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血圧・血糖値・コレステロールこれが正常と異常の分岐点です【第1部】患者は二の次で大ゲンカ 医療費を減らしたい役人が悪いのか、薬を売りたい製薬メーカーが悪いのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39291
2014年05月20日(火) 週刊現代 現代ビジネス
健康診断で「異常」だと判定された人は、本当に病気なのか―組織の利益のために蠢く悪いヤツらにだまされないために、いま知っておきたい本当の基準値とは?
■今までの薬は何だったのよ?
「私は上の血圧が130~150を行ったり来たりで、血圧の薬を飲むようになりました。食事でも塩分控えめを心がけてきた。ところが、新しい基準では、私の血圧値では高血圧ではないとなっている。今までカネを払って薬を飲まされていたのは、何だったんだって話ですよ。自分が病気なのか、健康なのか、訳が分からなくなりました」
こう憤るのは、山沢弘一さん(67歳/仮名)。血圧の新しい基準というのは、日本人間ドック学会が4月4日に発表したものだ。現行の健康診断では、上が130以上、下が85以上なら「血圧が高い」と判断されているが、この新基準に従うと、上は147まで、下は94までが「正常」とされる。
この基準値は、人間ドック学会と健康保険組合連合会(以下、健保連)が150万人を対象に行った共同研究に基づいてはじき出されたもの。だが、その値が従来のものとあまりに異なるため、大混乱を巻き起こしている。山沢さんのような患者たちは、いったい何が正しい基準なのか、どこまでが健康で、どこからが病気なのかが分からなくなり、不安に駆られている。
混乱しているのは素人だけではない。この新基準値をどう見るかについて、医療・製薬のプロたちの意見も真っ二つに割れて、「大ゲンカ」になっているのだ。
たとえば、慶応大学病院腎臓内分泌代謝内科の猿田享男名誉教授は、新基準を次のように一刀両断する。
「人間ドック学会が出した数字はまったくのデタラメです。もし患者さんが、血圧147は問題ないと信用してしまって、病気が悪化したり、亡くなったりしたらどう責任を取るつもりなのか。私は、患者を混乱させるような数字を出すなんてけしからんと、人間ドック学会と健保連に抗議しました」
その一方で、新しい健康基準を歓迎する声もある。関東医療クリニック院長で近著に『高血圧はほっとくのが一番』がある松本光正氏は語る。
「上が130を超えると高血圧という今までの基準は厳しすぎます。高齢者であれば、慢性的に190や200くらいあったって元気な人は一杯いますよ。私が診た患者で95歳で亡くなった男性は、60歳頃から最高血圧は220もありましたからね」
このように、血圧の基準値一つをとっても、まったく異なる立場が存在している。人間ドック学会は他に、血糖値、コレステロール、尿酸、中性脂肪といったさまざまな項目について新しい基準値を定めたが、どれも現行の基準を緩和するものばかり。それに従うと、今まで病人扱いされ、薬を処方されていた人たちのうち、かなりの数が「健康」だったことになってしまう。
■病人の数を増やせ!
医療のプロの間でも意見が割れているのでは、我々一般人は判断のしようがない。結局こうした混乱で、割を食うのは、一般の患者である。前出の山沢さんは、現在、降圧剤の他にコレステロールや血糖値の薬など計6種類を処方されているという。
「これはムダだったのか。私は健康体なのに、無理矢理、薬を飲まされていたのか。まったく意味が分かりません。かと言って、病気じゃない保証もないから、今さら薬をやめるのも怖い。いったい何を信じればいいのか。お医者さんたちは患者の身体や生命をどう思っているんですかね」
このような患者不在の「血圧論争」が起きてしまう背景には、医学界が抱える大きな構造的問題がある。
まずは、「国民の健康を守る」という建て前で厳しい基準を設け、それによって「患者」の数をどんどん増やし、莫大な利益を上げている勢力の存在だ。
前出の山沢さんは、昨年、降圧剤の銘柄を新しいものに変えたばかりだという。処方されていたノバルティスファーマ社の薬「ディオバン」が、臨床試験においてデータの捏造があったとして問題になったからだ。
製薬業界が大学の研究機関などと結託して、自社の製品を売りさばくのに都合のいいデータを作り出すというような不正は日常的に行われている。国立大学病院で循環器系の研究を行っている医師が語る。
「データの集め方や基準の作り方は、正直どうにでもなる。サンプリングのやり方や試験期間を変えるだけで、病人の数を増やすことも減らすこともできるんです。
だから、製薬会社と研究者、医者の思惑が一致すれば、『新しい病気』を作り出し、『お客』である患者を好きなだけ作ることも難しいことではありません。
医者といえども開業医のほとんどは、最新の医学的知識など持ち合わせていません。だから製薬会社のMR(自社の薬の情報を医者に伝える役割を負う人)が言うことを鵜呑みにしてしまうんです。病院を回るMRは若くてきれいな女性も多い。ちょっとした色仕掛けですよ」
大手製薬会社でMRを担当している幹部社員は語る。
「今回の血圧の新基準は、はっきり言って製薬会社にとっては大迷惑なんです。市場規模が1兆円近くある降圧剤は稼ぎ頭ですからね」
製薬業界が宣伝を行う相手は、医者だけではない。テレビや新聞、電車や駅の中といったいたるところで、人は健康に関する情報を無意識のうちに擦り込まれている。日常的に「血圧は低くないといけない」「コレステロールは下げなければならない」と健康不安を煽られれば、「血圧が下がる」「血がサラサラになる」という食品や薬品に飛びつくようになる。まさに業界の思うツボだ。
フジ虎ノ門健康増進センターのセンター長で精神科医の斉尾武郎氏によると、このような「病気の押し売り」が、世界の医療界で問題になっているという。
「製薬会社や医療業界が、たいした病気でもないもの、誰にでもあるかすかな症状を重病だといって高額な治療をしたり、学者や医者、有名人を使って『あなたも知らない間に病気にかかっている』とキャンペーンを行うんです。日本で製薬会社が抗うつ薬を発売した直後から、うつ病患者が急増したのは典型的な例です」
そもそも上が130、下が85以上で「血圧が高い」と判断される従来の基準を定めたのは日本高血圧学会である。同学会はホームページ上で、人間ドック学会による新しい基準値は「この値の範囲であれば大丈夫ということを示す『正常』ではなく、正常と思われる人の検査の基準値」に過ぎないとして、自分たちの基準値を改める気はさらさらないようだ。
この日本高血圧学会の理事長を務めているのは、堀内正嗣・愛媛大学大学院教授である。
実は堀内教授は、ノバルティスファーマの広告記事において、ディオバンの薬効を宣伝してきた人物だ。他にも、高血圧学会の複数の幹部が『日経メディカル』などの医療誌において、ディオバンの宣伝に関わっていた(本誌の質問状に対し、堀内教授は「ディオバンの件につきましては、現在捜査が進められている状況ですので、私としてはコメントすることができません。しかしながら、私は一切、不正を行っておりません」と回答した)。
特定の組織や人物が「病気の基準」を決めて患者を作り、同じ人々が、その治療のための薬を売りまくる。この恐るべきマッチポンプこそが製薬業界のカラクリなのだ。
医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は語る。
「欧米の血圧の基準値は、人間ドック学会が出した数値よりもさらに高い数字です。そもそも、日本では約4000万人、人口の3分の1が高血圧の患者だと言われていますが、そんなバカな話ってありますか?要するに、できる限り多くの国民を高血圧の患者にしてしまい、薬を飲ませているだけなんです」
医師や研究者、製薬業界が手を結び、病気を作り上げ、医療費を肥大化させてきたことは、これでお分かりいただけただろう。
それでは、こんなデタラメな一部業界の言うことは信用せず、治療や薬の服用を思い切ってやめてしまうのが正解なのか?
残念ながら、それもまた軽率という他ない。なぜなら「少しでも患者が多いほうがいい」勢力がいる一方で、「できる限り医療費を減らしたい」という逆の意図を持った勢力が存在するからだ。
■基準が緩くても安心できない
その勢力の中心にあるのが厚労省だ。高齢化が深刻な日本では、年々医療費が増大している。とりわけ、65歳以上の高齢者にかかる医療費で32・6%という大きなウェイトを占めているのは高血圧とそれに関係する病気(虚血性心疾患・脳血管疾患など)の治療費である。
国立大学医学部で、脳卒中を研究する医師は語る。
「急増する医療費を抑えることは、厚労省にとって最大の課題になっています。今回の新基準の話は、直接厚労省が動いたわけではないでしょうが、『病人の数を減らして、医療費を抑制したい』という彼らの思惑にぴったり重なるものなのです」
愛し野内科クリニック院長・岡本卓氏も次のように語る。
「人間ドック学会がこのような基準値を出したのは、ドックで2次検査に回る人が多くなりすぎたからではないでしょうか。2次検査が増えると、それに付随してかかる保険料も増大します。人間ドックの基準を甘くして、検査の保険料を削減しようとした可能性もあります」
医療費をできるだけ抑制するために、一番有効なのは、「患者」の数を減らすことだ。たとえこれから病気にかかる可能性があったとしても、いまはまだ健康だと判断できるならば、無駄な薬を出さない―ここには、製薬業界とは真逆のベクトルが働いている。
本誌は「医療費削減を望む厚労省主導で、新しい基準値が設定されたのではないか」という趣旨の質問を厚労省健康局宛に送ったが、「そのような事実はない」という、そっけない回答だった。
だが、新しい基準値をもとにした健康診断の実施については「必要が生じた場合には、各学会の基準を参考に、有識者の議論を踏まえて、対応を検討していきたい」とのこと。
このように健康基準値というものには、さまざまな利害関係がからまっているので、今回、血圧の基準が緩めに設定しなおされたからといって、安心してはいけない。急に薬を飲むのをやめたり、健康管理を怠ったりすれば、深刻な病気にかかる患者も出てくる可能性が高いのだ。
東京医科大学循環器内科の桑島巌教授は語る。
「人間ドック学会が出した数値は誤解を招きます。すぐに『あの数字は将来の健康を約束するものではありません』と訂正するべきです。生活習慣病は自覚症状が薄いので、治療が遅れると手遅れになる場合もあります」
前出の猿田名誉教授も、同様の立場だ。
「こんないい加減な数値を公表させた厚生労働省にも憤りを感じています。厚労省の若い官僚はなにも分かっていないのでしょう」
病人を増やしたい製薬業界と、医療費を削りたい役人たちは、水面下で壮絶な戦いを繰り広げている。だが、このような「ケンカ」で犠牲になるのは結局、患者の健康なのだ。
もう誰も信じられない。では、信用できる健康基準値とは何なのか。
次章では、自分の健康を考える上で本当に役に立つ「健康と病気のボーダーライン」を明らかにしよう。
「週刊現代」2014年5月10日・17日号より
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