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お菓子を食べはじめたら、途中でやめられなくなり、気づいたら一袋を一気に食べてしまった──。そうした経験は誰にでもあるだろう。実は、加工食品のグローバル企業は、消費者が自社の食品を買い続けるよう、さまざまな罠(トラップ)を製品に仕掛けているという。『ニューヨーク・タイムズ』紙記者のマイケル・モス氏は、近著『フードトラップ』で、長期的には健康をむしばむ可能性があることを承知で、消費者をひっかける製品を次々と世に送り出す加工食品業界の実態を暴いた。著書の舞台は米国だが、登場するのは世界を市場にしている企業ばかり。当然、日本も無関係ではいられない。2010年に食肉汚染報道でピュリッツアー賞した敏腕記者モス氏が、無防備に加工食品を利用する消費者に警鐘を鳴らす。
『フードトラップ』は大手食品企業の陰謀を臭わせる場面から始まる。しかし、調査を進めるにつれて、私は大手加工食品メーカーによる陰謀を感じることが少なくなった。個々の企業は、可能な限り魅力的な商品を作って売ることを目指しており、そのために各社各様の強力なモチベーションを持っている。
新製品開発で業界の伝説的存在となっている科学者、ハワード・モスコウィッツ。彼は、炭酸飲料「ドクターペッパー」の新フレーバー開発の過程を詳しく話してくれた。原料配合がわずかずつ異なる何十ものサンプルを用意し、消費者を集めて試飲会を繰り返し、高等数学を駆使して、完璧な糖分量を見つけ出す。そのポイントにぴたりと合わせて製造すれば、飛ぶように売れる――彼はそれを「至福ポイント」と名付けた。
私は、本書執筆のための調査中に、機密扱いのさまざまな業界記録を入手した。そこには、食品メーカーが綿密な計算のうえで原材料に塩分、糖分、脂肪分を使いこなしている様子がありありと示されていた。
■脳がカロリーを感じにくい奇跡のスナック菓子
ポテトチップなど塩味の利いたスナック類では、使われる用語までもが華々しく、また意味深長だ。ある科学者は、パフ状のコーンスナック「チートス」を「奇跡的な創造物」と評した。欲しくてたまらなくなるような特徴を何十も備えていて、そのひとつが「カロリー密度消失」という現象だという。チートスは口の中で溶ける。すると脳はカロリーが消え失せたと勘違いしてしまい、「おいマイケル、そろそろ食べすぎだよ」という信号を発しない。
こうした科学者たちは、加工食品に対する消費者の依存が高まってしまったことに対して、何らかの遺憾の念を表明した。この点では、業界側の言い分にも一理ある。1980年代以降、いつ、どこで、何を食べてもよいという風潮が、「一夜にして」と言えるほどのスピードで広まった。人々の気軽なスナック習慣は、大手食品企業にとって願ったりかなったりだった。
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加工食品の商品開発に携わった研究者の中で私が最も心を動かされた人物は、おそらくロバート・リンだろう。1980年代、スナックメーカー大手フリトレーの研究者として輝かしい実績を残した人物である。塩分には依存性があると考え、現在は低塩分食を心がけている。その彼が、商品開発における塩分依存の状況を変えるためにもっとできることがあったはずだと悔いている。「人々にほんとうに申し訳なく思っている」と彼は私に言った。
塩分・糖分・脂肪分に対する加工食品業界の依存度を下げるにはどうすればよいのか。その方法を見つけだすことによって、健康的な食品を求める消費者の声に対応できるよう、彼らはかつて勤めた企業に働きかけている。
連邦政府職員をはじめ、食品政策の見直しに取り組む人々もいる。彼らの支持を集めつつある一つの案は、加工食品に流れている莫大な補助金を新鮮な野菜や果物に振り向けるというものだ。果物や野菜はクッキーやチップスより値段が高い。自分と家族の健康のために良い食生活を送ろうとすれば、高い値段を払って食品を買わなくてはならない。
■最終的な選択権はわれわれの手にある
私が最近、強く思うのは、高校の家庭科の授業を立て直してはどうか、ということだ。つまり高校生たちが、買い物や料理のしかたを学び、健康的な食生活を身に付けられるような授業を行ったらどうだろうか。
『フードトラップ』では、よりよい食品を求める消費者、食品企業に対して高収益を求めるウォール街、消費者にも株主にも喜んでほしいと願う食品企業という、三者の衝突を描いた。戦闘の犠牲になっている人々がいる。解決を急がなくてはならない。医学研究者たちが特に危機感を抱いているのは、肥満年齢が下がっていることだ。10代にして、まるで40代のような動脈硬化がみられる子どもたちがいる。
食品業界がなぜこれほど塩分・糖分・脂肪分に頼るのか。この三つの成分は安い。そして互いに補い合う。この三つの成分は、不自然な食品に強大な力を与えている。
業界が使う戦術の中には、一見それとはわからない巧妙なものもある。たとえば、CMや店頭でいかにも本物らしく演出される音や香り。レジのすぐ近くに置かれたソフトドリンクの棚。目の高さに置かれた、利益率が最も高く健康に最も悪い一部の商品。逆に、全粒粉の小麦粉や無添加のオーツ麦といった基本的な食品は最下段、新鮮な果物や野菜は店の端のほうに追いやられていることがある。こうしたさりげない戦術を知っておくことが鍵だ。
しかも、加工食品は魅力を最大限に高めるという意図のもとで開発されている。いや、緻密な計算のもとで設計されていると言うほうが適切だろう。売り場を通りかかってつい手に取ってしまったが最後、われわれは次回もその味をしっかり覚えている。そして何より、加工食品の原材料とその配合は、熟練の科学者や技術者たちが計算しつくしたものだ。知っておくべき最も重要なポイントは、食料品店の店頭に偶然の要素は一つもないということである。すべては目的に沿ってなされている。
原材料、心理トリック、マーケティング手法などはどれも、商品をカートに放り込ませることを狙ったものだ。向こうは塩分・糖分・脂肪分を手中にしている。しかし、最終的な選択権はわれわれの手にある。何を買うかを決めるのは私たちだ。どれだけ食べるかを決めるのも私たち消費者である。
食品産業はさまざまなトラップを仕掛けてくる。その仕掛けを知っていることが、自分たち自身を守る力となるはずだ。
マイケル・モス
『ニューヨーク・タイムズ』記者。カリフォルニア州ユーレカ生まれ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』『ニューヨーク・ニュースデイ』などを経て現職。2010年に食肉汚染の調査報道でピュリッツァー賞を受ける。1999年と2006年にも同賞のファイナリストとなった。コロンビア大学大学院でジャーナリズム学准教授なども務める。ブルックリン在住。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO75504010R10C14A8000000/
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