修医当直御法度』(共著/三輪書店)など、医師向けのベストセラーを多数出版しているが、一般向けの書籍は本書が初めてとなる。
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