03. 2014年7月01日 09:29:31
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いずれにせよ、あまり期待するべきではないなhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41092 JBpress>日本再生>オピニオン [オピニオン] あきれるほど自浄作用が欠如した東大病院 東大病院のSIGN研究ノバルティス社不正関与事件「最終報告」を読む 2014年07月01日(Tue) 関家 一樹 6月24日、東大病院は「SIGN研究に関する調査(最終報告)について」と題して、記者会見を行った。 東大病院が開いた記者会見(筆者撮影) この記者会見では、表題となっているSIGN研究のほかに、ノバルティス社(以下ノバ社)が不正関与したSIGN研究以外の4臨床研究、アルツハイマーの大規模調査研究「J-ADNI」、さらにブリストル・マイヤーズ社の臨床研究不正関与についても公表がなされた。
今回の記事では、SIGN研究に絞って「最終報告」の内容を検討していきたい。 2倍以上の期間、3分の1以下の内容 SIGN研究は東大病院に事務局を置く研究会組織TCCが主導して行った、慢性骨髄性白血病治療薬「タシグナ」に関する医師主導臨床研究である。研究責任者は東大病院血液腫瘍内科の黒川峰夫教授であり、運営を進めたのは黒川教授の部下A医師である(最終報告書ではA医師は実名であるが、研究代表者は黒川教授であることから仮名とする。引用部分も適宜修正する)。 今年の1月17日、この医師主導臨床研究であるSIGN研究に、当該薬の製造元であるノバ社が不正関与していたとNHKに報道される。3日後の1月20日、ノバ社は社内調査を終え、不正関与があったとする記者会見を行う。 東大病院は報道後、長らく沈黙するが3月14日に予備調査委員会の中間報告(以下中間報告書)として記者会見を行い、不正関与があった事実を認める。 その後、東大病院はまた長い沈黙を再開する。この間4月2日にノバ社は社外調査委員会の最終調査報告書(以下ノバ社報告書)を公表し、翌4月3日には人事処分を行った。 そして今回、最初の報道から5カ月を経て、東大病院はSIGN研究についての最終報告(以下最終報告書)を行った。 つまりSIGN研究の一方の当事者であるノバ社は報道から2カ月半で、社外調査委員会の最終調査報告と人事処分も終えているのに、東大病院はその2倍の5カ月以上をかけて内部調査を行ったことになる。 また内容量については、ノバ社報告書が96ページであるのに対して、東大病院の最終報告書の主要部分は28ページであり約3分の1である。もちろん報告書は長ければ良いというものではないが、この最終報告書は内容的にも問題が多い。以下内容を検討していこう。 そもそもこの最終報告書はどの程度信用できるのか? この最終報告書は、ノバ社報告書や実際の資料に照合すると、内容の信用性に疑いを抱かせる部分がある。それどころかこの最終報告書内だけでも、信用性を傷つける不自然な個所が存在する。 その最大の点が黒川教授のノバ社不正関与への認識と関わりである。 最終報告書の「SIGN研究特別調査 予備調査委員会報告書」(以下特記なきは同書)22ページでは「黒川教授は(中略)病棟にN社社員が出入りしていることやTCC の事務局機能が代行されていることを認識していなかった」(N社はノバ社)と記述されている。 これは最終報告書の地の文の部分である。つまり予備調査委員会は以上の事実を認定した、ということになる。 ところが黒川教授が上記のように「認識していなかった」とは到底考えられないような事実が、この最終報告書内にはたくさんある。 一例を挙げると11ページでは「発信者TCC 事務局、黒川教授名及びA医師名のメールは、N社社員がその原案を作成し、それぞれの確認、了解のもと、N社社員が黒川教授名又は、A医師名で発信していた」との事実があったとされている。 つまり黒川教授は、TCCで発信する自分名義のメール文面をノバ社MR(医薬情報担当者、実態は製薬企業の営業担当)に作成させ、その内容を確認し発信の許可まで与えていながら、TCCの運営にノバ社MRが関わっていたとは認識していなかった、ということになる。 このあまりにも異常な点について記者会見で質問をしたところ、予備調査委員会の斉藤延人委員長は、黒川教授がノバ社MRの関与について知らなかったとしている部分は黒川教授がそう主張したにすぎない、との趣旨の回答をした。 またこちらの質問終了後、門脇孝病院長が自発的に、この点については自分も不自然に思い黒川教授に問い質したが、ノバ社の関与を知らなかったとの回答しか得られなかった、との趣旨の発言をした。 なお記者会見には黒川教授のほか、実際の事件当事者は参加しておらず、また今後も彼らが記者会見等を行う予定はない、との回答を苫米地令コンプライアンス担当理事からいただいた。 つまり22ページの「黒川教授は(中略)病棟にN社社員が出入りしていることやTCC の事務局機能が代行されていることを認識していなかった」の部分は地の文でありながら、黒川教授がこのように主張した、という記述にすぎないらしい。 通常、関係者から聴取した内容と、その発言が信用できるかを検討した結果認定する事実、とは厳に峻別されねばならず、こうした調査報告書ではなぜ信用できるのか否かの理由まで書く。ノバ社報告書や、他の製薬企業でも社外調査委員会作成の調査報告書はいずれもそのようになっている。 黒川教授がこの期に及んで、このような主張をしているということには驚きを禁じ得ない。もしこれが真実でないのなら、黒川教授は今すぐ記者会見を開き自らの口で事情を説明した方がいい。 話がそれたが以上のような事実からもこの最終報告書の信用性については、ある程度割り引いて考え読む必要がある。 何をやったのか全く不明な特別調査委員会 先ほどから最終報告書における予備調査委員会の記述について、検討してきたが、今回の東大・東大病院の調査の構造は、 ●東大病院の予備調査委員会(活動期間2月26日〜5月19日)の調査を経て、 ●東大本部の特別調査委員会(活動期間4月17日〜6月12日)が調査を行い、 ●東大本部がその報告を受け取り今回の記者会見を行った、 という建前になっている。 本来この記事でも、特別調査委員会の報告について検討すべきなのだが、特別調査委員会の「調査結果の報告について」と題する文章は4ページしかなく、その内容もほぼ予備調査委員会の調査結果の要約にすぎない。 実際、特別調査委員会は3回しか開かれておらず、うち1回に至ってはメールのやり取りで、残りの2回も予備調査委員会の報告を受けたのが中心であったようだ。2回目には黒川教授からの聞き取りを行った旨が記載されているが、特段聞き取り内容や聞き取りに基づく評価は記載されていない。 それどころか、先述のような黒川教授に関する異常な記載や、その他の不自然な部分が予備調査委員会の調査結果には多々あるにもかかわらず、特別調査委員会は「本特別調査委員会は、別添医学部附属病院の予備調査委員会による『SIGN 研究特別調査予備調査委員会報告書』(中略)における種々の事実の認定に関し、研究代表者からの聞き取り調査を含め専門的かつ客観的な審議を行い、上記2つの報告書の認定に不合理な点はないと判断した」そうだ。 特別調査委員会は松本洋一郎副学長を含め5人で構成されており、うち弁護士は三宅弘弁護士1人である。ちなみにノバ社の社外調査委員会は弁護士約30人で構成されている。 なお、特別調査委員会の山口厚委員は法律業界では知らない人がいない日本刑事法界の第一人者であるが、証拠と事実認定の区別もできていないような調査報告書を「不合理な点はない」と言う程度の人物であることが今回明らかになった。これは特記しておく。 さらに問題なのは、この最終報告書にはSIGN研究に関わった研究者の責任関係についての記述が一切なく、当然処分案についての記述もないということだ。 このあたりは各委員会をどのように切り分けるかという制度設計の問題にもなるが、昨今話題になっている理研でも明らかなように、通常は調査委員会が当事者の責任関係まで明らかにし、懲戒委員会は処分の内容についてのみ決定し、非違行為の事実認定は行わない。 東大は今後関係者を懲戒委員会に付議するということだが、東大の切り分けだと、この懲戒委員会で当事者の責任関係も明らかにしていくことになる。 つまり世間一般の常識では今回の最終報告書は「最終」とは言えず、今後の懲戒委員会の結果まで最終的な結論は持ち越されたという状況だ。 東大のこのような制度への認識の甘さと妙な縦割り主義が、研究不正を生み出す原因の1つになっていることは、最終報告書自身が婉曲にではあれ述べているところなのだが、パラドクスとしては興味深い。 本質に迫れていない内容 ▽利益相反 東大病院がなかなか本質に迫れていないことは利益相反に関する記述から如実に分かる。 「本研究関係者の利益相反申告に関しては、学内や学会発表における現行の利益相反規定に基づいて申告されており、明白なルール違反はなかった。しかしながら透明性の観点から、N社からTCCへの役務提供があったことや、研究代表者がタシグナ適正使用推進アドバイザー等に就いていたこと等は、この研究自体に関する利益相反として倫理審査申請時や学会発表時に開示しておくべきであった」(4ページ) このように一見すると「利益相反がなかった」かのように思える書きぶりをしている。この点についても記者会見で質問をしたところ、斉藤委員長は「利益相反があった」ものと認識している、と明言した。 そもそも東大病院は中間報告書の段階では、最大の問題であるMRの役務提供を検討せず、なぜか一番緩い学会発表時の利益相反基準に照らして利益相反がなかったと結論づけていた。その後、様々な方面からの指摘やノバ社報告書の記述により、最終報告書では以前はなかった記述が追加されている。 「そもそも医師主導臨床研究において利益相反関係にあるN社社員による役務提供があったこと自体が不適切である。また同様に、研究代表者(黒川教授)がタシグナ適正使用推進アドバイザー等に就いていたことは、利益相反関係にあったと判断されるが、その事実が本研究の倫理委員会申請時に申告されていなかった。以上の様な利益相反関係に関しては、インフォームド・コンセントの手続に必要な事項であったが、臨床研究計画及び患者説明・同意文書に記載されていなかった」(19ページ) 東大病院がなかなか自発的に本質的な問題点に切り込めていないことが、東大病院自身の報告書を比較することで見えてくる。 ▽奨学寄付金 奨学寄付金について最終報告書は「本研究が計画されてから今年度までの寄付額は2011 年度200万円、2012年度300万円、2013年度300万円であった。本研究に直接関する奨学寄付金はない」(11ページ)と記述しノバ社の奨学寄付金が、SIGN研究の見返りとして支払われたものではないと認定している。 しかし寄付をした側であるノバ社報告書70ページでは様相が異なる。少し長いが研究不正が生まれる本質が表れている場所なので引用したい。 「支出の制約がなく手続も簡易なことから、営業現場では、奨学寄附金を営業活動の手段または医療機関にMRが出入りするための前提として用いていることがうかがわれる。実際、一部の医療機関等から、露骨な奨学寄附金の要求が行われている事実がうかがわれる記載を含む資料もあった。こうしたことからも、医療機関等が製薬企業に財源的に依存している実態がうかがわれるところである。また、NPKKの医薬品を使用したIITを実施してもらうこととの見合いで寄附されることが多かった模様である」(NPKKはノバ社、IITは医師主導臨床研究) このように奨学寄付金が実際には製薬企業の営業ツールとして使われ、医療機関の側もそのことを認識したうえで奨学寄付金を求め、見返りとして寄付元の企業に便宜を図る、という研究不正の構図が出現する。 このことを正面から認めず、使途が自由な奨学寄付金は中立的な資金である、という建前を唱えるだけでは、研究不正の本質から目を背けていると言わざるを得ない。 ▽TCCの運営費用 最終報告書ではTCCとSIGN研究の運営費用について、 「研究経費は、TCCの会費から支弁されている」(7ページ) 「会の運営資金は、TCCの開催する研究集会への参加費を持って会費とし、参加費は一人1,000円。TCC が設置された年からの各年収入は、2008年43,000円、2009年60,000円、2010年42,000円、2011年28,000円、2012年28,000円、2013年35,000円であった。その使途のほとんどがSIGN研究である」(8ページ) と記載し、あたかもTCCが年数万円の資金で細々と運営していたように書かれているが実態は異なる。本来TCCが支払うべきであった経費は役務提供を含めてノバ社が大幅に肩代わりしているからだ。 このことは最終報告書自体も認めている。 N社はTCC講演会を共催し、その開催に要する会場借料、講師謝金、交通費、懇親会費として以下の額を支弁していた。 2008年1,541,152円、2009年1,953,208円、2010年1,870,148円、 2011年1,791,246円、2012年1,890,678円、2013年2,196,328円 これらはTCC収入に入らない形でN社の会計で処理されていた(11ページ)。 この点についてノバ社報告書72ページはより直接的に書いている。 「TCCが行う講演会は年に1回だけであり、その唯一の講演会がNPKKとの共催としてNPKKの費用負担で賄われている。また、講演会に参加した医師の負担が1人1000円にすぎないのに対し、NPKKの負担は220万円を超える。また、講演会の準備や受付・誘導等も全てNPKKの従業員が行っている実態に照らせば、このような講演会は、まさにNPKK丸抱えの講演会と評価せざるを得ない」 TCCがノバ社の丸抱えの団体であることはSIGN研究に参加した医師たちには周知の事実であるのに、その点について東大病院の最終報告書は切り込み切れていないのである。 ▽小括: 不正関与を招く本質とは 以下は私見を述べるが、研究者の側から見たときに医師主導臨床研究への不正関与を招く原因は、 (1)「資金」として奨学寄付金・役職就任・講演料を製薬企業に依拠しており、研究室の運営・大規模研究の遂行・自身の収入のためには製薬企業の意向を無視できず、また製薬企業を利用する必要があること。 (2)「人員」として書類作成等の単純作業・統計解析等の高度作業・研究参加依頼や進捗管理に必要な営業担当が研究室におらず、MRがそれを補う慣習が存在していたこと。 (3)「ノウハウ」として研究で使用する各種書式・実施計画書の策定・研究事務局の運営を、海外などを含め当該薬の研究に関わっている製薬企業の方が保有していること。 ではないかと考えられる。 そして本来「医師主導臨床研究」でなければ許容される行為が多い中、それでも「医師主導臨床研究」を選択していた理由は、倫理委員会や製薬企業内での承認に手間がかかることと、製薬企業が営業に利用し研究者が業績として発表する際に「医師主導臨床研究」の方が聞こえがいいからであろう。 このあたりの原因を認識しなければ、対策を立案し研究不正の事前抑制を行うことは難しいように思えるが、この最終報告書では既に見たようにいま一つの状況である。当然次に見ていく改善案も、どこか上滑りした内容になっている。 上滑りする改善案 特別調査委員会が示した改善案は大きく分けて3系統である。 (1)倫理教育 (2)倫理申請・監査の改善 (3)MRの入館制限 それぞれ問題点が多いので見ていこう。 ▽倫理教育について 特別調査委員会は「医学部附属病院では研究倫理教育を行っていたにもかかわらずこのような問題が発生した背景には、臨床研究、特に研究者(医師)主導の臨床研究に関する知識の不足と心構えの甘さが根底にあり、また、利益相反に関する自己申告に具体的な例示が乏しく、自主的に判断して行わなければならないところにある。より具体的な事例に基づいた教育が必要と考えられた」と述べ、最終報告書の5ページでは「再発防止のために、利益相反の管理と臨床研究の信頼性確保に関する教育を職員に徹底する。『東大研究倫理セミナー』を改善し、e-learningも併用して臨床研究者の教育を行う」としている。 既に再三指摘しているが黒川教授はこの倫理セミナーの講師を務めていた。 3月14日の中間報告書の段階でも、倫理セミナーの活用が掲げられていたが、当時の記者会見で質問した際に門脇病院長は黒川教授が講師を務めていた事実を認識していなかった。 今回の最終報告書ではさすがに以下の記載が加えられている。 「特に黒川教授は臨床試験審査委員会委員長や東大研究倫理セミナーの講師を歴任し、十分に知識や情報を持ち他に範を示す立場にありながらこのような事態が生じたことは誠に遺憾である」(22ページ) またA医師は本来SIGN研究の倫理申請をすべきIRBという審査の厳しい委員会を意図的に回避し、別の倫理委員会に申請を行った可能性が疑われる。 さらにA医師は最終報告書記載のメールのやり取りからも、ディオバン(バルサルタン)に関する不正関与事件のニュースを見て、SIGN研究が問題にされる可能性があることを認識していた。 つまりSIGN研究事件は十分に知識のあった人たちが引き起こしている。したがって同様の事例は教育により回避できるものではない。 ▽倫理申請・監査の改善 倫理申請の改善については以下のような記述がなされている。 「利益相反申告書作成時に、詳細な自己点検チェックリストを利用することにより、不適切な利益相反関係の存在を申請者自身が自己点検できるようにする。またこのチェックリストを申請書に添付するようにして、倫理審査時や利益相反管理で適切な対応をするために活用することとした」(24ページ) 「利益相反アドバイザリー機関は利益相反自己申告の内容によっては、利益相反の観点から研究計画自体を不承認とする助言を与えたり(後略)」(24ページ) 「倫理審査申請時に個人情報の扱いに関するチェックリストを記載するようにして、個人情報の問題を研究者が自ら認識する様にし、また、その適正性を倫理審査委員がチェックし、審査の過程で直接研究担当者に確認できるように改定する」(25ページ) そもそも各種書類作成の手間をMRに代行させていたことが、今回の不正関与の一形態である。にもかかわらず改善案でさらに手間を増やすというのはどういうことなのだろうか? また誰が「不承認」とされるようなチェックリストを提出するのだろうか? 既に倫理教育の部分で検討したが、SIGN研究ではそもそも意図的に虚偽の申請書が提出されているのである。いくらチェックリストを増やしたところで歯止めにはならない。 次に監査機能の強化は、ぜひ行われるべきだろう。しかしこちらも注意が必要である。 対策案を見ると、利益相反アドバイザリー機関に「専任の職員」を配置したり「平成26年度中に監査・信頼性保証室を新設」するなど、予算と人員のかかりそうなことばかりが書かれている。 文科省から予算がついたのか、もしや天下りのポストになるのではないかと勘繰りたくなる。 実効性のある機関になるのか、十分に監視していく必要があるだろう。 ▽MRの入館制限 東大病院では4月から、アポなしのMRの病院内への入館を禁止し、面会する場合も区域を制限しているとのことだ。 しかしそもそも先に見たように、研究責任者である黒川教授は「病棟にN社社員が出入りしていること」を認識していなかった、と主張しているのである。 また東大病院の最終報告書ではなぜか記載されていないが、ノバ社報告書によると、SIGN研究の実施計画書の検討会議はノバ社の会議室でA医師を交えて行われており、実施計画書の発表はノバ社のイベントで黒川教授とA医師が行っている。 MRの入館制限がどの程度研究不正の抑止に役立つのか疑問である。 ▽小括: 結局どうすべきなのか こうした研究不正は既に検討した本質からして、事前抑制で完全になくすことが難しい。事後抑制となる処分を粛々と進めていくことが肝要である。 既に東大病院と東京大学にはちゃんとした内規があるのだから、それに従って運用を進めていけばよいだけである。「e-learning」よりも「○○教授はこれをやって処分されました」の方が具体的であり、身につまされるだろう。 また最終報告書に記載されているように「東大病院においては以前より、臨床研究に対し企業から直接研究資金や試験薬の提供がある場合には、寄付ではなく受託研究契約により受領し、当該企業から独立して計画・実施・解析することを、契約書中に明記するように対応してきた」(25ページ)という、契約型研究への交通整理を進めていくことも、現状の研究が製薬企業への依存体質から脱せない中で、不正関与が起きないようにするための策ではないだろうか。 東大病院の考える患者さんへの「適切な対応」とは 最終報告書は冒頭で「臨床研究の信頼性を損ねる事態を起こしたことは遺憾である。患者の個人情報の流出に関して、患者保護の観点から説明と謝罪を含めた適切な対応を行っている」(5ページ)と述べている。 また患者さんの臨床研究参加の同意について瑕疵があったことも、先だって倫理教育の箇所で引用した部分で認めている。 そして最終報告書は後半部分で「当院から患者個人データが流出したことは極めて遺憾である。まず患者へ状況の説明と謝罪を早急に完了する必要がある。(中略)当院の患者に関しても報告と謝罪を4 月中に行なっている」(20ページ)と述べている。 SIGN研究の研究不正が一般に報道されたのが1月17日であることからすると、東大病院は患者への報告と謝罪に3カ月かかったということになる。 これが東大病院の考える「適切な対応」である。 まだまだ研究不正が出てきそうな東大病院 この記事では扱わなかったが、東大病院では1月25日と3月23日に任意でアンケートを研究者に対して行い、ノバ社関係でSIGN研究のほかに4件の不正関与事件があること、新たにブリストル・マイヤーズ社関係で1件の不正関与事件があることを明らかにした。これらはいずれも黒川教授が率いる血液腫瘍内科で行われていた研究である。 また血液腫瘍内科以外のものとして、今回の記者会見では急遽認知症研究の「J-ADNI」についての報告もなされた。 門脇病院長は記者からの質問に「これ以外に不正事件はない」と答えていたが、武田薬品工業の降圧剤を扱った「CASE-J」や、エーザイが関わる「J-ADNI」を見るにそれぞれの診療科のヒット薬剤に関わる研究では、ことごとく同様の不正関与が行われていた可能性が高い。 今後も上市薬に関する主要研究を、再確認していく必要がある。 「医師主導臨床研究」が、真に「医師主導」の臨床研究になるよう、この記事が資すれば幸いである。 |