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臨床研究
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投稿者 あっしら 日時 2014 年 6 月 16 日 03:53:38: Mo7ApAlflbQ6s
 


※ 日経新聞連載記事

臨床研究

(1) 患者の協力で実施

 臨床研究は、患者や健康な人の協力を得て実施する医学研究です。病気の原因解明や予防、診断・治療の改善、患者の生活の質向上などを目的としています。主に、地域住民などに検査データや血液サンプル提供などをお願いし数十年間追跡する「観察研究」と、患者に研究に加わってもらう「臨床試験」があります。

 観察研究では病気の発生率や原因を調べます。成果の一例としては、心筋梗塞や脳卒中などは高血圧、糖尿病、高コレステロール血症といった生活習慣病が原因だとわかりました。一方、臨床試験は、薬や医療機器などの安全性と有効性を調べます。

 臨床試験はさらに分類されます。一つは企業が主導し、新薬などの発売前に実施する「治験」です。薬事法に基づいて厳密に進められ、得られたデータをもとに厚生労働省が審査し、承認されて初めて医療機関で使えるようになります。

 もう一つは医師が主導する「市販後臨床試験(医師主導型臨床試験)」です。市販された薬や機器を医療現場で使う場合の長期的な有用性を検討します。薬などの効果を確認するだけでなく、別の治療法との優劣も検討します。

 このほか、医師が薬になりそうな新物質を患者に投与し、安全性などを確かめる試験も臨床研究に含まれます。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞5月4日朝刊P.16]
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(2)法適用されず 倫理指針のみ

 新薬などの承認を目的にする治験は通常、製薬企業や医療機器メーカーなどが実施します。多くの場合、治験を支援する専門会社に委託し、薬や検査などの費用は企業がすべて負担します。

 これに対し、医師が主導する市販後臨床試験は、承認済みの薬や機器を臨床現場でよりよく使うため、治療法を検証します。通常の診療の中で実施する例が多く、試験中の薬代や検査費は医療保険を使って支払われます。それ以外の費用は医療機関の研究費や製薬企業などの支援でまかないます。

 研究者はこの試験の成果を、医療関連の学会で発表したり、論文として専門雑誌に掲載したりします。専門家は新しい治療情報として、講演会などで多くの医師や薬剤師に伝え、医療水準の向上に役立てます。

 また、試験で有用性が高い薬だと判断されれば、医師が治療時に参考とする「診療ガイドライン」に反映されることがあります。製薬企業は、自社の薬が高く評価された場合、販売促進に活用します。

 医師主導の市販後臨床試験は海外と異なり、薬事法などの法規制が適用されません。倫理指針があるだけです。このことが、昨年から相次いで発覚した臨床試験の不正問題の原因になっているとの指摘があり、見直し議論が始まっています。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞5月11日朝刊P.16]

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(3)根拠に基づいた医療 きっかけ

 医師が自主的に実施する医師主導型の臨床研究が盛んになったのは、1980年代以降に英国やカナダを中心に普及した科学的根拠(エビデンス)に基づいた医療(EBM)が、日本でも定着し始めてからです。科学的根拠とは大勢の患者を対象にした臨床試験で治療法が本当に有用であることが証明されることです。

 これは今では当たり前の考えですが、以前は日本でも欧米でも状況が異なっていました。権威のある医師が限られた患者に使って効果があったという「経験に基づく治療」や、ネズミの実験でよい効果を得たとされる「実験に基づく治療」が評価され、多用されたのです。

 たとえば、日本では80年代に認知症の薬として広く使われた脳循環代謝改善薬がありました。厚生省(当時)が承認した直後から効果を疑問視する声もありましたが、目立った副作用もないことから多くの高齢者に処方され爆発的に売れたのです。

 しかし、EBMの定着により厳密な臨床試験を実施した結果、複数の薬で効果が確認できず、承認が取り消されました。医師にとっては、効果が十分でなくても副作用のない薬は使いやすく安心して患者に処方できます。このため「毒にも薬にもならない」薬剤が使われ続けました。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞5月18日朝刊P.16]
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(4)二重盲検法とプローベ法

 科学的根拠に基づく医療が重視されるなか、その根拠はどんな方法で得るのでしょうか。薬の市販後の有効性などを医師主導で調べる臨床試験でよく使うのは「ランダム化比較試験」です。

 ランダム化とは患者を無作為に2つの群に分けることです。一方には調べたい本物の薬を、もう一方には偽薬や既存の薬を飲んでもらいます。一定期間追跡した後、両群の効果と副作用を統計学を使って比べます。ランダム化比較試験の方法は2種類に大別でき、「二重盲検法」は患者や医師もどちらの群に入っているのかわかりません。

 もう一つの「プローベ法」はどちらの群なのかあらかじめ患者や医師に知らせます。ただ試験の評価は、どの群か知らない第三者が担います。結果の信頼性と中立性を高める狙いです。この手法は、高血圧に対する薬の大規模臨床試験で初めて使われました。厳格な二重盲検法では患者から参加の同意が得にくく、費用もかさむため、日本ではプローベ法がよく使われます。
 ただ、プローベ法は設定した評価項目によっては、医師の意図的な判断に左右される可能性も否定できず、偏りが生じる可能性が指摘されています。狭心症による入院という項目は、その一例です。特に企業による経済支援で実施された試験は注意が必要といわれています。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞5月25日朝刊P.16]
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(5) 倫理委で計画が適正か審査

 薬の市販後に医師主導で実施する臨床試験は、医師が日常の診療で新薬などを患者に処方する中で気がついた新しい効果や副作用などを科学的に確認・証明するのが狙いです。薬事法の規定の下で実施される治験と違うため、国に届け出る義務はありません。
 その代わり、研究を始める際に各医療機関の倫理委員会の審査を受け、承認を得ます。厚生労働省などの指針で定められている手続きです。倫理委員会の委員は、実施医療機関や外部の専門家で構成され、試験計画が適切か、被験者の不利益がないかなどを審査します。ただ、申請件数が非常に多い大学などでは、専門家不足などと相まって、審査が不十分なケースも少なくありません。審査の質がばらつく原因になっているといわれています。

 また、医師主導の臨床試験を実施する際の懸念の1つは「利益相反」です。実施費用は、医師や研究者が自ら調達しなければなりません。しかし公的資金は限られており、製薬企業が提供する資金に頼る例が多いのが現状です。
 この場合、患者の利益を第一に考えて行動すべき医師や研究者が、自分たちや資金提供元の企業の利益を優先しかねない状況が生じます。これに対処するため、論文や学会発表で利益相反関係の開示を義務づけて、臨床試験の公平性を示すようになりました。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞6月1日朝刊P.16]
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(6) 指針に限界、法規制を検討

 日本の医師主導の市販後臨床試験は法律ではなく厚生労働省や文部科学省が作った倫理指針を、研究者や医師が順守しながら進めます。しかし指針が複数あり、わかりにくいという指摘が出ています。
 例えば、「ヒトゲノム(全遺伝情報)・遺伝子解析」「ヒト幹細胞」「遺伝子治療」「疫学研究」で個別の倫理指針が作られています。これらを除く臨床研究に適用される指針もあります。最近、疫学研究と臨床研究の指針を1つにまとめることが決まりました。

 日本の運用は、法律がなくても指針が出ればきちんと守るという性善説に基づいているといえるでしょう。ところが昨年から、製薬企業が資金を提供した医師主導型臨床試験で、不正が相次いで発覚しました。指針による運用の限界が露呈したともいえる事態で、厚労省の専門家委員会は「法規制も検討すべきだ」との報告書をまとめました。
 ただ、法規制に反対する意見も少なくありません。監視システムの整備や書類づくりなどで膨大な時間とお金を費やす必要があるからです。英国では医師主導の臨床試験に法の網をかぶせたところ、実施件数が激減してしまいました。このため、規制を緩和する方向です。こうしたことも反対意見の論拠になっています。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

[日経新聞6月8日朝刊P.16]
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(7)ルールや倫理の教育徹底を

 ノバルティスファーマ社の高血圧症治療薬「ディオバン」を使った臨床研究で不正なデータ操作があり、逮捕者まで出たのを報道でご存じの人も多いでしょう。この件では京都府立医科大学、東京慈恵会医科大学など5つの大学で実施した研究に、同社の社員が参加しながら所属を開示しませんでした。
 本来は第三者が担うべきデータの管理や統計、論文作成に、利害関係がある製薬会社が深く関与していたことは、利益相反の面から不適切です。同社が多額の奨学金を大学に提供していたことも明らかになりました。研究者と製薬会社がもたれ合い、モラル低下が起きていたといわざるを得ません。

 これは医療への国民の信頼を裏切るだけでなく、日本の医学研究に対する国際的な信用を失墜させかねない問題です。厚生労働省は原因究明と再発防止のための委員会をつくり、私も加わりました。そこで判明したのは、研究責任者が臨床研究のルールや統計の知識を、十分持っていなかったことです。

 今回のような問題が再び起こるのを防ぐには、ルールや倫理に関する教育の徹底が欠かせません。法律による規制が必要との意見も出ています。これを機に、患者の権利を守りながら、患者に役立つ信頼できる臨床研究を推進していくことが重要です。

(回答者=桑島巌・NPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長)

=この項おわり

[日経新聞6月15日朝刊P.15]

 

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